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危機解決の思考モデルとしての鍼灸

 
2021年3月8日ケンブリッジ大学出版局
「惑星的危機のABC:この危機はシステム鍼灸思考を必要としている」
Banny Banerjee
Environmental Conservation Volume 48 Issue 2
08 March 2021
 
 
ABCのAは「野放しの人新世(Anthropocene Unchecked)」、Bは「生物多様性の崩壊(Biodiversity Collapse)」、Cは「気候変動クライシス(Climate Crisis)」です。
 
これらの地球規模の複合的な危機に対して、論文著者は、まるで鍼灸師が複合的な体の危機に対して体全体を整えて変えるツボを見つけるイメージで、全体を変容するシステム的な鍼の発想を提案しています。
 
 
以下、引用。
 
地球規模のシステム変革を実現するには、アプローチのパラダイム・シフトが必要である。この論文では、多様な動機と競合する目的を考慮して、複雑なシステムの課題に対処するための方法論的フレームワークと実践の構造としてシステム鍼治療を提案している。システム鍼治療は、効果的な変化を急速にもたらすための思考の枠組である。
 
 
人間の活動による気候変動や生物多様性の崩壊は、地球規模で危機をもたらしています。複雑で複合した問題を全体的に捉え、全体を変化させるツボを探るというのが、著者のイメージするシステム・アキュパンクチャー・アプローチのようです。
 
 
著者は、医療関係者ではなく建築家です。建築分野では、何年も前から「都市の鍼治療」アプローチが注目を集めてきました。都市問題を解決しようとする際に、従来は住民を立ち退かせて道路を拡張したり、新しいショッピングセンターをつくるなどの近代アプローチをしてきました。
 
一方、都市の鍼治療は、都市の持っている潜在能力やエネルギーの流れに注目し、「交流を促す仕組みを持ったコミュニティ・スペースをつくる」「コミュニティーが利用可能な低価格住宅を提供する」など、低コストで副作用の少ない軽微な刺激を与えることでポジティブ・フィードバックを創り出し、相乗効果で全体を改善させるというイメージを持っています。
 
この建築分野で発達した、都市の鍼治療の思考法を地球規模の危機に応用しようとしているようです。
 
都市の鍼治療は、コミュニティが持つ潜在能力・自然治癒力に注目して、エネルギーの流れを最小限に刺激して、より大きな効果を得ようとするものです。地球規模の問題を西洋近代の思考法では解決出来ないため、代替案として鍼師の思考法に解決モデルを求めています。
 
 
私の中のシニカルな部分は、昔の鍼灸師は確かに公害や薬害などの社会問題に対して、東洋医学のホリスティックな価値観で社会を変えようという理想を持っていたけれども、今はほぼ見られないと反応します。
 
しかし一方で、理想主義の建築家達のイメージする東洋医学と鍼灸の方が本来の鍼灸の姿だとしたら、東洋医学と鍼灸の思考法は、地球規模の危機に対応できる可能性を持っているとも思うのです
 
肉体的にも心理的にもボロボロになった患者さんを奇跡的に立て直した経験は、経験を積んだ鍼灸師なら複数持っているはずです。それは個人の技術に属するものではなく、鍼灸そのものが持つポテンシャルです。
 
ですから、この建築家が鍼灸のアプローチを複合的危機の解決に応用できると考えても不思議ではありません。複雑なエネルギーの流れを感じ、良いエネルギーの循環をつくりだすことを求めています。
 
 
 
 
 
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