特殊部隊ネイビーシールズの鍼

 

2013年12月20日アメリカ国防総省(DoD)のホームページ
「精神科医は特殊部隊治療によって、表彰を受けた」
Psychiatrist Receives Honor for Treating Special Ops Troops

アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズが脳振盪や外傷性脳損傷(TBI)で鍼治療を受けています。メリーランド州ベセスタにあるアメリカ国立最高の勇者センター(NICoE:National Intrepid Center of Excellence)の海軍大尉で精神科医のロバート・コフマンが、イラク戦争やアフガニスタン戦争で傷ついたネイビーシールズの特殊部隊隊員たちを鍼と瞑想という統合医療で治療しました。

以下、引用。

海軍精神科医が68人の特殊部隊員の外傷性脳損傷や精神医学的健康コンディションを治療したことでアメリカ特殊部隊コマンド・パトリオット賞を受賞した。

最新のペンタゴンでのセレモニーでアメリカ特殊部隊司令官のウィリアム・マクレイブンは海軍大尉医師であるキャプテン・ロバート・コフマンがアメリカ国立最高の勇者センターで統合医療と行動医学のコンサルタントとして行ったことに対して表彰を行った。

アメリカ国立最高の勇者センターは外傷性脳損傷と精神医学を治療する軍事ヘルスシステム・リサーチ研究所のウォルター・リード国立軍事医学センター内に存在する。

アメリカ国立最高の勇者センターは鍼や芸術療法などの統合医療における伝統医学のミックスによって特殊部隊を治療している。

 

 

これは2014年3月2日アメリカ海軍の新聞『ネイビー・タイムズ』で「特殊部隊に受け入れられる海軍の精神科医の鍼と瞑想の方法」という記事になりました。この記事のキャプテン・コフマン医師のインタビューがあまりに印象的だったので翻訳した部分が残っていました。

質問:なぜNICoEは特殊部隊員で成功したのか?

答え:私はある特殊部隊員にNICoEはネイビーシールズの脳損傷回復の仕事のために建設されたようなものだと言われたことがある。4週間は特殊部隊員にとってインディ500レースのピットインみたいなもので、治ったら特殊部隊員たちはまた出撃する。

 

 

キャプテン・ロバート・コフマンは2009年にアフガニスタンに派兵された際に医療部隊として働き、外傷性脳損傷やPTSDが広がっているのに気づきました。外傷性脳損傷はアフガニスタンのタリバンが使っている手製地雷が原因で、爆風によってヘルメットをした頭部が激しく揺らされて起こります。わずか6ドルでつくれる地雷のためにアメリカ軍は1台1億円ぐらいのの装甲車を導入して兵士を輸送していました。

 

外傷性脳損傷に関しては元毎日新聞のジャーナリスト大治朋子さんが『勝てないアメリカ――「対テロ戦争」の日常 (岩波新書)』という素晴らしい本を書いています。この本によると、アフガニスタンで地雷攻撃を受けた兵士はすぐにドイツの米軍基地の病院まで空輸されて徹底的なMRI検査と治療を受けますが、原因不明の記憶障害や人格の変化や頭痛などに苦しむことになります。

勝てないアメリカ』は、アフガニスタンという世界最貧国がいかに知恵を使って世界最強のアメリカ軍を叩きのめしているか、弱者がいかに強者に勝つかという別の意味の読み方ができる本です。世界最強のアメリカ海軍特殊部隊ネービー・シールズでさえアフガニスタンでは大変な被害にあっており、衝撃的でした。映画と現実は違い過ぎます。

 

脳震とうの世界に科学のメスが入りはじめたのは2005年にベネット・オマルという医師がNeurosurgeryという医学雑誌にマーク・ウェブスターというNFLのスーパースターの脳の解剖所見を発表してからです。ウィル・スミス主演のハリウッド映画『コンカッション』で有名になりました。

アメフトのマーク・ウェブスターはスティーラーズのスーパースターでしたが、パンチドランカーのような奇行が目立ち、ホームレスとなり死にました。ベネット・オマルが解剖したウェブスターの脳はアルツハイマー病とは違うβアミロイド沈着とTauタンパク質の沈着が証明できました。これは慢性外傷性脳症の特徴です。ここから脳震盪やCTE、TBIの本格的な研究が始まりました。NFLだけでなく、プロレスラーや格闘技選手、兵士の地雷による外傷性脳損傷から認知症状や人格変化が大きな問題となり、しかも西洋医学では治療法は存在しません。

 

外傷性脳損傷による脳振とう後の認知症が鍼治療で予防できたという論文が台湾の花蓮慈院中医部の論文です。

2019年2月27日「外傷性脳損傷(TBI)で鍼治療を受けることでの認知症のリスク減少:ポピュレーション・ベースド後向きコホート研究」
Decreased Risk of Dementia Among Patients With Traumatic Brain Injury Receiving Acupuncture Treatment: A Population-Based Retrospective Cohort Study.
Juan YH,et al. J Head Trauma Rehabil. 2019 Feb 27.

【結論】外傷性脳損傷患者のマネージメントに鍼を加えることは認知症の進行リスクを減らすかも知れない。

 

日本の木沢記念病院中部療護センターと岐阜大学も2016年に『メディカルアキュパンクチャー』にMEG脳磁図を使った素晴らしい論文を発表されています。交通事故による日本人患者を対象として、使ったツボは水溝(GV26)・印堂・合谷・足三里(ST36)です。

2016年11月「鍼は、外傷性脳損傷による脳振盪の慢性障害の患者の脳脊髄システムの興奮性を増加させる」
Acupuncture Increases the Excitability of the Cortico-Spinal System in Patients with Chronic Disorders of Consciousness Following Traumatic Brain Injury
The Journal of Alternative and Complementary MedicineVol. 22, No. 11
Published Online:1 Nov 2016

※これらの発見により、鍼は皮質脊髄路の活性化により、慢性意識障害の患者の運動機能回復を改善するかもしれない。鍼は深刻な外傷性脳損傷による運動機能の減弱した患者の実行可能な治療となる可能性がある。

 

 

2015年『中国鍼灸』
「認知リハビリと鍼灸を組み合わせた外傷後脳損傷による認知障害治療の臨床観察」
针灸配合认知训练治疗颅脑外伤后认知障碍临床观察
Clinical observation of cognitive impairment after traumatic brain injury treated with acupuncture and cognitive training
梁慧英 游国清 廖琳 黄营湘 《中国针灸》 2015年09期

 

2018年10月5日中国重慶市
「60人の頭皮鍼と認知トレーニングを組み合わせた脳損傷後認知障害の治療」
Clinical observation of 60 cases of treating cognitive disorder after cerebral injury in combination with scalp acupuncture and cognitive training
Jinyu Du,Medicine (Baltimore). 2018 Oct; 97(40): e12420.
Published online 2018 Oct 5

 

 

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