精子数減少問題

 

2017年7月27日『CNNニュース』
『欧米男性の精子数、「40年でほぼ6割減」 国際研究』

 

以下、引用。

北米や欧州、豪州に住む男性の精子の数は近年減少の一途をたどり、40年ほど前の6割近くまで落ち込んだという研究結果が27日までに発表された。

イスラエルのエルサレムにあるヘブライ大学のハガイ・レビン博士とブラジル、デンマーク、イスラエル、スペイン、米国の研究者らによる共同チームが、過去に報告された185件の研究結果を分析し、生殖医療の専門誌に論文を発表した。

1973~2011年に精液を提供した50カ国の男性計4万2935人について、精子の総数と濃度を調べた。

北米や欧州、オーストラリア、ニュージーランドの先進諸国に住む男性のグループでは精子の濃度が毎年平均1.4%ずつ下降し、全体ではマイナス52.4%。総数は同1.6%ずつ減少し、全体で59.3%減になっていることがわかった。南米やアジア、アフリカに住む男性のグループでは目立った変化がみられなかった。

先進国グループの激減ぶりにはレビン博士自身も「信じられない」とコメントしている。特に濃度が1ミリリットル当たり4000万以下と、妊娠の可能性が低くなるとされるラインを下回っている点が懸念されるという。

精子の数については、1992年にデンマークの生物学者が報告した研究でも減少傾向が指摘されていた。91年までの50年間を対象に61件の研究結果を分析したが、1件の大規模な研究で全被験者の3割を対象にするなど偏りがあり、批判も多かった。それ以来、精子は本当に減少しているのかどうかという論争が続いてきたが、「これでかなり確実な答えが出た」とレビン博士は強調する。

 

2017年11月1日へブライ大学レビン博士による論文
「精子数の現代のトレンド:システマティックレビューとメタ後向きアナリシス」
Temporal trends in sperm count: a systematic review and meta-regression analysis.
Levine H et al.Hum Reprod Update. 2017 Nov 1;23(6):646-659.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28981654
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6455044/…
(↑上記URLで全文が読めます)

 

2018年8月28日にはNHKで『あなたの精子力は大丈夫?日本精子力クライシス』が放映されました。実は、1999年頃から「日本人男性の精子数は激減している」という研究が何度も発表されています。

1999年「環境ホルモンと精子数の動向」
岩本晃明 et al.
『医学のあゆみ』 190(7/8): 739-742, 1999.
https://ci.nii.ac.jp/naid/40000119786

 

2001年「日本人正常男性の生殖機能について : 妊孕能を有する男性および若年男性の調査から」
岩本 晃明,et al.
『日本泌尿器科学会雑誌』92 巻 (2001) 2 号 p. 294-
https://www.jstage.jst.go.jp/…/92_KJ0000…/_article/-char/ja/
https://www.jstage.jst.go.jp/…/92_KJ000039424…/_pdf/-char/ja

 

2006年「生殖能力のある日本人男性の精子数–国際共同研究による精液検査の諸問題」
岩本 晃明
『日本医師会雑誌』 135(2), 329-335, 2006-05
https://ci.nii.ac.jp/naid/40007302961

これは「研究でわかった 精子の数、日本最下位」として大きく報道されました。

 

「研究でわかった 精子の数、日本最下位 」
https://allabout.co.jp/gm/gc/299920/

 

以下、引用。

日本人男性の精子数はフィンランドの男性の精子数の約3分の2しかないなど、調査した欧州4か国・地域よりも少ないことが日欧の国際共同研究でわかり、英専門誌と日本医師会誌5月号に発表した。

環境ホルモンが生殖能力にどう影響するか調べるのが目的。精巣がんが増えているデンマークの研究者が提唱し、日本から聖マリアンナ医大の岩本晃明教授(泌尿器科)らが参加した。神奈川県内の病院を訪れた20~44歳の日本人男性324人(平均年齢32.5歳)の精液を採取した。

 

2006年「男性生殖機能への影響 疫学データに基づく考察」
野澤 資亜利, 岩本 晃明
『日本衛生学雑誌』2006 年 61 巻 1 号 p. 32-37
https://www.jstage.jst.go.jp/…/j…/61/1/61_1_32/_pdf/-char/ja
(↑オープンアクセスPDFファイル)

 

2008年「日本人男性の精子数」
岩本晃明
『産婦人科治療』 96(4): 368-372, 2008.
https://ci.nii.ac.jp/naid/40015962087

 

2009年「精子数低下問題の現況」
岩本晃明『泌尿器外科』 22(5): 637-644, 2009.

 

2013年『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』
「日本の4都市の1559人の若い男性の精液の質:横断的な人口ベースの研究」
Semen quality of 1559 young men from four cities in Japan: a cross-sectional population-based study.
Teruaki Iwamoto,et al.
BMJ Open. 2013; 3(4): e002222.
Published online 2013 Apr 29.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23633418
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3641477/
(全文オープンアクセス)

 

以下、引用。

日本人の若い男性の精子数は北欧より多いがスペインよりも少ない。日本人の若い男性の精子数はヨーロッパの若者のほとんどよりは良い。しかしながら、これは日本の若い男性の間で精液の質が問題になっていないことを意味していない。約10パーセントの精子数が、現在の世界保健機構(WHO)の1500万~3900万以下であり、将来の妊娠で大きなリスクをもっている。3人に1人の男性の精液濃度は4000万/ミリリットル以下で、これは生殖能力を低下させる。彼らは将来、子どもをつくろうとするときに顕著な問題を経験するだろうと我々は心配している。

 

神戸東洋医学研究会では、以前、花粉症についての科学的研究を概括した際に「環境汚染・大気汚染と花粉症の関連についての科学的研究」を紹介しました。同時にドライアイと大気汚染の関連も講義しています。日本統合医療生殖学会の薬膳講座では、環境汚染、農薬・殺虫剤・食品添加物と健康の関係を中心に講義してきました。もちろん、環境汚染の影響をゼロにすることは不可能ですが、摂取量を減らしつつ、鍼灸や食事指導による解毒をどうするかという戦略が重要であると考えています。

 

 

例えば、中国で発表された以下の論文があります。

2019年12月16日
「中国、上海における生殖可能年齢の男性の精子の質におけるピレスロイド曝露の影響」
Effects of environmental pyrethroids exposure on semen quality in reproductive-age men in Shanghai, China.
Hu Y et al.
Chemosphere. 2019 Dec 16;245:125580. doi: 10.1016/j.chemosphere.2019.125580
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31855762

 

以下、引用。

【結論】我々の研究は、環境におけるピレスロイド曝露は中国・上海の生殖可能年齢の男性の精液パラメーターに有害な影響を与えることを示唆している。

殺虫剤、ピレスロイドはミセスロイド、キンチョール、フマキラー、ダニアースなどの家庭用殺虫剤の中にも含まれています。小児の脳や健康にも農薬・殺虫剤は影響を与えます。一流科学雑誌 『米国実験生物学会連合会ジャーナル(The FASEB Journal)』は、米国実験生物学会連合会(FASEB)が1912年に創業した老舗科学雑誌です。2015年に小児の尿中ピレスロイド農薬濃度が発達障害と関連しているという論文がこれに掲載されています。

2015年「発達中の殺虫剤曝露は注意欠陥多動性障害(ADHD)を引きおこす」
Developmental pesticide exposure reproduces features of attention deficit hyperactivity disorder
Jason R. Richardson et al.
The FASEB Journal
Published Online:28 Jan 2015
https://www.fasebj.org/doi/full/10.1096/fj.14-260901

 

 

また、以下は日本統合医療生殖学会の薬膳講座で連続で講義してきた「高脂肪食と腸内細菌」に関する研究です。

2020年1月2日『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』
「腸内微生物の高脂肪食誘発性共生による精子形成および精子運動性の障害 」
Impairment of spermatogenesis and sperm motility by the high-fat diet-induced dysbiosis of gut microbes.
Ding N et al
Gut. 2020 Jan 2. pii: gutjnl-2019-319127. doi: 10.1136/gutjnl-2019-319127
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31900292
https://gut.bmj.com/…/ea…/2020/01/02/gutjnl-2019-319127.long

高脂肪食は腸内細菌由来の血中毒素による炎症を起こし、精子形成の質を低下させます。これも高脂肪食を減らすという食養生が精子形成・精子運動に影響するわけです。環境問題と食の問題など多因子が絡み合って精子の減少という問題を引き起こしていると考えられます。男性不妊症の鍼灸治療の場合、こういった生活指導が重要になると思われます。

 

 

 

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