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【BOOK】『美しく立つ―スポーツ医学が教える3つのA』

 
 
渡會 公治
文光堂 (2007/5/1)

 
著者の渡會公治先生は東京大学医学部卒業の医師で、東京大学の身体運動研究室の准教授でした。
Anatomy(アナトミー:構造と機能)、Alignment(アライメント:姿勢の違い)、Awareness(アウェアネス:身体を認識する)の3つのAから姿勢を論じられています。
 
文献では真向法、スワイショウ、八段錦、相撲の四股とバレエのアラベスクやプリエが論じられています。
 
 
この本には、東洋の姿勢の知恵が導入されています。15年ほど前に姿勢の研究をした際に、もっとも良質の本だと思いました。
 
先日、中国の站樁(たんとう)をベースにした姿勢的なボディワークを教えていただき、非常に気づく点が多かったです。
 
創始者の方のセミナーは予約がすぐに埋まってしまうのですが、直弟子の先生に教えていただきました。
 
行く前に、できるだけまっさらな状態にして、セミナーを受講しました。創始者が「武術や身体操作など、いままでやってきた方ほど、それが邪魔をして習得しにくい傾向がある」とおっしゃっていたからです。
 
これは、わたしも技術を伝える講師側として痛感していることです。いままでやってきたことが癖となり、新しい知識の習得の邪魔をします。技術のさらなる習得・積み上げではなく、いままで学習したことの忘却(アンラーニング)こそが、新しい技術の習得には不可欠のようです。この戦略は結果的には大成功でした。失敗もできて、気づきも多かったです。
 
 
次に良かったのが、例外的で結果論ですが、創始者のセミナーをいきなり受けなかったことです。
 
インストラクターの方は隣接する他分野で世界的な実績を残され、さらに教える経験が豊富だったのが幸いしました。インストラクターにとっても、創始者の言っていることは「わからない」そうです。「それは20年以上、その技術だけを身体で実践してきて、そこから気づきを得てはじめて産み出したイノベーティブな技術なので、わからないのは仕方がない」とおっしゃっていました。
 
このようなイノベーション技術の場合、創始者と共に必要なのは、それを私のような一般人に翻訳してくれる人だと思います。インストラクターは「わたしもその技術の奥深いところや本質は理解できていないと思います、しかし、理解できないなりに、工夫したら90パーセントぐらいの確率で再現できるようになりました。その再現のノウハウを私は伝えます」とのことでした。
 
 
創始者は「身体操作など意識を入れると、できなくなります。できるだけ何も考えないで」と言います。一方でテクニカルな細かい指示もしており、矛盾しています。この初学者がひっかかる部分も、インストラクターは「『稽古(練習)』の時は細かく意識して、反復して、技術的に正しい動きを脳に学習させましょう。そして『本番』では、何も考えずにやります。脳と身体にまかせます」と見事な矛盾の解決法を教えてくれました。
 
「足裏の前後や左右に重心がグラグラして、安定しないのですが」と質問すると「その不安定は正しい方法をしているからこそのプロセスで起こる現象です。稽古と習熟度が高くなることで自然に解消します」と、気づきを与えてくれる答えが返ってきました。創始者と初学者をつなぐ通訳者のが、技術の伝達には重要だと思いました。
 
わたしは技術の再現性を求めてセミナーに参加したので、「再現率90パーセントを目指す」インストラクターに教えていただいてラッキーでした。
 
 
以前、姿勢を研究した際に、アレクサンダー・テクニークのレッスンを数カ月、受講しました。
 
アレクサンダー・テクニークは、背中の緊張やからだの間違った使い方の癖がなくなることで、人間に生来そなわっている初源的調整作用が活性化されるという考え方です。
 
アレクサンダー・テクニークでは、短期的に結果を求める態度を「エンド・ゲイニング」と呼んで戒めます。そのため、レッスン中に言語的な指導がなく、わけがわからないままレッスンを終えたのですが、いまになってアレクサンダー・テクニークの考え方と姿勢指導が正しく、素晴らしかったに気づくことができました。
 
しかし、アレクサンダー・テクニークは「10年以上かけてようやく辿り着ける境地」をレッスンの参加者に求めていたことも同時に理解できました。わたし自身も技術者・講師としては、こちら側の態度をとっていることも自覚できました。
 
いままで学習したことの忘却、すなわちからだの間違った使い方や癖をいかに抜いていくかが個人的なボディワークの課題だと感じました。
 
 
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