【BOOK】『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』

 
 
マシュー・サイド
‎ ディスカヴァー・トゥエンティワン (2021/6/25)
 

 
 
素晴らしい本です。
 
CIAと9.11アメリカ同時多発テロ事件から話は始まります。
CIAに就職するには、2万人から1人が選ばれるという超倍率・超難関の就職試験を受けます。その結果、アメリカ最高の人材が集まるのですが、ほとんどが白人男性エリートで同じタイプの人間です。中国語・韓国語・ヒンディー語・ペルシャ語・アラビア語を話せる人材がほとんどおらず、1998年時点でさえ、アフガニスタンの言語、パシュトー語やダリー語を話せる人材は一人もいなかったそうです。
 
CIAには9.11同時多発テロ事件を防ぐための情報が充分に集まっていたのですが、白人男性キリスト教徒のWASPエリートにはイスラム世界の考え方を理解できず、情報を正確に分析できなかったのです。あまりに同質で最優秀な人材をそろえすぎて、多様性を失っていたことが組織的失敗の原因です。
 
 
一方、ナチス・ドイツの難攻不落の暗号、エニグマ・コードの解読に挑んだイギリス情報部の考え方は対照的でした。
 
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』でベネディクト・カンバーバッチが演じた天才数学者、アラン・チューリングが世界初のコンピューターであるチューリング・マシンを開発して絶対に解けない暗号を解読し、ナチス・ドイツに勝利しました。
 
 

 
 
この事実は最近まで国家機密でした。
よく言われるのは、ナチス・ドイツの科学力は完全にイギリスを上回っていました。イギリスがドイツに唯一、上回っていたのは暗号解読と外交というインテリジェンス能力だったのです。
イミテーション・ゲーム』では、天才数学者アラン・チューリング以外にも女性の暗号解読者のジョン・エリザベス・マレーという実在の人物をキーラ・ナイトレイが演じていました。
 
 
多様性の科学』では、普通のサラリーマン事務員だったスタンリー・セジウィックが暗号解読者になった経緯を書いています。
 
イギリスの新聞『デイリーテレグラフ』に超難問で70万円の賞金のかかったクロスワード・パズルが掲載されます。毎日、通勤時間でクロスワード・パズルを解いていたセジウィックは『デイリーテレグラフ』で実際にクロスワードパズルの難問を次々と解くと、イギリス軍参謀本部から招待状が届き、エニグマ暗号の解読者となります。普通のサラリーマン事務員さんが最重要国家機密チームに採用されたのです。
 
 
暗号解読責任者のイギリス軍のアラスター・デニストン中佐は最初、ケンブリッジ大学やオックスフォード大学から最高の数学者たちを集めました。しかし、それではまったくエニグマ・コードの解読には不十分でした。
 
LGBTのアラン・チューリング、女性のジョン・エリザベス・マレー、サラリーマンのスタンリー・セジウィック、ドイツ語学者や歴史学者など、とにかく多様性に富んだメンバーを集めてチームをつくりました。『ロード・オブ・ザ・リング』『ホビットの冒険』の原作者で、英語学者・言語学者・小説家のトールキンまでチームに呼んでいます。
 
サラリーマン事務員でクロスワード・パズルの達人であったスタンリー・セジウィックは、エニグマ暗号の最初の3文字が、ドイツ人オペレーターの恋人の女性の愛称であることを最初につきとめました。これは数学の天才たちには思いつかない、馬鹿げた発想です。
 
イギリス情報部は数学の天才以外の人材やマイノリティが入る多様性チームを作ることで、純血の最優秀ナチス・ドイツ・チームを打ち負かしたのです。アメリカCIAが「最優秀の人材」にこだわって大失敗したのとまったく逆の発想でした。
 
 
多様性の科学』の第5章のタイトルは「エコーチェンバー現象」で、エコーチェンバー現象とフィルターバブルの違いや、その危険なメカニズムを詳細に論じています。
 
考えてみれば、日本社会はすべてが就職試験などで「同じ服・同じ発想」など同質のヒトを採用しがちで、しかも入社してから同調圧力で染め上げます。
 
創業したころの本田技研やソニーなどの企業は、実はさまざまな階層から異質な人材が集まり、多様性に富んでいたことは多くの記録があります。
 
自分の中に、どのように認知的多様性を取り込んでいくかを考えていきたいと思いました。
 
 
【目次】
第1章 画一的集団の「死角」
第2章 クローン対反逆者
第3章 不均衡なコミュニケーション
第4章 イノベーション
第5章 エコーチェンバー現象
第6章 平均値の落とし穴
第7章 大局を見る

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