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胃不全麻痺

 

 

2018年12月18日コクラン・システマティックレビュー
「『胃不全麻痺』の鍼」
Acupuncture for symptomatic gastroparesis.
Kim KH et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Dec 18;12:CD009676.

 

以下、引用。

【著者の結論】
鍼単独または胃薬と併用した鍼は、薬物単独と比較して糖尿病性ガストロパレーシス胃不全麻痺を改善するという非常に低い確度でのエビデンスが得られた。

 

胃不全麻痺(ガストロパレーシス)は、FD(機能性ディスペプシア)とよく似ています。胃切除後の胃不全麻痺、糖尿病性胃不全麻痺、原因不明の特発性胃不全麻痺などがあります。原因不明の特発性胃不全麻痺は3分の1を占め、ウイルスによる感染症後の自己免疫反応で迷走神経が損傷しているのではないかと言われています。

症状は慢性の慢性の吐き気(93%)、嘔吐(特に食事していない嘔吐)(68–84%)、腹痛(46–90%)、食事で2-3口しか噛んでいないのに満腹感(60–86%)などです。

 

これは中医学の臓腑弁証の胃気上逆証でしょうか?糖尿病性胃不全症候群はともかく、特発性胃不全麻痺に鍼灸は効きそうです。ただ、FDの分類である腹部膨満とゲップ(曖気)を特徴とするPDS(食後愁訴症候群)と心窩部痛以外にどう違うのかがまったくわかりません・・・。

西洋医学の消化器疾患はFD(機能性ディスペプシア)、GERD(胃食道逆流症)、IBS(過敏性腸症候群)、UC(潰瘍性大腸炎)、胃不全麻痺(GP)など、わけのわからない世界に入ってきています・・・。

 

世界保健機構(WHO)のICD-11の弁証論治、臓腑弁証の胃の弁証は以下になります。

(1)Stomach qi deficiency pattern(胃気虚パターン)
【胃気虚】

(2)Stomach qi uprising pattern(胃気上逆パターン)
【胃気上逆】

(3)Stomach yin deficiency pattern(胃陰虚パターン)
【胃陰虚】

(4)Stomach heat pattern(胃熱パターン)
【胃熱】

(5)Dampness in the intestines pattern(腸の湿パターン)

(6)Cold invading the stomach system pattern(寒邪犯胃パターン)
【寒邪犯胃】

(7)Intestine cold stagnation pattern(腸に寒邪が阻滞パターン)

 

WHOの臓腑弁証の胃の弁証が一番問題だらけだと思いました。だいたい胃気虚と脾気虚は何が違うのでしょうか。胃気虚と胃陰虚の違いと、鍼灸だったらどんな配穴をするのか。鍼灸処方が胃兪と中脘だと言うなら、気虚と陰虚を鑑別する意味は何でしょうか。もし一緒なら胃気虚も胃陰虚もまとめて胃虚でいいのではないでしょうか。

 

隋代の『諸病源候論』巻十五、五藏六腑諸侯は、「胃脈が実なら『脹』となり、虚すれば下痢(泄)となる。関上脈が滑脈なら胃中に熱があり、脈が滑脈で実脈なら気満して食欲がない。関上脈が浮脈なら積熱が胃にある」と述べています。

 

唐代の『備急千金要方』では胃実熱と胃虚冷に分類しています。これは臓腑弁証というより経絡弁証です。

胃実熱:右手関上の脈が陽実なら、足陽明経である。頭痛に苦しみ、汗が出ずに温瘧(おんぎゃく)となり、唇や口が乾燥し、よく哕(=シャックリ)となり、乳癰(にゅうよう=乳腺炎)となり、欠盆・脇の下が腫れて痛む。この名前を胃実熱という。

胃虚冷:右手関上の脈が陽虚なら足陽明経である。下枝が冷えて眠ることができなくなり、悪風してセキセキと振るえ、目の急性症状となり、腹痛して腸鳴し、ときに悪寒し、ときに発熱し、唇が乾燥して、顔面が浮腫となる。この名前を胃虚冷という。

 

 

清代、江涵暾著、1834年『笔花医镜』では、巻二、臓腑証治で「胃虚」「胃実」「胃寒」「胃熱」の4つの病証を述べています。一番シンプルな分類ですが、おもに右関上の脈診で判別しています。臓腑弁証というよりは経絡弁証の範疇だと思います。

 

胃虚:その唇は必ず白く、右関脈は必ず軟弱である。その症状は嘔吐である。噎膈(いっかく:=嚥下障害)、食べることができず胃痛となる。停滞し、湿で腫れ、痰をなし、嘈雑(そうざつ=胸焼け)する。

胃実:右関脈は必ず洪脈である。胸を按じればすなわち痛み、その症状は結胸(=胸中の痰飲で痛む)である。痞気(ひき=脾の積聚)、食積となり、痰飲となり、水腫となり、胸は脹って悶となり、胸は脹って痛む。胸痛して膿を嘔吐し、便秘で譫語(せんご)して発狂する。

胃寒:その唇は必ず白く、右関脈は必ず沈脈遅脈である。その症状は胃痛で、嘔吐し、霍乱(かくらん)となり、呑酸(どんさん=口が酸っぱい)となり、噯腐(あいふ=げっぷ)となる。

胃熱:その唇と舌は紅く、口臭がする。右関脈はかならず洪脈数脈となり、その症状は消渇である。嘈雑(そうざつ=嚥下障害)となり、吐血し、歯が痛む。黄胖(おうはん=栄養不良で萎黄)して顔面が腫れて、自汗して舌は黒く煩渇する。疹をなし、便秘となり、呃逆(あくぎゃく=シャックリ)となり、頭痛となる。

 

上記は、右関上の脈診のみで胃の虚実寒熱を判別しています。昔、私が教科書で学んだ胃気虚(胃陽虚)は腹部の喜温喜按が特徴でした。胃寒は腹部拒按、喜温でした。

 

胃气虚
胃痛或腹痛隐隐、喜暖喜按、空腹时痛甚、进食后痛减,泛吐清水,纳食不香,精神不振,倦怠乏力,手足发冷,大便溏稀,舌淡苔白,脉虚弱或迟缓。治疗法则: 益气养胃

胃陰虚
胃脘隐痛,饥不欲食,口燥咽干,大便干结,或脘痞不舒,或干呕见逆,舌红少津,脉细数。

胃虚寒(胃阳虚)
证候:胃脘冷痛,绵绵不已,时发时止,喜温喜按,食后缓解,泛吐清水或夹有不消化食物,食少脘痞,口淡不渴,倦怠乏力,畏寒肢冷,舌淡胖嫩,脉沉迟无力。治则:温中健胃。主方:理中汤。

胃实寒
证候:胃脘冷痛,痛势急剧,遇寒加重,得温痛减,脘痞作胀,恶心呕吐,吐后痛缓,口淡不渴,口泛清水,脘腹水声漉漉,舌苔白滑,脉弦或沉紧。治则:温胃散寒止痛。主方:厚朴温中汤

 

さらに言うなら、日本の江戸時代、多紀元堅先生の『診病奇核』では、中脘の反応で胃熱や胃寒を判別していました。

「胃熱者、中脘処按之、任脈行有動悸」
「胃寒者、候中脘無力弱無動気也。」

「診病奇核」は清末の1888年と中華民国20年(1930年)に清朝と中華民国で出版されています。清代の中国に腹診はなく、清より浅田宗伯の診療を受けに来た書店「淩雲閣」の経営者・王仁乾が腹診の存在しない中国に腹診を普及させるために出版しました。

「清・中華民国時代に受容された日本の腹診学」
真柳誠,矢数道明(東京・北里研究所附属東洋医学総合研究所)

 

1889年、清末、張振均著、『厘正按摩要术』には「按胸腹」という章があります。中国の 『厘正按摩要术(1889)』の腹診は日本の多紀元堅著『診病奇核』を多数、引用しています。これは日本の推拿研究者、李強先生も中国の学術雑誌の論文で書かれています。

2010年「厘正按摩要術・按胸腹の学術の淵源は日本腹診であるという試論」
试论日本腹诊是《厘正按摩要术·按胸腹》的学术渊源
李强 『中华中医药杂志』 2010年10期 (1551)

 

さらに清代の俞根初(ゆこんしょ)が1835年出版の『通俗傷寒論』を出版します。1916年に何廉臣(かれんしん)が『増訂通俗傷寒論』として増訂した際に、日本の多紀元堅の『診病奇核』「按胸腹」を入れています。

 

清代末期の曹炳章(そうへいしょう)編『重訂通俗傷寒論』[第五章·伤寒诊法] 、第四节·按胸腹に、「凡仲景 所云胃家者。指上中二脘而言。以手按之痞硬者。为胃家实。按其中脘。虽痞硬而揉之 漉漉有声者。饮癖也。如上中下三脘。以指抚之。平而无涩滞者。胃中平和而无宿滞也 。凡满腹痛。喜按者属虚。拒按者属实。喜暖手按抚者属寒。喜冷物按放者属热。按腹而 其热灼手。」という記述があり、上記の胃腑の虚実寒熱を腹診の拒按・喜按・喜温・喜冷で判別するのは、中国では日本の腹診の影響を受けたものであり、清末から中華民国時代からになります。

清代末期の曹炳章先生は、1920年に『弁舌指南』で舌診を完成させた人物です。曹炳章先生の時代に舌診と腹診は中国医学の歴史に登場したのです。

胃の臓腑弁証は、脈診だけでなく腹診や舌診の要素も中華民国の時代から記述があります。そのうち腹診は日本由来なのです。

胃の臓腑弁証を歴史から遡行すると、いろいろな事がわかりました。


 

清代、唐宗海著、1884年『血証論』脏腑病机论

血证论・脏腑病机论
胃者.仓廪之官.主纳水谷.胃火不足.则不思食.食入不化.良久仍然吐出.水停胸膈.寒客胃中.皆能呕吐不止.胃火炎上.则饥不能食.拒隔不纳.食入即吐.津液枯竭.则成隔食.粪如羊屎.火甚则结硬.胃家实则谵语.手足出汗.肌肉潮热.以四肢肌肉.皆中宫所主故也.其经行身之前.至面上.表证目痛鼻干.发痉不能仰.开窍于口.口干咽痛.气逆则哕.又与脾相表里.遗热于脾.则从湿化.发为黄瘅.胃实脾虚.则能食而不消化.主燥气.故病阳明.总系燥热.独水泛水结.有心下如盘等证.乃为寒病.胃之大略.其病如此.

 

 

 

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