王叔和の『脈経』 肺大腸部第四
以下、引用。
黄帝曰く、秋脈は浮くが如しというが、何故、浮くが如しなのか。
岐伯曰く、秋脈は肺であり、西方は五行の金であり、万物の収歛するところである。それで気が来るのが毛で中央は硬くなり、両傍は虚であればこれを太過といい、病は外にある。脈の気が来るのが毛で微なら不及であり、病は内にある。
黄帝曰く、秋脈の太過と不及はどのような病をひきおこすのか。
岐伯曰く、太過では人は気逆となり、背中が痛み、うつうつとして気が塞がる。不及では人をして喘せしめ、呼吸は浅く咳して、上は出血することもあり、下は病音を聞く。
肺脉が来るのが厭厭とやすらかで静かで、ショウショウとしてヒソヒソとささやくようで、ニレの葉をつつむサヤのようならば肺脉は平脈である。
秋は五行の金で肺が旺盛となり、その脈は浮・微かに渋脈で短脈であれば平脈である。
この『脈経』の記述は『黄帝内経素問』の玉機真臓論篇第十九の『秋脈如浮』という文章の内容を補足したものです。
秋の毛脈を唐代の王冰は「その脈がくるとき、軽虚にして浮いていれば毛脈である」と注釈しています。
さらに微かに渋脈で短脈となります。
短脈は肺気虚や気病、中気不足で、長脈は実証、実熱、気逆です。
渋脈は「ナイフで竹を削るような脈象」で、気血の停滞をあらわします。
夏の鈎脈、洪脈は熱が強いときの滑らかな脈で、滑脈とほぼ同じ脈波です。夏は脈が来るたちあがりが滑らかですが、秋は脈が来る立ち上がりがかすかに渋となります。
唐代の孫思邈著、『備急千金要方』 では寸・関・尺の脈診で肺を診断します。
以下、引用。
右手関上の前の寸口の脈の陰が絶えるものは無肺脈であり、呼吸困難と咳逆に苦しみ、咽喉が詰まり、げっぷが出る。手陽明を刺して陽を治療する。
右手関上の前の寸口の脈が陰実なのは肺実であり、少気、つまり呼吸が浅く、口数が少なく、胸中が膨満して肩に引く。手太陰肺経を刺して陰を治療する。
この『千金要方』肺臓脈論第一は非常に面白いです。
寸口脈の三部、寸関尺で五臓六腑を診ます。右寸口で肺を診るのですが、沈めて弱い場合は手陽明大腸経を刺して肺を治療するのが面白いです。
最後に、秋の肺・大腸と関連する白気狸という病気が記述され、心兪と肺兪に灸して治療するという記述が有ります。
白気狸は『金匱要略』百合狐惑阴阳毒病脉证治の陰陽毒の一種であり、『諸病源候論』や『三因極一方証論』に記述がありました。
陰陽毒とは 疫毒が咽喉に侵入し、毒が血分に入る概念だそうです。まるで温病です。
春の名前は青筋牵引、夏の名前は赤脉攒、秋の名前は白气狸、冬の名前は黑骨温毒と言います。『金匱要略』百合狐惑阴阳毒病脉证治には陰陽毒、百合病、狐惑、陰陽交といった謎の病気がめじろ押しです。
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