『経験する機械 ―心はいかにして現実を予測し構成するか』
アンディ・クラーク
筑摩書房 (2025/10/8)
第1章 予測する機械を解剖する
第2章 精神医学と神経学をつなぐ
第3章 自己充足的予測としての行動
第4章 身体を予測する
第5章 よりよい予想
第6章 生身の脳を超えて
第7章 予測する機械をハッキングする
イギリス・サセックス大学、アンディ・クラーク教授の2023年の著作、『The Experience Machine: How Our Minds Predict and Shape Reality』の邦訳です。
最新の脳科学・認知科学・予測処理理論・予測符号化理論に関する日本語での最新文献であり、読む価値があります。特に、「第2章 精神医学と神経学をつなぐ」は慢性疼痛、自閉スペクトラム症、統合失調症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と予測符号化理論の関連が書かれており、鍼灸師にとってプラスになると思いました。
以下、引用。
もう一つの流れ、すなわち脳の奥深くから目などの感覚器官に至る逆向きの流れであった。
逆方向(脳→目)にシグナルを伝達する神経結合の数は順方向のそれ(目から脳)よりかなり多いと見積もられており、場所によっては4倍に達する。
では、脳の奥深くから感覚器官に近い下流の諸領域へと情報を伝達している、この神経結合は、実のところ、いったい何をしているのか。
トップダウンの結合は、脳の奥深くから感覚末端へと予測を運んでいる。
大学時代に心理学史を学んだ際に出てきたヘルムホルツ、ヴィルヘルム・ヴント、エルネスト・ヴェーバー、グスタフ・フェヒナーなど、19世紀ドイツの心理学者の名前が懐かしかったです。
改めて調べると、ヴェーバーが触覚における二点弁別閾値を発見した人物であり、触覚研究の歴史の重要人物です。心理学史を学んだ当時はまったく思いもしませんでしたが、鍼灸を学び、臨床経験を積んだことではじめて、いかに彼らが偉大なのかが理解できました。
日本では江戸時代にあたる1867年にヘルムホルツが提唱した無意識的推論は「眼や耳から入った不完全な感覚情報は、脳が過去の経験から不完全さを補い、もっともらしい推論をすることで知覚が構成される」というものです。現在の予測符号化理論をこんなにも前から提唱していました。
「第7章 予測する機械をハッキングする」では、プラセボ効果、ヴァーチャル・リアリティによる痛みを緩和する疼痛再処理療法、幻覚剤サイケデリック、瞑想と予測処理理論の関連です。この章は主に疼痛緩和を扱っているので、鍼灸師にとって全てが勉強になりますが、個人的には「自分自身の予測を免れる」という文章に一番、感動しました。
痛みを扱う鍼灸師にとって、アンディ・クラーク著『経験する機械』はおすすめの本です。目からウロコがポロポロ落ちます。
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