仙腸関節痛のアップデート

 
 
2022年1月11日
「仙腸関節位置異常の鍼治療の効果の比較:システマティックレビューとメタアナリシス」
Comparison of Efficacy between Acupuncture Therapies in Improving Sacroiliac Joint Malposition: A Systematic Review and Meta-Analysis
Liguo Liu et al.Biomed Res Int. 2022; 2022: 9485056.
Published online 2022 Jan 11.
 
 
以下、引用。
 
【結果】
鍼治療グループは、コントロールグループと比較して、ヴィジュアル・アナログ・スケール(VAS)スコアをより改善した。
鍼治療グループのオスウェストリー・ディスアビリティ・インデックス・スコアはコントロールグループよりも低かった。
 
 
オスウェストリー・ディスアビリティ・インデックス・スコアは、オックスフォード大学脊椎外科教授のジェフリー・フェアバンク教授が1980年に開発した腰痛スコアです。
 
ジェフリー・フェアバンクはケンブリッジ大学とセントトーマス病院医科大学を卒業し、イギリスのオスウェストリーで研修中に開発しました。
 
以下、引用。
 
【結論】
鍼は仙腸関節の位置異常について改善する治療的利点があるかもしれない。鍼とアキュポトミー小鍼刀は、仙腸関節位置異常の臨床症状と機能異常を改善する安全な方法を提供するかもしれない
 
 
鍼灸臨床では、仙腸関節痛の概念は重要だと思います。
 
 
1905年にゴールドスウェイト とオスグッドによって仙腸関節捻挫の概念が提唱されました。
 
 
A Consideration of the Pelvic Articulations from an Anatomical, Pathological and Clinical Standpoint
JOEL E. GOLDTHWAIT, M.D., and ROBERT B. OSGOOD, M.D.
Boston Med Surg J 1905; 152:634-638June 1, 1905
 
 
パトリックテストのパトリック(※1)やゲンスレンテストのゲンスレン(※2)、ニュートンテストのニュートン(※3)といった医師たちが診察法を提唱しています。
 
 
※1:1917年パトリック
BRACHIAL NEURITIS AND SCIATICA
HUGH T. PATRICK, M.D.
JAMA. 1917;LXIX(26):2176-2179.
December 29, 1917
 
 
※2:1927年ゲンスレン
“Sacro-iliac arthrodesis: indications, author’s technic and end-results”.
F. J. Gaenslen
Journal of the American Medical Association 86: 2031–2035.1927
 
 
※3:1957年ニュートン
Discussion on the Clinical and Radiological Aspects of Sacro-Iliac Disease
THOMPSON M, NEWTON DR, GRAINGER RG.
Proc R Soc Med. Oct 1957; 50(10): 847–858.
 
 
 
1932年にミクスターとバールが腰椎椎間板ヘルニアの概念を発表したため、正統派医学では顧みられなくなりました。そして、カイロプラクティックやオステオパシーは仙腸関節性腰痛を治し続けていました。
 
日本における腰痛の権威、菊池臣一先生の名著『腰痛』でさえ、「仙腸関節性腰痛の概念は(カイロプラクティック以外の)正統派医学で認められていない」ことを記述しています。仙腸関節は不動関節だからです。
 
 
1990年頃から有馬温泉記念病院の博田節夫先生が創始された「関節運動学的アプローチ(AKA)」は仙腸関節のずれを治療する治療法です。
 
 
博田 節夫(はかた・せつお)
「関節運動学的アプローチ」
日本温泉気候物理医学会雑誌
Vol. 54 (1990-1991) No. 1 P 45-46
 
 
住田 憲是「AKA-博田法」
『日本腰痛学会雑誌』
Vol. 11 (2005) No. 1 P 69-78
 
 
 
さらに日本では、仙台病院の村上栄一先生が『日本腰痛学会』で論文 を発表され、2012年には専門書を出版しました。
 
 
村上栄一
「仙腸関節由来の腰痛」
『日本腰痛学会雑誌』Vol. 13 (2007) No. 1 P 40-47
 
 
村上栄一著
南江堂2012年

 
 
世界でも、2005年頃に仙腸関節痛のレビュー論文が出版され、ようやく認識されてきました。
 
 
2005年「仙腸関節痛:解剖・診断・治療の包括的レビュー」
Sacroiliac joint pain: a comprehensive review of anatomy, diagnosis, and treatment.
Cohen SP.
Anesth Analg. 2005 Nov;101(5):1440-53.
 
 
 
ただ、仙腸関節由来の腰痛の概念は議論になっています。
2015年にも整形外科で疑念を呈する論文が発表されました。
 
 
2015年6月22日『ザ・ジャーナル・オブ・ボーン・アンド・ジョイント・サージェリー(骨関節外科雑誌)』
「無症候の成人における仙腸関節変性の有病率」
The Prevalence of Sacroiliac Joint Degeneration in Asymptomatic Adults
Jonathan-James T.et al.
J Bone Joint Surg Am. 2015 Jun 3;97(11):932-6
 
 
腰痛歴や骨盤痛歴のない成人患者の骨盤コンピュータ断層撮影(CT)スキャン画像373件(仙腸関節746個)を対象に、無症状の患者での仙腸関節変性の有病率を後ろ向きレビューで検証しています。
 
「仙腸関節変性の有病率は65.1%で、著しい変性が30.5%で確認された。年齢に伴う着実な増加が見られ、70代での有病率は91%だった」というものです。
 
この2015年の論文「無症候の成人における仙腸関節変性の有病率」の意義は、「仙腸関節由来の腰痛はX線撮影では判断できない」ということです。
 
以下、引用。
 
結論:年齢によって、仙腸関節変性の画像の証拠は高い確率で無症候のものに見られる。仙腸関節の変性が画像であるからといって、腰痛や仙骨骨盤痛の原因とすることについては注意がなされるべきである。
 
 
腰痛をもっていない70代をX線撮影したら、91%に仙腸関節変性を確認できるのですから、仙腸関節変性は腰痛と関係していないわけです。
 
2021年11月29日にアップデートされた以下の文献は参考になります。
 
 
2021年11月29日「仙腸関節痛」
Sacroiliac Joint Pain
Marc A. Raj; George Ampat; Matthew Varacallo.
Last Update: November 29, 2021.
 
 
 

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