WHO-ICD11に病邪弁証として、暑邪があります。
「暑気中り」と言う日本語は、中国伝統医学の「中暑」が語源になっています。中暑には陽暑(熱中症)と陰暑(夏バテ)があります。明代、張介賓著『景岳全書』の暑証の記述が基本となります。
以下、引用。
暑証は夏の熱病が本質であり、中暑となって病むものは、暑気によって病となる。
この病には陰陽のニ分類があり、陽暑と陰暑がある。
陰暑は暑いときに寒邪をうけて起こる。暑さを恐れて涼しさを貪り、寒気を避けないために起こる。これは暑い月に寒邪を受けるために陰暑という。すなわち傷寒である。ただ、温散するを主と為すが宜しい。
生食や冷食で内臓を寒涼で傷つけ、嘔吐や下痢、腹痛になるのは暑さで寒邪を受けてなり、寒邪は内臓にあり、温中を主と為すが宜しい。これもまた陰暑の一種である。
暑証は暑気を受けて発熱するものであり、張仲景の論述にある。ものすごく暑い日に長旅をしたり、田野で働き、熱毒が陰を傷つけ、頭痛煩躁となり、身体は熱く、喉は渇き、大汗となり、脈は浮いて、呼吸は粗い。これは暑月に熱邪を受けたもので、名を陽暑と言う。
暑証に八証がある。脈虚。自汗。身熱。背中が冷える。顔色悪く、イライラして喉が渇く。手足は微かに冷え、身体は重い。これを治療するには元気を調整し、次に清利する。
『鍼灸大成』などでは、人事不省に人中(水溝)で、現代中医学では十宣の刺絡などです。陰暑には、神闕塩灸や百会や気海や足三里、内庭などです。
温病学の清代、呉鞠通の『温病条弁』暑温に詳しい理論があります。暑温は最初、手太陰肺経に入ります。
以下、引用。
傷寒に似て、右脈は洪大脈で数脈、左脈はかえって右脈より小さく、口渇が甚だしく、顔面が赤く、汗がおおいに出るものは名を暑温といい、病は手太陰肺経にあり、白虎湯がこれを主る。脈が芤脉が甚だしいものは白虎加人参湯が主る。
手太陰暑温、あるいは既に発汗し、あるいは未だに発汗せず煩渇して喘息し、脈が洪大で有力のものは白虎湯がこれを主り、脈が洪大で 芤脈なら白虎加人参湯が主る。からだが湿で重いなら白虎加蒼朮湯がこれを主り、汗が多く脈が散脈で大、喘息して気脱するものは生脈散がこれを主る。
この上焦の手太陰暑温は、同じ上焦の手厥陰心包経にうつります。手厥陰暑温です。
以下、『温病条弁』より引用。
脈が虚で夜に寝つけず、イライラ煩渇して舌が赤く、ときにうわごとを言い、目は常に開かず、あるいは開かずに閉じることを好むのは暑邪が手厥陰心包経に入った状態である。手厥陰暑温には清営湯がこれを主る。
暑温の邪気は衛分の手太陰肺衛に入り、すぐに上焦の営分である手厥陰心包経に入ります。汗は心の液であり、発汗しすぎると陰虚から陰虚動風でケイレンとなります。これが、『温病条弁』上焦篇の暑温の分析となります。
現在でも、汗をかきすぎて上焦の心肺の気虚・津液虚となり、元気がなく、やる気がなく、夜に寝つけず、イライラして舌尖が赤いというタイプの方は多くおられると思います。
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