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【BOOK】『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』

 
疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた
 
 
1950年代のイギリス、ロンドンで筋痛性脳脊髄炎(ME)が命名されました。
 
1984年アメリカ、ネバダ州で慢性疲労を主訴とする患者が大量発生し、当初はエプスタイン・バー・ウイルスが原因と考えられました。
 
1988年アメリカ疾病予防管理センターが慢性疲労症候群を命名しました。
 
1990年代から日本では厚生労働省のCFSの調査研究班の研究がはじまります。渡辺恭良先生、倉恒弘彦先生を中心に疲労の科学的研究が日本ではすすみました。わたしも1990年代から日本の疲労研究をフォローし続けています。
 
東京慈恵会医科大学疲労医科学研究センターの近藤一博教授の『疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた』は、日本の疲労研究の最新版です。
 
特に2019年からの新型コロナウイルスの流行により慢性疲労症候群、うつ病、脳の炎症に関する理解が劇的に変化したそうです。日本の疲労の科学研究が新型コロナウイルスによるロング・コビット後遺症の研究でいかに変化したのかというアップデートになります。
 
 
近藤一博教授は2020年にシス1遺伝子(SITH-1)がうつ病の発生に関与していることを発見しました。シス1遺伝子はスターウォーズのシスの暗黒卿から名付けられました。
 
 
2020年6月26日近藤一博
「HHV6は感染の潜伏期に視床下部-下垂体-副腎軸を活性化することでうつ病のリスクを大幅に増加させる」
Human Herpesvirus 6B Greatly Increases Risk of Depression by Activating Hypothalamic-Pituitary -Adrenal Axis during Latent Phase of Infection
Nobuyuki Kobayashi
iSCIENCE VOLUME 23, ISSUE 6, 101187, JUNE 26, 2020
 
 
 
もっとも面白かったのは「第6章 人類にとって疲労とはなにか」の記述です。
シス1遺伝子という不安と鬱を引き起こす遺伝子がいかに生き残ったのかの仮説です。
 
人類は100種類以上の種族があったのに、最終的に現生人類ホモ・サピエンスのみが生き残りました。
 
『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリは、ホモ・サピエンスは虚構(ウソ)を信じることができたことが他の人類との最大の違いと論じました。
 
サピエンス全史 上
 
 
近藤一博教授は、シス1遺伝子は不安と恐怖を引き起こす遺伝子だと言います。
6万年前にホモ・サピエンスはシス1遺伝子を獲得しましたが、ネアンデルタール人はシス1遺伝子を持ちませんでした。ホモ・サピエンスは不安と恐怖、怒りと憎しみの能力を得たことでネアンデルタール人を滅ぼしたのではないかというのが近藤一博教授の仮説です。
 
 
現代は情報操作の時代です。イギリスの世論操作会社ケンブリッジ・アナリティカは2013年頃には女性嫌悪の性格を持つオルタナ右翼の部族をインターネット上で発見し、既に研究していました。
 
そしてFacebookから得たアメリカ人の約1億人の性格ビッグデータをもとにダークトライアド(闇の三大属性)とよばれる「サイコパス」「ナルシシズム」「マキャベリアニズム」などの性格特性をもつ部族を情報操作し、2016年にトランプ大統領を当選させました。
 
人類は虚構を信じる能力を得たことで部族となり、不安と恐怖、怒りと憎しみから「やつら」と「われわれ」を区別して他部族を攻撃・批判することで部族の結束を固めます。
ものすごく暗い人間観ですが、いま起こっている現実をみるかぎりは説得力を感じました。 
 
 
序 章 疲労を科学するには
第1章 生理的疲労とはなにか
第2章 慢性疲労症候群 病的疲労の代表格
第3章 うつ病 究極の病的疲労
第4章 新型コロナ後遺症 見えてきた病的疲労の正体
第5章 ついにすべてがつながった
第6章 人類にとって疲労とはなにか
 
 
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