「1950年代の中国気功の歴史」
QIGONG THERAPY IN 1950S CHINA
Utiraruto Otehode and Benjamin Penny
EAST ASIAN HISTORY 40 (2016)
これは文句なしに素晴らしい論文です。
気功の歴史研究で2009年に 一橋大学で博士号を取得されたウチラルト先生の研究です。
1948年に劉貴珍先生が河北省(北戴河气功疗养院)で共産党幹部を気功で治療しました。そこで中国共産党幹部の信頼を得ました。
1950年の第1回全国衛生会議で西洋医師は中国医学を学ぶできであり、伝統医師も西洋医学をまなぶべきであるという方針が確認されました。
1954年には毛沢東が「祖国医学の遺産を継承発展させる」「西洋医師が中医を学ぶ」ことを提唱しました。この方針転換によって唐山市氣功療法所が設立され、 劉貴珍先生が西洋医師に気功を教えました。
1955年12月、唐山気功研究グループは祖国医学に大きな貢献をしたとして中醫研究院の創立式で賞を受賞します。
この1955年には、劉貴珍先生の気功の論文が、『中医雑誌』に掲載されました。
劉貴珍, ’ 在實驗研究中的中醫氣功療法, 中醫雜誌 10 (1955): 22–23.
1956年、劉貴珍先生は先進的労働者、労動模範と呼ばれました。
北戴河氣功療養院が設立され、ここで劉貴珍先生は劉少奇の妻や周恩来の兄弟を治療しました。
南京中医学院で呂炳奎編の『中醫學概論』がテキストとして使われます。この 『中醫學概論』 に気功は全面的に採用されました。これは9年後の1965年に日本で『中国漢方概論』（中国漢方医学概論刊行会）として翻訳出版されました。世界初の中医学の本であり、日本で最初に翻訳された中医学の専門書です。
『中国漢方医学概論』
南京中医学院 編 中国漢方医学概論刊行会 (1965年)
『中醫學概論』に気功が掲載されている理由がこの論文で初めて理解できました。
また、全國首次氣功療法培訓班が組織されました。上海の陳涛が劉貴珍先生より気功を学びます。
1957年、劉貴珍先生は『気功療法実践』を出版して大ベストセラーになります。
上海では上海気功療養所が陳涛所長、顧問は蒋維喬でスタートしました。蒋維喬は日本の岡田虎二郎の『岡田式静座法』を翻訳しています。
1958年から毛沢東は大躍進政策をとります。
1958年8月30日に上海市で尹恵珠主任医師が世界最初の鍼麻酔手術を成功させます。
1959年には北戴河全國氣功經驗交流會が開催されます。
1954年から1959年にかけてソ連から毎年、鍼と気功の見学を受け入れていました。旧ソ連の鍼を発達させたヴァディム・ガブリエレヴィッチ・ヴォグラリーク教授も1954-1956年に中国に留学しています。
1961年には中国で全国86の気功施設ができました。ところが、1962年には大躍進政策の失敗が露呈します。
1964年、劉貴珍先生が周潜川事件に巻き込まれます。周潜川はキリスト教を学んで海外留学して英語とドイツ語を学び、峨眉功という気功を教えていましたがスパイ容疑で逮捕され、懲役15年の判決を受け、1971年には獄死します。
1965年、劉貴珍先生は共産党から追放されます。1965年から文化大革命が始まりました。
1966年、劉貴珍先生は文化大革命の中で「気功という毒を広めた人物」、「反革命分子」と非難されます。
1969年、唐山市氣功療法所は閉鎖され、劉貴珍先生は労動改造収容所に送られ、公衆便所の掃除係とされました。
1974年、中国共産党は749局を秘密に組織し、銭学森が人体特異効能を研究し始めます。
1977年から郭林が郭林新気功を北京で普及します。
1980年、銭学森が人体科学を公然と研究し始めます。
1980年、劉貴珍先生は名誉を回復されますが、中国で気功がブームになる前の1983年に逝去されました。
1956年に 呂炳奎先生が書かれた 『中醫學概論』に気功が入っている謎が、2016年のウラチルト先生の論文で解明できました。
【ウチラルト(Utiraruto：烏其日楽圖)先生の気功論文】
2008年
「現代中国における気功実践の動態」
ウチラルト
日本文化人類学会研究大会発表要旨集 2008(0), 281-281, 2008
2009年3月
『1950年代中国における社会主義建設と「気功療法」の生成』
ウチラルト
『次世代アジア論集』 (2), 24-43, 2009-03
2009年7月
ウチラルト「中国の近代化政策と気功の変遷」(博士論文)
コメント