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刺鍼前の消毒の必要性

 

「鍼灸操作前の皮膚消毒の必要性の研究」
针灸操作前皮肤消毒的必要性探讨
田开宇 田韵仪 方智婷 王唯一
《医学争鸣》 2019年01期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-DSJY201901015.htm


以下、引用。

依然としてわが国(中国)では医療の標準ガイドラインで針刺部位に強制的に消毒しているが、国内外の臨床の実践では皮膚の消毒をしないでも感染しないという状況がひろがっている。本論文は国内外の文献資料を調査して、皮下注射や針刺前の消毒の可否を分析して結論を出す。無菌のディスポーザブル使い捨て鍼灸針を使用して、医師の手指が消毒されているという前提の下に、針刺部位を消毒しなくても感染は引き起こされないのである。もし針刺前の皮膚消毒を省略できるなら大幅に医師の時間を省略し、医療費を節約するのに役立つ。

 

 

以前、他の鍼灸師さんに「海外では既に常在細菌叢などの研究から注射前の皮膚消毒についての議論がはじまっています。日本の使い捨てグローブなどの対応は完全にふた昔前の対応です。完全に時代遅れです」と最新英語論文を翻訳コピーしてお渡ししても、まったく理解を得られませんでした。

 

以下、引用。

【3.インシュリン注射、予防注射、皮下注射の皮膚消毒関連文献】
20世紀の1960年代からインシュリン注射の際に学者たちはインシュリン注射や予防注射の皮膚消毒手順に疑問を持ち始めていた。Dannは6年間の調査で6,000人以上の注射のフォローアップで消毒しないことによる局所感染・全身感染が起こらなかったことを確認した。皮膚細菌は注射した深部組織まで侵入しないため、感染を起こさないことも実験により明らかにされた。一般に使用される消毒剤は接触時間が短いため、局所を完全に滅菌することは不可能であり、注射前には消毒が必要ないとなったのである(髓腔内と関節腔内注射を除く)。

 

大阪大学のウイルス免疫学教室の微生物学の専門家に「エボラウイルスの調査に宇宙服を着るのはアマチュアの証明です。海外のテレビをみればわかりますが、プロの免疫学者は半そでシャツでグローブもしません。健康な肌が最強のバリアーであり、アルコール消毒やグローブをすると皮膚が荒れて、感染症を起こしやすくなります」と教えていただきました。もちろん、法律で消毒義務があるので、私は刺鍼の際は消毒しますし、手に傷がある場合はグローブや指サックをしますが、できるかぎり非合理行動はしないようにしています。

 

以下の オレゴン大学の2017年の論文は『マイクロバイオーム』に発表された研究です。

「コンテクストにおける清潔:現代微生物学の観点からの消毒との和解」
Cleanliness in context: reconciling hygiene with a modern microbial perspective
Roo Vandegrift et al. Microbiome. 2017; 5: 76.
Published online 2017 Jul 14. doi: 10.1186/s40168-017-0294-2
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5513348/

現在、腸内細菌叢や皮膚細菌叢の研究が急速に進展し、消毒の概念が変わりつつあり、2016年9月にはアメリカFDAが薬用石けんの使用を禁止しました。2017年のオレゴン大学の論文は以下のように論じています。以下、引用。

ほとんどのエビデンスは、皮膚のマイクロバイオータ細菌叢は宿主への直接的利益となっており、病原性を示すものはほとんど存在しない。この複雑なエコロジカル・コンテクストは消毒が一方的な有用な細菌の除去または減少をはかっていることを示唆している。そして、われわれは「消毒=衛生」の定義を病源微生物の感染の拡がりを減らす行動や実践として病気の感染を減らすように再定義すべきであることを提案する。

 

まずFDAが薬用石けんを禁止したのは、手の常在細菌叢を殺しながら、同時に感染症には何の効果もないからです。手の常在細菌叢が少なくなると手が荒れます。手を頻回にアルコールなどで消毒すると手は荒れて感染症を起こしやすくなります。アトピー性皮膚炎の患者さんの肌をアルコールで頻回、消毒する人はいないはずです。私は日本の法律が鍼灸師の鍼の際の消毒を義務付け、30万円の罰金がある以上、法律にしたがって行動しますが、同時にエビデンスに基づく合理的行動をこころがけています。消毒分野でも新しいパラダイムが登場しつつあります。

2019年3月1日『接触感染予防の終わりの始まり?』
神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎
https://medical-tribune.co.jp/rensai/2019/0301519295/…

 

以下、引用。

例えば接触感染予防。これは薬剤耐性菌を持っている患者のケアをするとき、手指消毒などの標準予防策では薬剤耐性菌を伝播してしまう(かもしれない)ため追加して行われる予防策だ。具体的にはガウンを着たり、手袋を着けたりして、物々しい格好になって患者をケアする。終わったら脱ぐ。患者を診るときにはまた同じことをする。

よって大量の脱ぎ捨てたガウンと手袋が発生する。これらは感染性廃棄物として処理されるが、その量たるや大変なものになる。環境感染学会は一番環境に優しくないというブラックジョークはここから生まれる。

だが、問題は「こうした接触感染予防策、ちゃんと結果出しているの?」という点である。モノとヒト。多大なリソースを使い、コストをかけて対策を行っているのだから、ちゃんと耐性菌や感染症の減少に寄与していなければならないのだが、そこんとこのエビデンスはどうなってるの?

いずれも接触感染予防中止は該当する菌の感染症を増やさず、むしろ減らす傾向にあり、VREは有意に減っていた。

接触感染予防やめよーぜ!の研究は最近、たくさん出ている。MRSAとESBL産生菌をターゲットにしたICUでの接触感染予防中止の前後比較や、MRSAとVREをターゲットにした介入時系列解析(ITSA)が報告されており、いずれも接触感染予防やめてもいいみたいよ、な結果が出ている。

真夜中にたくさん素振りをしたバッターの方が偉い、炎天下で延長も投げ抜いて肩を壊すピッチャーが偉い、的なアマチュアリズムは、プロの世界にはそぐわない。プロはむしろ(いい意味で)「いかに手抜きしながらも結果を出す」かが大事である。努力は手段であり、目的ではない。ダウンサイズできるところはダウンサイズする。結果に影響しない無駄な苦労はしない。

 

 

 

 

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