2014年アメリカ、オレゴン州ポートランのナショナルカレッジ・オブ・ナチュラル・メディスンの研究。
「脾の陽気不足の疲労への直接灸治療:パイロット研究」
Direct moxibustion to treat spleen qi and yang deficiency fatigue: a pilot study.
Thorne TL, et al. J Acupunct Meridian Stud. 2014.
以下、引用。
よく知られる灸治療は、20世紀には澤田健が朝鮮で何年も研究した後に日本で発展させた。これは太極療法と呼ばれ、患者の呈する臨床症状に基づき調整されたコア・セットのツボが用いられた。
深谷伊三郎はもう1人の近代の灸師であり、燃焼する艾柱の上から竹筒をかぶせて治療の刺激を深部に届かせる方法を紹介した。
この小規模な小さな艾柱を皮膚で直接燃やすという「澤田/深谷プロトコル・テクニック」は経験のあるプラクティショナーが施術するなら脾の陽気不足による疲労(SQYDF)患者にとって安全で耐えられるものである。フリンダー疲労スケールとSF36スコアは脾臓の陽気不足による疲労(SQYDF)患者の症候変化を評価する基準として有用であった。
11人の女性患者の脾臓の陽気不足による疲労に対して週に1回、8週間の灸治療を行いました。
ツボは陽池などの澤田流太極療法の11穴です。フリンダー疲労スケールとSF36で症状の改善が見られました。
面白いのは、脾の陽気不足の疲労』の診断に中医学の舌診に加えて日本伝統医学の脈診と腹診を取り入れていることです。
以下、引用。
脈診の分析は「脈差診」として知られる日本の経絡治療鍼の分類を採用した。腹診も日本伝統医学の方法を採用した。
つまり、この論文は脈診と腹診は日本伝統医学を採用し、舌診は中国伝統医学を採用し、診断は脾の陽気不足という中医学の弁証を採用し、治療法は日本の澤田流太極療法のツボに深谷式竹筒灸をしています。読んでいてものすごく楽しくなりました。
オレゴン州ポートランドは今、全米で1番住みたい街にランクされて住民が急増しています。ポートランドの街自体が政策として「ヘンなヒト」を募集しているため、保守的な田舎では生きにくい、自由を求める人たちが集まるようです。
この論文を書いたオレゴン州ポートランドのナショナルカレッジ・オブ・ナチュラルメディスンは米国の鍼灸学校ランキング18位で、同じくオレゴン州ポートランドにはアメリカ鍼灸学校ランキング1位の名門、オレゴン・カレッジ・オブ・オリエンタル・メディスンもあります。
アメリカのオピオイド危機に対して、アメリカ軍・アメリカ退役軍人省の次に鍼を採用したのがオレゴン州です。
オレゴン州ポートランドは鍼灸のレベルが高い、鍼灸に理解が深い州になりつつあるようです。
オレゴン州ポートランドは昔、日系人を収容し、アメリカ第二次世界大戦最大の恥と言われた人種差別の街でしたが、戦後ドイツのように徹底的に反省し、アメリカで人権と多様性を最も尊重する街を目指そうと住民たちが決心してまちづくりに取り組んだ結果、人口が急増したそうです。
鍼灸と自由な心は相性が良いのだと思いました。
コメント