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【BOOK】『トランプ時代の魔術とオカルトパワー』

『トランプ時代の魔術とオカルトパワー』
ゲイリー・ラックマン著
ヒカルランド(2020年6月3日)

 

2023年の現時点で読んだ本のベストワンです。日本語タイトルと書影で損をしすぎです。
陰謀論とオカルトの本に見せかけて、現代の陰謀論の背景を分析する理知的な本です。

 

英語タイトルは「ダークスター・ライジング」であり、これは、もちろんクリストファー・ノーラン監督のバットマン映画『ダークナイト・ライジング』のパロディです。

 

まず、トランプ大統領が唯一読んだ文献の著者であり、尊敬している人物であるポジティブ・シンキングのカリスマ牧師、ノーマン・ヴィンセント・ピールの思想背景から解説を始めます。

 

19世紀にメスメルの催眠により奇跡的治癒を経験したフィニアス・クインビーが「心は現実をつくる」というクリスチャン・サイエンスをつくります。ここからアメリカのキリスト教系ポジティブ・シンキング、ニューソート(新思考)の歴史が始まります。

 

20世紀初めは「引き寄せの法則」や『思考は現実化する』のナポレオン・ヒル、『人を動かす』のデイル・カーネギーなどのスピリチュアル自己啓発本が大流行しました。

 

 

 

この流れを汲んでいるのがトランプの思想の師匠、ノーマン・ヴィンセント・ピールです。鏡をみて自己暗示をかけたり、視覚イメージ化したり、否定的思考パターンを肯定的思考パターンに変換する心理技術を使います。これらの現実改変・心理技術は20世紀初頭にアメリカやヨーロッパで大流行しました。

 

その淵源は、インドの左道ヨーガを西洋に翻訳した魔術師、アレイスター・クロウリーや『人智学・心智学・霊智学』のルドルフ・シュタイナー、ロシアのラスプーチン、神智学のマダム・ブラヴァツキー、グルジェフ、ウスペンスキーなどです。

ここにロシア・サンクトペテルブルクでロマノフ王家やロシア貴族の間でチベット仏教・チベット医学を流行させたピョートル・バドマエフを入れたら、浮き上がってくる思想があります。インドの左道ヨーガや性魔術の要素をもったチベット仏教などのアジアの智慧がヨーロッパと出会って産まれた思想が西洋魔術思想です。

 

これらはある意味、現代的です。現代科学の最先端では客観的現実が消失しました。正確には「客観現実世界は存在するが、それをわれわれは歪んだレンズである主観的認知で解釈している」のです。

そこで、トランプのような混沌魔術の実践者は、予測不能の行動や意味不明の言動とフェイクニュースによって、まず混沌・無秩序をつくりだします。そして、既成秩序の側が感情的ショックを受け、混乱しているスキをついて現実を改変していきます。

 

トランプは、インターネットのヴァーチャルな情報の世界、アストラル世界であるSNSの情報を改変することで現実世界の認知・解釈を変えていきました。これはまさに魔術師、アレイスター・クロウリーに起源をもつ混沌魔術の技術です。

 

そして、トランプ大統領の背後にいたスティーブ・バノンやアメリカのオルタナ右翼の分析が始まります。スティーブ・バノンの思想的背景にある、フランスのオカルト思想家、ルネ・ゲノンやイタリアのオカルト思想家、ユリウス・エヴォラのファシズムにつながる思想を分析していきます。

さらに、ロシアのプーチン大統領の思想的背景にいる哲学者、アレクサンドル・ドゥーギンの思想遍歴、ファシズム思想・オカルト思想との接近を描いていきます。

アレクサンドル・ドゥーギンがウクライナについて予言したことは、2022年ロシアのウクライナ侵攻によって、すべて現実となりました。これはプーチン大統領がドゥーギンの愛読者であることを考えると「予言の自己成就」に近いです。プーチン大統領もロシアの愛国青年運動とフェイク・ニュースを駆使して、ロシアの現実世界を変えていきました。

 

英語タイトル「ダークスター・ライジング」は、まさにダークサイドの心理操作技術が世界を変えていることを表現していると思います。戦前のドイツと日本ではオカルト政治勢力がファシズムの温床となりましたが、現代ロシアと現代アメリカでオカルト思想と反近代思想がファシズム全体主義と権威主義、陰謀論をはびこらせる温床となっていることが浮き彫りとなる名著でした。

 

わたしは伝統医学プラクティショナーなので、この本を読んで気になることが多くありました。

まず、インドの左道ヨーガや性魔術としてのチベット仏教の西洋魔術思想への影響です。

神智学のマダム・ブラヴァツキーが大英帝国領インドを旅して「左道」と「右道」という英語を造語しました。

そして、西洋魔術師、アレイスター・クロウリーが「左道を行う者」「ブラック・ブラザー」が行う「黒魔術」「性魔術」「オカルト魔術」をつくりました。

このようなインド思想・チベット思想のダークサイドの側面は、日本ではほとんど知られていません。

 

また、戦前、日本にヨーガを導入した中村天風は、右翼の頭山満の軍事密偵スパイ、人斬り天風として満州に潜入した人物です。

戦後日本のヨーガの導入の草分けである沖ヨガの沖正弘先生も軍事密偵スパイでした。

ロシア・サンクトペテルブルクにチベット仏教・チベット医学を普及したピョートル・バドマエフがロシア帝国のスパイだったのも有名な話です。ピョートル・バドマエフの弟子が、演劇のスタニスラフスキーにヨーガを教えて、演劇のスタニスラフスキー・システム演劇メソッドが開発されました。

スタニスラフスキー・システムは呼吸法を重視し、「もしも」という虚構からニセの記憶と感情をつくりあげて、人格を改変して現実の認知を変化させ、新しい現実(虚構)を創り上げるメソッドです。

 

インドにWHO伝統医学センターができて、これから世界にライト(rihgt)なインド伝統医学が本格的に拡がろうとしています。しかし、光によって覆い隠される部分である戦前のインド伝統医学の思想は、いまだに闇に隠されたままだと思います。

 

 

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