医療とジェンダーバイアス

2026年9月20日『神戸新聞』
「女性医師、江戸の医療に存在感 時代にふさわしい多様性を」

国立奈良女子大学の鈴木則子(すずき・のりこ)教授の記事です。
鈴木教授は、2025年に以下の鍼医の発表もされています。

鈴木則子
「幕末地域医療と座頭鍼医-駿河国大宮町の事例から」
『日本医史学雑誌』. 2025. 71. 1. 113-114

『近世感染症の生活史: 医療・情報・ジェンダー』
鈴木則子
吉川弘文館 ‎ 2022/3/30

中国では、明代に『女医雑言』の著者、談允賢(だんいんけん)がおり、中国ドラマ『女医明妃伝』で女優の劉詩詩(セシリア・リュー)が演じています。日本では江戸時代の刺絡の分野で、京都の刺絡家、垣本鍼源の娘であり女医の垣本茂登(かきもと・もと)が著した『熙載録(きさいろく)』が有名です。

昨年、先住民伝統医学を調べ、興味深いことをたくさん知りました。

ロシアのシベリアやメキシコなどでは、薬草やキノコを使うシャーマンたちが医療を担当し、女性も多いです。太平洋諸島のスピリチュアル・ヒーリングの担い手には、沖縄のユタのような巫女とシャーマンと薬草医を兼ねるような存在がいて、現在も「魔女」と呼ばれています。

キリスト教化される以前のヨーロッパでは、森に「賢い女性」が住んでおり、産婆や薬草治療、幻覚キノコを使ったスピリチュアル・ヒーリングを行っていました。フランス語で産婆は「サジファム(賢い女性)」といいます。現代フランスで鍼を使う助産師は「サジファム・アキュパンクトリス(賢い鍼女)」です。

ところが、中世ヨーロッパでキリスト教が広がると、神父たちは商売敵である森の中の「賢い女性たち」を捕まえ、拷問し、死刑にしていきました。キリスト教の宣教師たちは、植民地支配と同時に非西洋世界に進出し、西洋医療を布教の手段として使う過程で先住民医療を禁止し、「正しい知識」を独占することで、魔女やシャーマンを抑圧してきた歴史があります。
バーバラ・エーレンライクは著書、『魔女・産婆・看護婦 女性医療家の歴史』で経験豊かなハーブ医療やヒーラーの女性たちが迫害されてきた歴史を描き、「わたしたちは、あなたたちが焼き殺しそこなった魔女の孫娘だ」という言葉を残しています。


 
米鍼灸界においてもニューカマーの鍼灸学校の学生は圧倒的に女性が多いですが、1970年代の鍼麻酔ブームの時に参入した鍼灸カレッジの教員や管理職層はほとんどが男性で、近年、業界ではそのアンバランスさが問題視されています。

日本では医大の入試において女性だけが減点されていましたが、それはほんの数年前のことです。自分自身も含めて、旧世代の感覚が今の感覚と大きくずれており、従来のリサーチもジェンダー・バイアスがかかっていると推測されます。ジェンダー・バイアスは医療だけでなく社会全体が克服すべき課題だと思います。鈴木教授の今後のジェンダー視点からの史学研究に期待します。

Many thanks to kuinan for a beautiful featured image!

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