心移熱小腸証と小腸実熱パターン

 

心移熱小腸証

WHO-ICD11をみて驚いたのは、臓腑弁証の小腸実熱証をSmall intestine excess heat pattern(小腸実熱パターン)として入れていたことです。

他にも小腸の病証として小腸虚寒をSmall intestine deficiency cold pattern(小腸虚寒パターンとして入れているのはよいとして、小腸気痛をSmall intestine qi stagnation pattern(小腸気滞)として入れているのもヤバいと思いました。小腸気痛は鼡径ヘルニアではないのでしょうか。

 

心移熱小腸証は、不眠症や口内炎・舌炎の心火上炎証に付随して起こります。

WHO-ICD11では、Heart fire flaming upward pattern(心火上炎パターン)です。心火上炎証の結果として表裏する小腸に熱が移り、発熱、口渇、心煩(イライラ)、口内炎や舌炎となり、舌痛となり、顔面は赤く、小便は黄色や血尿となり、排尿する際に渋り痛み、甚だしければ血尿となり、黄苔で数脈という状態です。

精神的ストレスによる口内炎や舌炎、尿路結石や膀胱炎を表現したのが心熱移熱小腸証で、これは卓見だと思います。

 

『中蔵経』 论小肠虚实寒热生死逆顺脉证之法第二十五

小腸が実すれば、すなわち傷熱し、熱すればすなわち口に瘡を生じる。虚すれば寒が生じ、膿血を泄し、あるいは黒水を泄す。その根は小腸にあり。

 

隋代の『諸病源候論』巻十五、五藏六腑諸侯は臓腑弁証の基本として参考になります。

小腸は火を象徴し夏に旺盛となる。手太陽の経絡であり、心の腑である。水液を下にめぐらせ、小腸が流れれば便を通じる。

その気が盛んなら有余となり、小腸は熱を病み、こげて乾燥して渋り、これは小腸の気の実である。すなわち瀉するのが宜しい。小腸の不足ではすなわち寒気が客し、腸病では怖くて言うことができず、くりかえせばこれは小腸の気虚の病であり補法するのが宜しい。

 

唐代『備急千金要方』

备急千金要方 小肠虚实第二

小腸実熱:左手寸口人迎の前脈が陽実なら手太陽経である。身熱に苦しみ、来ては去り、汗は出ずに心中煩満し、身重く、口中に瘡を生じる。名を曰く小腸実熱という。

灸法:小腸熱満なら陰都(KI19)に年壮、灸する。小腸泄痢で膿血を下痢するなら魂舎に100壮し、小児なら減らす。臍の両脇1寸であり、また小腸兪(BL27)に灸を7壮する。

小腸虚寒:左手寸口人迎の前脈の陽虚なら手太陽経である。頭がい骨の際の片頭痛となり、耳頬が痛む。名を曰く小腸虚寒という。

 

上記の『中蔵経』『諸病源候論』『備急千金要方』の臓腑弁証はかなり共通点があります。
小腸虚寒と小腸実熱でまとめられそうです。

 

清代、江涵暾著、『笔花医镜』 では巻二、臓腑証治での小腸の病証はかなり違います。

『笔花医镜』小肠部(手太阳属腑)

小腸の虚証は左尺脈は必ず細脈・軟脈(濡脈)であり、尿は赤く渋り、腰痛となる。

小腸の実証は左尺脈は必ず洪脈・弦脈であり、その症状は小腸気であり、交腸(こうちょう=肛門から水液)となる。

小腸の寒証は左尺脈は必ず遅脈であり、その症状は咳嗽して失気(しっき=放屁)となる。

小腸の熱証は左尺脈は必ず数脈であり、その症状は尿が渋り、短くなる。

 

左寸口と左尺中で違いますし、虚実寒熱で診ます。

 

 

韓国の舎厳鍼法では、小腸の正格(小腸虚証)では後溪(火経の木穴)と足臨泣(木経の木穴)の補法、前谷(SI2)と足通谷(BL66)の瀉法です。

小腸の勝格(小腸実証)では小海(火経の土穴)と足三里(土経の土穴)の瀉法、前谷(SI2)と足通谷(BL66)の補法です。

小腸の寒格(小腸熱証)では小海(火経の土穴)と足三里(土経の土穴)の瀉法、前谷(SI2)と足通谷(BL66)の補法です。

小腸の熱格(小腸寒証)では陽谷(火経の火穴)と、崑崙(水経の火穴)の補法、前谷(SI2)と足通谷(BL66)の瀉法です。

 

中医学で口内炎や舌炎は「口瘡(こうそう)」です。

口疮中医辩证论治

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