【BOOK】『リスクに背を向ける日本人』

 
山岸俊男、メアリー・C・ブリントン
講談社現代新書2010年
 

 
 
2012年にグーグルは研究者ジュリア・ロゾフスキに依頼し、グーグル社の180チームを分析し、「あるチームが他のチームよりも高いパフォーマンスをあげる要素」を徹底調査しました。そして「心理的安全性」が高いチームこそが、高いパフォーマンスと創造性をもったチームだったことが2015年に判明しました(グーグル「プロジェクト・アリストテレス」)。
 
その後、心理的安全性をいかにつくるかを研究してきました。
 
今年、読んだ本の中でも秀逸だったのは、故・山岸俊男の一連の著作です。
 
ハーバード大学社会学部の部長であったメアリー・C・ブリントン教授との対談は、日本を代表する超一流の社会心理学者であり、実験心理学者であった山岸俊男先生の研究内容を非常に簡潔にまとめてあり、感動しました。
 
メアリー・C・ブリントン教授は、日本の就業状況を社会調査して日本研究の業績で修士を取得しました。最初の著作は『女性と経済的奇跡 : 戦後日本におけるジェンダーと労働』です。
 
 
メアリー・C・ブリントン教授は日本の高校卒業生の就業状態の社会調査を行いました。
 
バブル経済崩壊以前の日本の高校の進路指導の先生は、質の高い高校卒業生をメーカーなど高品質の企業に毎年、一定枠、就職させていました。
 
ところが、バブル崩壊と非正規などの雇用崩壊により、この関係が崩れました。その結果として、日本の質の高い労働者のコアであった高卒生のモチベーションが下がり、日本の高校生も大学生も世界で一番、本を読まない、学習モチベーションをもたない結果となったという分析です。
 
「真面目に頑張っても、報われない」のが現状であり、労働市場・教育・男女不平等などを分析したうえで、どのように日本社会を真面目に働いた人間が報われる社会に転換するかが真剣に論じられています。
 
山岸俊男先生は、従来の日本文化は「固定した閉鎖集団、内集団の利益の最大化を目指した社会」であり、「安心」を目指していたと論じています。
 
しかし、1990年代のバブル崩壊以降に終身雇用制度や地域社会は崩壊しました。
 
信頼できない他人との間に、どのように信頼を形成しないといけないのかが山岸俊男先生の研究のメインテーマとなります。
 
ユニークなのは、日本人とアメリカ人を比較すると、通説と違い、「日本人のほうが利己的で、アメリカ人のほうが集団の利益・チームプレイを重視する」ということを実験で証明したことも山岸俊男先生の業績の一つです。
 
日本文化における「相互監視(他人の目)」がないところでは、日本人のほうが「旅の恥はかき捨て」と、利己的な振る舞いをしがちです。
 
宮台真司は山岸俊男先生の業績をよく引用して「日本人は相互監視している所属集団の利益しか関心がなく、ウチとソトのソトには、ものすごく冷たい態度をとりがちであり、公共という概念がない。相互監視している所属集団での地位のマウンティング、人事にしか興味がない」と指摘しています。
 
 
山岸俊男先生のテーマの一つは「ゲームの理論」における「囚人のジレンマ」「社会的ジレンマ」です。
 
よく「一流の技術をもっているが金儲けの下手な料理人と、味がまったく分からないけど一流の飲食店経営者」の例で説明されています。
 
一流の技術を持っている料理人は、「味がまったくわからないけど一流の飲食店経営者」と協力することで、料理に集中できるという最大限の利益を得ることができます。ただし「料理の味がまったく分からない経営者」に対して、自分の技術が一流であることを説明するという難題があります。
 
「味がまったくわからないけど一流の飲食店経営者」は、自分が適切な取り分のお金をとり、配分が適切であることを「経営がわからないけど技術が一流の料理人」に納得させるという難題があります。お互いに、コミットメントし、コミュニケーションによって合意する必要があります。
 
ここで信頼が重要なのですが、基本的には「正直」戦略を反復することになります。
 
山岸俊男先生の社会的ジレンマに関する実験を読んで非常に面白かったのは、「ヒトをみたら泥棒と思え」と思っている人や「内集団での社会的地位や人間関係を常に気にしている」傾向のある人ほど、逆にダマされやすいという常識と反対の実験結果です。
 
逆に「人は基本的に信頼できる」という考えをもっているオープンマインドな人は、実は逆に「この人間を信頼できるか」を常に冷静に判別している傾向があり、他者の行動予測をかなり正確にしていることが判明しました。
 
 
基本的には、「人は基本的に信頼できる」という正直・協力的戦略を反復して実行しつつ、「他者の信頼性を冷静に判断する」という見る目をつちかうという常識的な社会戦略が結論になります。
 
当たり前のことですが、鍼灸師は常に、新しい患者さんに対しては小さな信頼を積み重ねていき、「鍼灸の効果について判断できない患者さん」に鍼灸の効果について説明し、コミュニケーションして、信用を積んで評判を作っていくという戦略は、自分が、何年も続けてきたことでもあります。
 
高い倫理規範をもつように努力し、利他的に行動するほうが長期的には利益を得ることができるというのが、ゲームの理論の解になります。
 
 
「利他的行動の社会関係的基盤」
高橋 伸幸, 山岸 俊男
『実験社会心理学研究』1996 年 36 巻 1 号 p. 1-11
 
より多くの他者に対して利他的に振る舞う方が成員の方がそうでない成員よりも, 結局はより大きな利益を得ることができることが, コンピュータ・シミュレーションを用いた分析により明らかにされた。
 
 
「信頼関係と技術者の行動選択」
柴山 知也, 林 恵子
『建設マネジメント研究論文集』2000 年 8 巻 p. 247-254
 
技術者の社会化が完成してしまう30歳代半ばになるまでの倫理面での教育や、技術力を裏付ける資格制度の確立などが必要になる。
 
 
「雇用制度のなかの信頼 : 信頼の定義と山岸俊男学説批判」
荒井 一博
『一橋大学研究年報. 経済学研究』 42 105-156, 2000
 
 
 

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする