清代、呉鞠通先生の『温病条弁』暑温です。暑温は『温病条弁・上焦篇』に初出する概念です。
以下、引用。
傷寒に似て右脈は洪大脈で数脈、左脈はかえって右脈より小さく、口渇が甚だしく、顔面が赤く、汗がおおいに出るものは名を暑温といい、病は手太陰肺経にあり白虎湯がこれを主る。脈が芤脉が甚だしいものは白虎加人参湯が主る。
これは『金匱要略』の中えつであり、陽明病の白虎湯や白虎加人参湯が使われます。足陽明胃経の胃熱があるので、顔面が真っ赤になり、大汗が出て、口渇があり、脈が洪大脈となります。
『六経弁証』では陽明病の陽明経証になります。
『衛気営血弁証』では気分証の気分熱盛になります。
呉鞠通先生は、同じ病態を『三焦弁証』、上焦証の手太陰暑温と表現しています。陽明胃経や手太陽小腸経との関連に言及し、李東垣『脾胃論』の清暑益気湯や生脈散に言及しています。
以下、引用。
手太陰暑温、あるいは既に発汗し、あるいは未だに発汗せず、煩渇して喘息し、脈が洪大で有力のものは白虎湯がこれを主り、脈が洪大で 芤脈なら白虎加人参湯が主る。からだが湿で重いなら白虎加蒼朮湯がこれを主り、汗が多く脈が散脈で大、喘息して気脱するものは生脈散がこれを主る。
この上焦の手太陰暑温は同じ上焦の手厥陰心包経にうつります。手厥陰暑温です。
以下、引用。
脈が虚で夜に寝つけず、イライラ煩渇して舌が赤く、ときにウワゴトを言い、目は常に開かず、あるいは開かずに閉じることを好むのは暑邪が手厥陰心包経に入った状態である。手厥陰暑温には清営湯がこれを主る。
さらに手厥陰暑温は重症になると、意識不明、ひきつけ、ケイレンを起こす暑癇となります。
以下、引用。
小児暑温では、身熱し、突然にケイレンする。名前を暑癇といい、清営湯がこれを主る。また、清営湯と紫雪丹でもよい。
小児の陰はさらに大人よりも虚であり、いわんや暑月はなおさらである。一度暑温が入り、それはすぐに衛分から営分に入る。そして小児の臓腑は薄く弱いのである。血絡が火邪を受けて火が極まれば風を生じる。属にこれを急驚と呼ぶ。ただ、清営湯で営分の熱を清し、津液を保ち、液を満たして陽を和して自然に汗が出れば解するが、けっして発汗させてはいけない。紫雪丹を与えて、心包絡の熱を清して内竅を開くのである。
暑温の邪気は衛分の手太陰肺衛に入り、すぐに上焦の営分である手厥陰心包経に入ります。汗は心の液であり、発汗しすぎると陰虚から陰虚動風でケイレンとなります。これが『温病条弁』上焦篇の熱中症の分析となります。
暑温は 『温病条弁』中焦篇では湿邪と結びつきます。特に伏暑は湿邪と結びつき、三焦に広がります。秋の霜降(10月23日頃)以降に問題を起こします。
以下、引用。
暑温が三焦に蔓延すると、舌は滑舌となり微かに黄色くなる。邪気は気分にあり、三石湯がこれを主る。
暑温は 『温病条弁』下焦篇では、足少陰腎経に入って消渇を起こしたり、足厥陰肝経に入って筋の麻痺をひきおこします。
以下、引用。
暑温の邪気が深く足少陰腎経に入ると、消渇を引き起こすので連梅湯がこれを主る。
足少陰腎は五液を主り、乾燥をにくむ。暑邪がまず手少陰心に入ると、心火は独り上炎して腎液が供給できなくなり、消渇となる。
暑温の邪気が深く足厥陰肝経に入って麻痺するものは、連梅湯がこれを主る。
肝は筋を主り、筋は腎から液を受けている。熱が肝陰を傷つけると、筋は液を受けることができずに筋肉が麻痺する。心包絡と肝はともに厥陰経であり、風木を主る。暑邪が心に先ず入ると心包絡が代わりに邪気を受ける。風邪と火邪があいうち、麻痺しないことがあろうか。
呉鞠通先生の『温病条弁』の暑温の分析は、経絡を分析して、精密・繊細です。
現在でも、汗をかきすぎて上焦の心肺の気虚・津液虚となり、元気がなく、やる気がなく、夜に寝つけず、イライラして、舌尖が赤いというタイプの方はたくさんいらっしゃると思います。
手厥陰心包絡(手少陰心経)に邪熱がこもっているので、手太陽小腸や手少陽三焦から利水する戦略をお勧めします。
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