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鍼鎮痛・得気と肥満細胞の脱顆粒の理論

 
2022年10月17日『メディカル・アキュパンクチャー』
「鍼の『宋氏の肥満細胞理論』」
Song’s Mast Cell Theory of Acupuncture
Yong Ming Li
Med Acupunct. 2022 Oct 1;34(5):316-324
(全文オープンアクセスPDFファイル)
 
 
アメリカの李永明先生による素晴らしい論文です。
 
2022年、イギリスとアメリカでファッシャ理論が進展し、「ツボの過敏化」や「得気」の理論と結合して、鍼の鎮痛におけるツボの過敏化と肥満細胞の脱顆粒の理論が勃興しています。
 
ツボの過敏化=肥満細胞の過敏化が起こり、皮膚や結合組織のヒッパリや牽引などの物理刺激がTRPVファミリー受容体を興奮させ、肥満細胞の脱顆粒から鍼鎮痛が起こります。
ツボは神経血管の密集する複合体であり、肥満細胞から脱顆粒が起こっても神経血管複合体から離れていると鎮痛は起こりにくくなるという仮説になります。
 
 
2019年 李永明『アメリカ中医学雑誌』
「鍼の神経免疫の基礎:皮膚の肥満細胞分布とヒトにおける鍼システムの分布」
The Neuroimmune Basis of Acupuncture: Correlation of Cutaneous Mast Cell Distribution with Acupuncture Systems in Human
Yong Ming Li American Traditional Chinese Medicine Society
The American Journal of Chinese Medicine . 2019;47(8):1781-1793.
针灸对肥大细胞双向调节作用研究进展
田中雪
上海中医药杂志 2019 年第 53 卷第 6 期 S
 
 
2022年2月15日ヴィヴィエン・チャン
『アキュパンクチャー・トゥデイ』
「鍼のツボと肥満細胞」
Acupuncture Points and Mast Cells
WEI (VIVIEN) ZHANG, LAC
Acupuncture Today – March, 2022, Vol. 23, Issue 03
 
 
2022年3月15日ヴィヴィエン・チャン
『アキュパンクチャー・トゥデイ』
「『衛気』と肥満細胞」
Wei Qi and Mast Cells
WEI (VIVIEN) ZHANG, LAC
Acupuncture Today – April, 2022, Vol. 23, Issue 04
 
 
2022年3月2日『セルス』
「肥満細胞と鍼鎮痛」
Mast Cells and Acupuncture Analgesia
Yingchen Li,
Cells. 2022 Mar; 11(5): 860.
Published online 2022 Mar 2
 
 
上記の「鍼鎮痛の肥満細胞理論」を最初に提唱したのは、遼寧中医薬大学の宋継美教授であるという紹介の論文になります。
 
以下、引用。
 
遼寧中医学院の宋継美教授は、最初に皮膚の肥満細胞仮説が鍼の得気による経絡経穴の活性化現象と関連していると提唱した。
 
最近、2021年のノーベル医学賞の受賞は温度と触覚の受容体に関するものであり、鍼の研究に新たな局面を開いた。肥満細胞は、その表面に豊富なTRPVレセプターをもっている。
 
 
1950年、日本の長浜善夫医師と丸山昌郎医師が『経絡の研究』を出版し、経絡現象を問いかけます。長浜・丸山の経絡現象は中国でも承淡安に1955年に翻訳され、中国で経絡ブームを起こしました。
 
1970年代、中国で「経絡現象」「経絡敏感人」などの経絡現象が研究されます。
宋継美先生は1947年に上海同済大学生物学を卒業し、発生学の講師でした。そして1970年代後半に経絡現象や経穴の過敏化、得気を研究し、宋氏鍼灸肥満細胞理論を提唱しました。
 
 
1977年『遼寧中医』
宋継美「肥満細胞と経絡現象」
肥大细胞与经络现象
宋继美
辽宁中医. 1977,(02)
 
 
1980年『遼寧中医雑誌』
「ツボの組織の中の肥満細胞の初歩的観察」
穴位组织中肥大细胞的初步观察
辽宁中医杂志. 1980,(03)
 
 
この『メディカル・アキュパンクチャー』の英語論文と中国語で発表された論文を読み比べると、英語版には中国語版に載っていない記述があります。
 
宋継美先生の父親が国民党の幹部で、娘さんに当時の女性としては最高の科学教育を受けさせたこと、欧米の女性科学者の感覚を持っていた宋継美先生が、中国の文化大革命時代に辛酸をなめる経験をされたことなどの記述は中国語版に載っていません。アメリカで研究をつづけた李永明先生による、苦難の時代を生きた女性科学者としての宋継美先生への尊敬の念が伝わってきます。
 
 
1990年代後半から2022年まで、わたし自身も約25年かけて「経穴とは何か」「経絡とは何か」「鍼の鎮痛と得気とは何か」などを研究し続けて、ここは一つの時代の科学の到達点だと感じました。
 
これは、アメリカに定住した李永明先生やキャスリーン・フイ先生やヴィタリー・ナパドウ先生の得気fMRI研究、あるいは中国の研究者たちの中国語の研究を同時代に、同時進行で読んではじめてわかることだらけでした。
 
米中新冷戦で中国留学生たちのアメリカ留学が制限される、これからの時代には、このような成果は考えにくいです。
 
 
米中友好の平和の時代の科学的研究の最高の成果を読むことができて、本当に良かったです。
 
 
 
 
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