歴史人口学の視点と日本 『老人支配国家 日本の危機』

 
 
エマニュエル・トッド
文藝春秋 (2021/11/18)
 

 
 
フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドの政治的意見と、わたしのそれは正反対です。
 
エマニュエル・トッドは「トランプ政権の誕生は歴史的必然」「日本は核武装すべきである」と主張する人物です。
 
最近、意識しているのは「自分と正反対の意見の持ち主」の本を読むことです。
 
エコーチェンバー現象やフィルターバブルの中で内向きになり、自分の意見に凝り固まることは、かなり恐ろしい事態です。
そういう意識で、自分と正反対の政治的立場をとるエマニュエル・トッドのインタビュー集を読んだのですが、1ページ読むごとに何か所も違和感を感じる部分があり、とりあえずの目的は達成できました(笑)!
 
年を取って、若いころと違うのは「経済学者と違って、少なくとも人口統計学だけは予測を当て続けてきた」という事実を経験していることです。
バブル経済とバブル崩壊からアベノミクスに終わった失われた30年を経験した身から言えば、経済学者を信じるのは、占い師を信じるぐらいのリスクがあります。
 
エマニュエル・トッドは1976年に歴史人口学・人口統計学の手法を使い、乳幼児死亡率の上昇から30年以内のソ連の崩壊を著作の中で予測しました。1991年に実際にソ連は崩解します。
 
そしてアメリカでは現在、白人の中年男性の平均寿命が劇的に低下するという「絶望死」が起こっています。
 
 
アン・ケース
みすず書房 (2021/1/19)
 
 
 
 
エマニュエル・トッドは、1999年から2013年にかけて中年白人の死亡率が上がっていることから、なんと2016年のトランプ政権誕生を予測しました。
 
 
2021年の日本における最大の変化は、日本の自民党・岸田政権が、総選挙後の2021年11月17日に事実上の外国人移民受け入れに政策転換したことです。
 
 
 
 
この政策転換は、日本の未来に劇的な影響を与えることが予測されます。
子供たちは多民族共存の移民国家に住むことになります。
 
エマニュエル・トッドは「移民受け入れ」を日本に政策提言していますが、それは「移民への日本語教育」などの同化政策や少子化対策とパッケージになっています。
 
日本人女性が生きやすい、産みやすい環境を整えて日本人の減少を防ぎながら、同時に日本人になりたい外国人を同化していくというのがエマニュエル・トッドの処方箋であり、これは理屈としては納得できます。
 
おそらく、自民党・岸田政権による議論不足のままの外国人移民受け入れへの政策転換は、数年後にネット右翼を中心とした排外主義者による過激な主張の原因となると予測されます。
 
ドイツでもシリア難民危機の際にメルケル政権が100万人単位の移民受け入れをした結果として、 ドイツ極右政党、ドイツのための選択肢が急激に選挙で議席を伸ばしました。
 
個人的には日本における、なし崩し的な移民政策への転換には反対の立場ですが、日本政府・自民党・経団連が「移民受け入れ」に政策転換した以上、未来における「極右・排外主義者・人種差別主義者の増加」は、かなりの確率で起こると予測できます。
 
 
エマニュエル・トッドの意見では、日本における最大の問題は「少子化・人口減少」です。
日本の「老人支配の文化」では、支配層である老人(高齢男性)が文化的に優先されています。
 
とはいえ、江戸時代は、同じムラの構成員は数百年後の子孫も同じムラにいると予測されていたため、昔の日本の地域社会の高齢男性(長老)は子孫のことを考えて行動していました。
 
対照的に、現代の老人(高齢男性)は膨大な財政赤字と核廃棄物と汚染された国土を子孫に残して逃げ切るわけです。それでいて、女性にはセクハラを、若者にはパワハラとマウンティングを続けています。コロナ禍で日本の若い女性は自死を選び、子どもたちの間で自死と不登校が激増しています。
 
 
本来は女性が生きやすい社会に制度を変え、未来の世代に教育を含めてリソースを投入すべきです。外国からの移民を受け入れるなら、その子どもたちにも日本語と日本文化を丁寧に伝えて、日本文化への同化をうながしてソフトランディングを目指すべきです。
 
本来なら老人(高齢男性)中心の文化を女性と若者、マイノリティが生きやすい文化に変換する必要があったのです。もう遅いかもしれませんが。
せめて、わたしは半径2メートル以内で、そのような方向を目指そうと思います。
 
 
日本の今後のイシューは「少子化・人口減少」を中心に展開します。
外国人へのヘイトスピーチや排外主義、ジェンダー(男女の役割見直し)が今後、議論のホットスポットになるのは歴史的必然です。
 
 
これはエマニュエル・トッドの本には書いていないことですが、日本では今までにない家族形態である「生涯・独身者」「おひとりさま」が激増しています。
2015年時点で日本人男性の約23%、日本人女性の約14%が「生涯未婚」です。
2030年には男性の3割、女性の2割が「生涯未婚」と予測されています。
このような家族構成の変化は、日本社会の文化を必ず変えていきます。
 
2030年は今から8年後であり、そのような社会での鍼灸師のあり方はどのようなものであるかを考えざるをえません。
エマニュエル・トッドの歴史人口学と家族人類学からの意見は、とても参考になりました。
 
 
 

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする