『神戸新聞』2022年8月13日号の書評欄に、メラニー・ジョイ著『私たちはなぜ犬を愛し、豚を食べ、牛を身にまとうのか』の書評が掲載されていたので驚愕しました。
漢方の分野では、犀角やロバの皮のゼラチンである阿キョウ、さらに犬肉など、動物愛護団体や環境保護団体から批判されている漢方の動物薬は多数、あります。
『現代思想』の「肉食主義を考える」は、さらに培養肉や人工サーモン、コオロギ食などのフードテック(食品ハイテク産業)や畜産業の現在、アイヌのような自然と共生し、感謝しながら肉食する価値観まで、広い視野から勃興しつつある反・肉食主義の思想を議論しています。
しかし、1番の驚きは科学哲学者の伊勢田哲治先生が、巻頭の対談「なぜ私たちは肉を食べることについて真剣に考えなければならないのか」に登場されていたことです。
伊勢田先生と言えば、ニセ科学批判と科学哲学における線引き問題の第一人者です。
「科学と疑似科学の間に境界線は引けるのか」というのが線引き問題です。
伊勢田哲治先生は『医学者は公害事件で何をしてきたのか』の著者、津田敏秀先生と何年にも渡り、科学認識論の論争をされてきました。
その際に「伊勢田先生の科学認識論やベイズ統計学の哲学的意味に関する認識には違和感を感じてしまう」「津田先生の科学認識論の方が臨床的に優れている」とわたしは感じてきました。ところが、日本ではなぜか伊勢田先生の方が優位で、そのことにも据わりの悪さを感じてきました。
今回の『現代思想』の対談で伊勢田先生が『動物からの倫理学入門』の著者であり、動物倫理学の第一人者ということを初めて知り、数年来のさまざまな疑問や違和感が納得できました。
自身の批判的思考を鍛えるには、肉食主義の検討は良い問題だと感じました。