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【BOOK】『ブッダという男―初期仏典を読みとく』

 
 
清水俊史
‎筑摩書房 (2023/12/7)

 
 
2023年の新書は間違いなく、この本がナンバーワンです。
 
東洋医学を勉強していると、仏教の知識がどうしても必要になります。
 
江戸時代に医学者が儒医となる前は、日本は僧医の世界が続きました。日本に中国伝統医学「唐医方」をもってきたのは奈良仏教、唐招提寺・律宗の鑑真和尚です。
 
平安時代の空海は「弘法の灸」で民間伝承されています。鎌倉時代の『喫茶養生記』の栄西は鎌倉新仏教・臨済宗の開祖です。室町時代の夢分斎の「教下別伝、不立文字」は禅の言葉ですし、田代三喜の医学は仏教医学の色が濃いことも最近、判明してきました。明治維新以降の霊術の歴史を知れば知るほど、近代仏教の知識が必要なこともわかりました。
 
 
日本文化を知る意味でも、仏教の基礎知識は必要になります。
ところが、仏教学はものすごく奥が深く、初学者には取り組みにくい部分があります。
 
 
清水俊史先生の『ブッダという男―初期仏典を読みとく』は、最新の仏教学の進展をおさえつつ、論理的に整理されています。読んでいるだけで頭の中が整理されます。清水先生は論理学者のクワインに多大な影響を受けたと知り、納得しました。クワインは科学哲学におけるデュエム・クワイン・テーゼで知られます。
 
 
『ブッダという男』は、Xで空前のブームを起こし、多くの他分野の学者たちが「こんな研究方法があったんだ!自分の研究分野に応用できる!」と大反響を起こしています。わたしの感想は「仏教学は中村元先生の没後、久しぶりに大衆に届きうる学者が登場した!中村元先生を超えたかも・・・」というものです。清水俊史先生の大ファンになりました。
 
 
しかし、同時に、後書きがXで大きな問題となります。
 
2013年に博士号をとったばかりの30代の若き清水俊史先生は、東京大学教授の50代の馬場紀寿さんと学問上の論争を起こします。そして、馬場教授は、2021年に清水先生が大蔵出版から出版しようとした本に対して出版停止の圧力をかけ、「出版したら書評で清水を潰す。大蔵出版の姿勢も叩く」「清水君が出版をあきらめれば、彼の就職を応援する」というアカデミック・ハラスメント事件を起こします。清水先生は断筆するほど憔悴します。圧力をかけられた大蔵出版がホームページ上で経緯をすべて公開して、大きな話題となりました。
 
 
そして、2023年12月に『ブッダという男―初期仏典を読みとく』が出版され、アカデミック・ハラスメントの経緯が書かれていたため、再びXで大きな話題となりました。
 
 
清水俊史先生の『ブッダという男』は、戦後にあらわれたブッダをめぐる言説を批判します。それらの批判は戦後の最新研究に基づいたエビデンス・ベースド・アプローチであり、論理的です。
 
 
馬場紀寿教授は東京大学からケンブリッジ大学、スタンフォード大学に留学し、50代で東京大学教授となり、多くの賞も受賞したエリートです。そのエリート中のエリートが、人脈を使って清水先生の大学教員への就職と出版を妨害しました。しかも、仏教界・インド哲学会は馬場教授側につき、沈黙しました。清水先生は一時期、行方不明となり、断筆を決意し、いまでも大学教員への道は閉ざされています。
 
 
しかし、大蔵出版の編集者が清水先生を支え、筑摩書房の編集者が清水先生に連絡をとり、『ブッダという男』が出版されました。清水先生は学者としての死から蘇り、仏教インド哲学会に論争を仕掛けます。宮本武蔵の一乗寺下り松での吉岡一門との決闘を思わせます。
 
清水先生は独学の人であり、「プロは実力が有ったら良い」という哲学がにじみ出ています。攻撃力が全開なので、たしかに誤解されやすいとは思います。とはいえ、清水先生のような若い実力をもった人間が、既得権益や利権に潰されることが容易に起こるということがジャニーズや宝塚に限らず仏教界やアカデミズムにも起こっているということが明らかになったことに、これがいまの日本の文化的現状なのだとシミジミしました。
 
 
 
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第一部 ブッダを知る方法
第一部 ブッダを知る方法
第1章 ブッダとは何者だったのか
第2章 初期仏典をどう読むか
第二部 ブッダを疑う
第3章 ブッダは平和主義者だったのか
第4章 ブッダは業と輪廻を否定したのか
第5章 ブッダは階級差別を否定したのか
第6章 ブッダは男女平等を主張したのか(
第7章 ブッダという男をどう見るか(現代人ブッダ論/イエス研究との奇妙な類似点/「歴史のブッダ」と「神話のブッダ」)
第三部 ブッダの先駆性
第8章 仏教誕生の思想背景(生天と解脱/バラモン教と沙門宗教/沙門宗教としての仏教)
第9章 六師外道とブッダ(道徳否定論/唯物論/要素論/決定論/宿作因論と苦行論/懐疑論/沙門ブッダの特徴)
第10章 ブッダの宇宙(梵天と解脱/生天と祭祀/瞑想と悟り/現象世界と解脱)
第11章 無我の発見(個体存在の分析/バラモン教や唯物論者との違い/ブッダは「真の自己」を認めたのか/経験的自己と超越的自己/なぜブッダは自己原理の有無に沈黙したのか/ブッダの無我説)
第12章 縁起の発見(縁起の順観と逆観/煩悩・業・苦/ジャイナ教の縁起説/ブッダの縁起説)
終章 ブッダという男
参考文献/あとがき
 
 
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