鍼灸の最初の臨床エビデンスマップ

2022年2月27日
「広東省の科学者は鍼灸の最初の臨床エビデンスマップを開発した」
广东科学家制定首个针灸临床证据图谱

広州中医薬大学の許能貴教授の以下の論文です。

2022年2月25日『ブリティッシュメディカルジャーナル英国医師会雑誌』
「 鍼治療のエビデンスは臨床診療と健康政策で十分に活用されていない」
Evidence on acupuncture therapies is underused in clinical practice and health policy
Gordon Guyatt, Nenggui Xu(許能貴:xǔ néng guì)
BMJ 2022 Published 25 February 2022

著者の一人にゴードン・ガイアット先生が入っています。

1991年、ゴードン・ガイアット先生は伝説の論文「エビデンス・ベースド・メディスン」を書きます。

1991年マクマスター大学、ゴードン・ガイアット著
「エビデンス・ベースド・メディスン」
Evidence-based medicine
Gordon H. Guyatt, MD, MSc
ACP J Club. 1991;114:A–16.

1992年にイギリスでランダム化比較試験を提唱したアーチー・コクランの名前を冠して「コクラン共同計画」が立ち上がります。

立ち上げメンバーは、アメリカのトム・チャーマーズ、イギリスのイアン・チャーマーズ、カナダのマーレー・エンキンの3人です。

この1991-1992年にエビデンス・ベースド・メディスン(EBМ)の時代が始まりました。

ゴードン・ガイアット先生は「エビデンス・ベースド・メディスン(EBМ)」という言葉を創った人物なので、1990年代に医学を学び始めた私としては感無量です。

1980年代にイギリス鍼協会2代目会長のアレクサンダー・マクドナルドが鍼のランダム化比較試験を開始し、麻酔科医、ジョン・ダンディーが内関(PC6)の悪心・嘔吐へのランダム化比較試験の結果を一流医学誌に報告しました。これらのランダム化比較試験の結果がアメリカNIHで検討されて、1997年のアメリカNIHによる「鍼の効果には科学的根拠がある」という声明につながります。

2000年代のドイツでは、クラウディア・ウィット先生が指揮をとり、ドイツ鍼大規模臨床試験(GERAC)で数千人単位の大規模臨床試験を行い、その結果を受けて、ドイツでは腰痛や膝痛などの痛みに対して保険が支払われるようになりました。

2010年代のアメリカでは、オピオイド危機に対してアメリカ退役軍人省とアメリカ国防総省を中心に鍼の研究がすすみ、メディケアなどの公的保険に鍼が入りました。

そして、1992年から30年後の2022年の『英国医師会雑誌』にゴードン・ガイアット先生が著者の一人となった鍼の論文が掲載されるわけです。

以下、引用。

鍼のシステマティックレビューの筆頭著者は中国(40.3%)、アメリカ(14.5%)、イギリス(12.8%)、韓国(10.5%)、オーストラリア(7.2%)、
カナダ(4.7%)、ドイツ(4.3%)、その他(5.7%)になる。

最近の鍼のシステマティックレビューの77の疾患が調査された。鍼は、8つの疾患で中程度から大きな効果のエビデンスが発見された。
(1) 脳卒中後の失語症の機能的コミュニケーションの改善
(2)頸部と肩の疼痛の緩和
(3)マイオフェーシャル・ペイン筋筋膜性疼痛の緩和
(4)線維筋痛症の疼痛の緩和
(5)非特異的腰痛の緩和
(6)出産後24時間での授乳成功率の増大
(7)血管性認知症の深刻度の減少
(8)アレルギー性鼻炎の鼻症状の改善

例えば、鍼は脳卒中後の失語症の治療に使われていない。

これは、日本国内では議論のあるところだと思います。

個人的意見では、毎日、保険で鍼を受けられる中国の病院でなら、脳卒中後遺症への鍼は現実的ですが、日本で週1回や月に2回程度の頻度で鍼で効果を出せるかという問題があります。
脳卒中への頭皮鍼も焦氐頭皮鍼を使うのか、YNSAを使うのかなど、現実的な問題が多数、考えられます。

以下、引用。

さらに、保険はいくつかの有益な鍼治療をカバーしていない。

以前に特定された8つの疾患と状態のうち、西側諸国の主要な国内保険会社は、痛みに関連する状態のみをカバーしている。

米国では、2020年の終わりにメディケアは慢性腰痛の鍼治療をカバーし始めた。オーストラリアでは、メディケアは腰痛と肩の痛みをカバーしている。英国では、英国国立医療技術評価機構が提供する推奨事項は限られており、十分な情報に基づいた患者のほとんどが慢性緊張型頭痛、片頭痛、および慢性疼痛の治療オプションとして鍼治療を選択することを示している。にもかかわらず、鍼治療を補償する国の保険はない。

サイエンス以上に、政治的問題のほうが大きい印象があります。

以下、引用。

鍼治療が有望な効果を示した3つの病気または状態を取り上げる。

うつ病、片頭痛、およびオピオイド使用障害が蔓延しており、世界的に高い疾病負荷と関連している。

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