【新型コロナウイルス】オランダの集団免疫戦略

 

 

2020年3月18日『南ドイツ新聞(S uddendeutche Zeit)』
「何千もの人命を費やす実験」
Ein Experiment, das Tausende Leben kosten könnte


イギリスはパトリック・ヴァランス先生による集団免疫戦略を最初に採用して猛批判を浴びて政治的に撤回しましたが、オランダも集団免疫戦略を政府が公式に採用して、やはり「人体実験だ!」「ハイリスクのギャンブルだ!」と猛批判を浴びています。

 

オランダの公衆衛生政策のトップであるオランダ王立公衆衛生環境研究所のウイルス学者ヴァン・ディーゼル先生によるものだそうです。

 

以下、引用。

最も強力な支持者はオランダ王立公衆衛生環境研究所のウイルス学者ヤップ・ヴァンディーゼルであり、われわれは問題の少ないもの(若者)を感染させることでウイルス感染を最小に抑えるとテレビで語った。

 

 

今後もオランダの公衆衛生政策を注視してみたいと思っていましたが、オランダも英国同様、社会的距離政策も採用する方向へ転換しました。

 

2020年2月29日
「われわれは全員をフォローできない」
‘We kunnen niet iedereen volgen’

 

オランダの集団免疫戦略を指導するライデン大学の感染症専門医学者であるヤップ・ヴァン・ディーゼル教授のインタビューです。

PCR検査の感度の低さを理由に、中国・韓国のような検査からのトレース追跡と隔離戦略をとっていません。ヴァン・ディーゼル教授は、一般人のマスクは「偽の安全感覚」をつくるとして「一般人がマスクを欲しがると病院で着けるマスクが不足するので推奨しません」と言っています。

この2月のインタビューの時点ではサッカーのプレミアリーグの試合も観戦可能で、推奨しているのは手洗いのみでした。ほぼノーガードでオランダ国民の8割が感染して 集団免疫を獲得する戦略で、世界中から批判・非難を浴びました。隣国のベルギーは強くオランダの政策を批判しました。

 

ドイツも最初 は集団免疫戦略を採用していましたが、ロベルト・コッホ研究所の戦略変更により、国境封鎖や強力な社会的距離政策を採用しています。

そして、オランダも社会的距離政策も採用する方向へ転換し、3月23日までは「100人以上の集会を禁止」であったのが、3月24日から「全ての集会の禁止と家族以外は1.5メートル以内に近づいたら罰金」となりました。

 

イギリスの集団免疫政策転換を調べている際に気になったのが、イギリス政府がナッジ理論に基づく、ナッジ・ユニット部隊という心理学者、デビッド・ハルパーン率いる行動洞察チームを採用していることです。

 

批判の多い社会的距離を受け入れやすくするため、最初にサイエンスに基づくハード・ランディングの集団免疫というカードを出しておいて、わざと批判を誘発して次により高齢者に優しく思える社会的距離を国民に自ら選ばせたのなら、本来の心理トリックであるナッジ理論になります。

ナッジ理論はレストランのメニューの「松・竹・梅」セオリーです。本当は真ん中の竹メニューを一番、利益率を高くして売りたい場合、かなり高級感があるけど余り売れなさそうな松メニューとちょっと安っぽく思える梅メニューと並べたら、真ん中の竹メニューが一番売れます。

 

イギリスにはトランプ大統領を誕生させ、イギリスEU離脱を成し遂げさせた情報操作・心理操作専門会社、ケンブリッジ・アナリティカがありました。ケンブリッジ・アナリティカはダーク・トライアド(闇の三大属性)と呼ばれるマキャヴェリアニズム、ナルシシズム、サイコパシー という3大属性の性格を持つ人々、「邪悪な性格の人々」をFacebookの簡単な質問で検出し、それらの人々を情報操作してトランプ政権誕生のための世論をつくりだしました。

 

ダーク・トライアドの検出方法は日本の心理学でも論文となり、日本語で J-STAGEにも掲載されています。

 

『日本語版Dark Triad Dirty Dozen (DTDD-J) 作成の試み』
田村 紋女
『パーソナリティ研究』2015 年 24 巻 1 号 p. 26-37

 

2018年3月、心理学におけるバイオハザード的大惨事、ケンブリッジ・ アナリティカ事件が起こりました。これはFacebookの8,700万人のデータとアメリカ人2億人の性格データを用いて、ケンブリッジ・アナリティカという会社がトランプ大統領誕生のために情報操作を行った事件です。

 

2016年の日本の論文「他者を操作することの心理学的研究の動向と展望」でもダークトライアドであるマキャベリアニズムという性格特性が出てきます。

「他者を操作することの心理学的研究の動向と展望」
木川 智美
『心理学評論』2016 年 59 巻 4 号 p. 387-396

 

情報操作会社、ケンブリッジ・アナリティカの親会社はSCL(Strategic Communication Laboratories)という民間軍事企業で、イギリス軍のアルカイダやイスラム国ISISとの情報戦を担当していました。プロの軍事世論操作企業なのです。

このようなインターネット世論操作は日本でも行われています。2017年のドイツの研究では、2014年の総選挙で日本のインターネット『オルタナ右翼』が行ったツイッターでの発言の54万件のうち、わずか16%がオリジナルの意見で、あとはBOT(ボット)といわれるプログラムがコピペして拡散したものだったという分析が論文に明記されています。

 

2017年雑誌『ビッグ・データ』
ドイツ、エアランゲン=ニュルンベルク大学のファビアン・シェーファー教授が発表した学術論文
「日本の2014年総選挙:政治ボット、オルタナ右翼・インターネット運動と安倍晋三首相の隠された国家主義アジェンダ」
Japan’s 2014 General Election: Political Bots, Right-Wing Internet Activism, and Prime Minister Shinzō Abe’s Hidden Nationalist Agenda.
Schäfer F
Big Data. 2017 Dec;5(4):294-309. doi: 10.1089/big.2017.0049. Epub 2017 Nov 28.

 

以下、引用。

ネトウヨはネット上では極端に声高であり、すでに現実の政治行動に影響している。ネトウヨはネット上の現象に限らず、電突(電話攻撃)、祭り(限られた時間での特定スレッドへのポスト集中)、炎上(批判的コメントの集中)などでリベラルな意見をターゲットにしている。

ソーシャル・ボットはコンピューターによって生成された、投稿やツイート、メッセージを自動投稿するプログラムである。

 

インターネット時代は情報操作・ビッグデータに基づく行動科学の時代なのですが、世間のほとんどの人々は自分たちが行動科学者に操られていることさえ知りません。行動科学者は手品のタネを隠し、自分たちが「賢くないフリ」をして、自分が賢いと思い込んでいる人々をダマします。ケンブリッジ・アナリティカ事件などの事実を知ったら仰天すると思います。

 

イギリスとオランダの集団免疫戦略から社会的距離戦略の転換がもしも心理学トリックであるナッジ理論によるものであったとしたら、我々はまたも行動科学者たちにダマされたことになります。これは憶測ですが、実際にボリス・ジョンソン首相がデビッド・ハルパーン率いる行動洞察チーム、ナッジ・ユニット部隊の意見を採用しているのは事実なのです。

 

 

 

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