2020年3月6日『ライブサイエンス』
「コロナウイルスのために学校を閉鎖すべきなのか?」
Should schools close for coronavirus?
日本でもようやく社会実験やエビデンスに基づく政策(EBP:Evidence-based policy)の概念が知られ始めました。
第2次世界大戦後、アメリカ占領軍GHQが日本に来て驚いたのは、行政が統計データをほとんど持っていなかったことです。アメリカ軍が「これから俺たちが行政をするから基礎統計データをもってこい」と日本の官僚に命令したところ、使い物になる統計データがまったくないのに驚愕したそうです。最初は「隠蔽している」「非協力的」と思っていたのですが、医師を含む官僚たちを締め上げても出てきませんでした。「統計を確認せずに、データなしで勘と度胸で行政をやっていたこと」に驚愕するGHQ軍人たちの記録を読んだことがあります。これは公衆衛生学の歴史を学んだことがある方なら知っている有名なエピソードです。
「新型コロナウイルスによる学校閉鎖が日本やイタリアで行われているが、公衆衛生学におけるエビデンス=科学的根拠は存在するのか?」という問いは、公衆衛生学では重要だと思われます。
以下、引用。
子どもが深刻な病状になったというレポートは存在しないにも関わらず、世界では10万校を超える学校が閉鎖されている。ウイルスの拡散を防ぐのに学校閉鎖は意味があるのだろうか。
ジョンホプキンス大学の感染症エキスパートであるアメシュ・アダジャ博士は「学校閉鎖は容易な決定ではなく、学校閉鎖がウイルス拡散を防ぐかどうかは不明である」と言う。
幾人かの専門家は地域社会でのアクティブな感染がないかぎり、COVID‐19のために学校を閉鎖すべきではないと言明する。「インフルエンザと同じように、我々は(限定された)地域社会で大流行があると皆が知っている状態でない限り学校閉鎖はするべきじゃない」とテンプル大学公衆衛生学の疫学者であるクリー・ジョンソンは言う。
「科学的データのほとんどは、学校閉鎖の効果については、インフルエンザ研究から来ている」とアダジャ博士は言う。
子どもたちはインフルエンザの主要なスプレッダー拡散者ではあるが、同じことが新型コロナウイルスにも言えるのかどうかは不明である。「学校閉鎖の影響は、コロナウイルスではより少ないかもしれない」とアダジャ博士は言う。
さらに、どれくらいの期間、子供を家にとどめておくかという問題がある。
2010年の研究では、2009年のペンシルバニア州での学校閉鎖の影響をコンピューター・シミュレーションで研究したが、ほとんどのエピデミック大流行期間の間、学校を閉鎖するなら、その期間は2009年インフルエンザなら8週間(2カ月)におよぶなら明確な効果があるという。コロナウイルスの場合、われわれは、どのくらいの期間が有効であるのかはわからない。さらに言うなら、2010年の研究では、短期間の学校閉鎖はアウトブレイクを悪化させたことが『ジャーナル・オブ・パブリック・ヘルス・マネージメント&プラクティス』に掲載されている。
2010年「インフルエンザ流行期における流行軽減のための学校閉鎖戦略のシミュレーション」
Simulating School Closure Strategies to Mitigate an Influenza Epidemic
Bruce Y. Lee, et al.
J Public Health Manag Pract. 2010 May–Jun; 16(3): 252–261.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2901099/
【結論】学校閉鎖はインフルエンザ流行を鎮圧することができないかもしれない。しかし、学校閉鎖が最低でも8週間維持されるなら流行のピークを1週間遅らすことになり、インフルエンザワクチンの接種のような時間をかせぐことになるかもしれない。
新型コロナウイルスにワクチンが存在しない以上、上記のような戦略をとるエビデンスは存在しません。個人的な見解ですが、流行期の学級閉鎖のように一定以上の局所的流行があるなら学級閉鎖は合理的ですし、地域的大流行が確認されるなら学校閉鎖も合理性があります。しかし、流行が確認されていない地域一帯での地域全体での学校閉鎖はもちろん、国家規模での学校閉鎖にウイルス感染症の拡大防止効果のエビデンスは存在しません。
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