【BOOK】『集まる場所が必要だ――孤立を防ぎ、暮らしを守る「開かれた場」の社会学』

 
 
エリック・クリネンバーグ
英治出版; New版 (2021/12/25)
 

 
 
2021年12月25日に出版されたエリック・クリネンバークの『集まる場所が必要だ』は、739人の熱中症による死者を出す大惨事となった1995年のシカゴの熱波から始まります。
 
2012年のハリケーン・サンディによる死者の7倍が熱中症で亡くなりました。
ニューヨーク大学社会学教授であるクリネンバークはシカゴ出身で、一人暮らしの高齢者の死者が出た地域を調べていきます。貧困地域でも社会的インフラがあり、友人や知り合い、地域住民の助け合いや協力がある地域では死者は驚異的に少ないことがわかりました。
 
社会的インフラとは図書館や学校、遊び場、公園、商店街、ショッピングセンター、カフェなどです。
社会的インフラがあり、多様な人々が交流する場所があるところでは、(図書館のような緩やかな)相互監視があるため、犯罪は少なくなります。誰もいないシャッター商店街では犯罪が激増します。
 
学校でも、マンモス学校では進学率は低くなり、小規模で異種交流があるところでは「学び」が多くなります。
 
 
健康も同じです。
 
コミュニティが失われてしまうと薬物中毒や自殺などの絶望死が起こります。社会インフラや社会関係資本、多様な人々が交流するコミュニティがある社会は、災害に対して耐性があります。
 
 
コロナ禍でも、集まる場所は人間の精神的健康と身体的健康、幸せに生きるために必要というのがクリネンバーク教授の主張です。
 
「日本は命に係わる問題に直面している。危機や異常気象のときに、最弱者であるお年寄りを守るためにも、社会的インフラが重要だ。社会的インフラを守る努力を怠れば、大きな代償を払うことになる」と主張しています。
 
 
クリネンバーク教授は、最初、「おひとりさま」が先進国で激増したことを指摘した社会学者でした。
 
 
2012年「独りで生きる:1人で生きる人たちの物凄い増加と驚くべき魅力」
Going Solo: The Extraordinary Rise and Surprising Appeal of Living Alone
 
 
クリネンバーク教授は、統計からアメリカをはじめとする先進国での独身者の驚異的な増加を指摘し、さらにアメリカの数百人の「おひとりさま」インタビュー調査で、その生活を浮き彫りにします。
 
クリネンバーク教授は「おひとりさま」に否定的ではなく、むしろ「ひとりで生きるのは近代人の理想だった」と論じています。
 
しかし、同時に「単身者でも幸せに生きる社会には、どのような条件が必要か」を考えています。先進国では、今後も単身者が増えるのは間違いなく、それなら単身者でも幸せに生きられる社会デザインが必要だと考えているのです。
 
 
現在、世界中で増加している、壁で囲まれて警備員に守られたゲーテッド・コミュニティは地域社会を分断し、崩解させることが指摘されています。
 
 
教育分野でも、アメリカの大学には秘密結社的なファイ・ベータ・カッパクラブのような閉鎖的なフラタニティがあります。白人の同じような高収入の階層の子弟だけが入る寮です。フラタニティには通過儀礼としての入会儀式があり、しごきがあり、大学在学中はフラタニティで寝起きして、食事をして、そこから大学に通います。研究ではフラタニティに入った青年たちは成績が悪く、視野が狭くて偏見が強くなり、酒に溺れたり、麻薬や性犯罪の巣窟となります。閉鎖社会なのでブレーキがきかなくなるのです。分断された閉鎖社会は、幸せや人間的成長とは直結していないようです。
 
 
これからの日本では、都市部でのオープン・マインドなネットワークをいかに構築していくかが幸せの構築とサバイバルに直結している気がします。
 
 
エリック・クリネンバーグ
英治出版; New版 (2021/12/25)
 
【目次】
序章 社会的インフラが命を救う
第1章 図書館という宮殿
第2章 犯罪を減らすインフラ
第3章 学びを促すデザイン
第4章 健康なコミュニティ
第5章 違いを忘れられる場所
第6章 次の嵐が来る前に
終章 宮殿を守る
 
 

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