文化的多元主義と鍼

2022年3月7日『カナディアン・プレス』
「オンタリオ州は中国伝統医学の規制緩和の計画についてコースを逆転させる」
Ontario reverses course on plan to deregulate traditional Chinese medicine
https://www.cp24.com/…/ontario-reverses-course-on-plan-to-d…

オンタリオ州は「2022年より誰でも鍼ができる」という規制緩和を一部撤回し、オンタリオ州での鍼師試験に広東語と北京語を用いるようです。

以下、引用。

オンタリオ州は中医学と鍼を規制緩和する計画を一部撤回し、免許試験に広東語と北京語を提案することを必要とする。

カナダ・オンタリオ州の鍼師免許に関する言語の問題は歴史的経緯があります。

2005年にオンタリオ州で中医学法が成立します。オンタリオ州はカナダの中国移民、韓国移民、ヴェトナム移民、日本人移民などから広く聞き取りを行い、新しい規制をつくりました。これは素晴らしい試みだと当時、思った記憶があります。

2005年7月「オンタリオ州政府」
「オンタリオ州における中医学と鍼」
Traditional Chinese Medicine and Acupuncture in Ontario
https://www.health.gov.on.ca/…/p…/reports/tc_med/tc_med.aspx

中医学と鍼治療コミュニティからの参加者は、彼らがさまざまな教育と訓練レベルを持っていることを示した。中国、韓国、台湾、アメリカ合衆国など世界のさまざまな地域で訓練を受けた人もいれば、カナダで訓練を受けた人もいる。参加者は幅広い教育および訓練プログラムが将来の規制機関への実践、および登録への参加に受け入れられるべきであると提案した。

2013年にオンタリオの中医学と鍼師統括機関(CTCMPAO)ができます。

2014年、オンタリオ州の中国系住民が訴訟を起こします。「カナダは英語とフランス語が公用語であり、オンタリオの中医学と鍼師統括機関が中国語での鍼師試験を認めないのは差別的である」というのです。鍼は中国のものであり、中国語を理解できない鍼師のほうがおかしいという主張でした。

2014年4月3日
「中国医学コミュニティーは言語問題で分断されている」
Chinese medicine community split by language issue
https://www.cbc.ca/…/chinese-medicine-community-split-by-la….

オンタリオ州裁判所は判決をくだし、差別的でないと判断した。
「それは複雑な問題に思えるが、われわれはカナダに住んでいて、カナダは英語とフランス語を話す国である。

これらのカナダ・オンタリオ州における中医学鍼と免許取得における言語の問題は、トロント大学の研究者たちにより研究され、論文化されています。

2018年4月3日
「医学多元主義と国家:英語が支配的なディアスポラ地域における伝統鍼師の言語規制」
Medical Pluralism and the State: Regulatory Language Requirements for Traditional Acupuncturists in English-Dominant Diaspora Jurisdictions
Nadine Ijaz, Heather Boon
First Published April 3, 2018
https://journals.sagepub.com/…/full/10.1177/2158244018768677

2018年8月22日 デンバー大学『法と政策』
「中国語のない中国医学:カナダの『二言語フレームワークにおける文化的多元論』の不適当なインパクト」
Chinese Medicine sans Chinese: The Unequal Impacts of Canada’s “Multiculturalism within a Bilingual Framework”
Nadine Ijaz,Heather Boon
Law and Policy Volume40, Issue4 Pages 371-397
First published: 22 August 2018
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/lapo.12112

個人的には、フランスとドイツが行っている言語政策は正しいと思います。フランスの国土には多様な言語があります。アルザス語やコルシカ語、ブルトン語、バスク語、ワロン語などです。

しかし、フランスは中央集権の近代化をはじめた国なので、アカデミー・フランセーズがフランス語を標準化し、フランス語のみを公用語としてきた歴史があります。

フランスでは、フランス語を優先する法律、ツーボン法があるので、アメリカの会社がフランス支社での会議で英語を優先して罰金刑になった例もあります。日本の楽天やユニクロのような英語を社内公用語とすることが不可能な国だそうです。フランス人の考えでは、「フランス語こそがフランス」なのだそうです。だから、フランス語を話せる人とそうでない人では扱いが変わります。

ドイツは移民に寛容な国家ですが、ドイツ語の厳しい試験があります。「ドイツ語を話すならドイツへの移民を認める。ドイツ語を話せない人はドイツには必要ない」というスタンスが一貫しています。

カナダのオンタリオ州の中医学と鍼をめぐる政治状況と言語政策は、非常に興味深い問題を内包していると思います。

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