【鍼灸EBM最前線】自閉症

 

2017年10月17日“EulekAlert”
『香港バプティスト大学(HKBU)の臨床研究は、頭皮鍼が自閉症の子どもに有効であることを発見した』
HKBU clinical study finds scalp acupuncture effective for treating autistic children HONG KONG BAPTIST UNIVERSITY

以下、引用。

「香港バブティスト大学の中国伝統医学部(SCM)が、68人の自閉症の子ども患者の臨床観察研究から結論した。その研究では66人が治療で改善を示し、結果として97パーセントに効果があった。その治療は年齢の若い子どもにより効果的であった」

The School of Chinese Medicine (SCM) of Hong Kong Baptist University (HKBU) conducted a clinical observation of scalp acupuncture treatment for 68 children with autism. The findings indicated that 66 patients have shown improvements after treatment, resulting in an overall efficacy rate of 97%. The treatment was found to be more effective in younger children.

以上、引用終わり。

 

【自閉症スペクトラムの鍼灸EBMの歴史】

2008年にエジプトのカイロにあるナショナル・リサーチ・センターの研究者アーラム(※1)が最初の自閉症スペクトラムの鍼の臨床試験を行い、YNSA(山元式新頭鍼)の頭皮鍼でポジティブな効果を報告したものが世界最初の臨床試験です。

2009年に香港の研究者(※2)たちが「七星鍼(梅花鍼)」の臨床試験でポジティブな効果を報告しました。

2008年(※3)から香港の研究者たちが中医学的な弁証論治による症例報告をしました。使っているツボは四神聡、印堂、内関、神門、太衝、太渓、三陰交などです。主に電気鍼が使われています。

この結果を受けて2010年に真鍼と偽鍼のランダム化比較試験が行われました。四神聡、印堂、内関、神門、太衝、耳穴の神門、三陰交が使われました。偽鍼は3〜5㎜ツボをずらして浅く刺しています(※4)

そして同じ研究者たちが2010年に舌鍼のランダム化比較試験を行いました(※5)
香港では、香港中医学独自の舌鍼療法の孫介光、孫雪然先生が有名です。
『舌針解百病』
香港国際舌針研究治療中心

 

2011年のコクラン・システマティック・レビュー
「自閉症スペクトラムへの鍼」
Acupuncture for autism spectrum disorders (ASD).
Cheuk DK, Wong V, Chen WX.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007849.

 

2011年に香港クイーン・メリー病院の研究者らによるコクラン・システマティックレビュー「自閉症スペクトラムへの鍼」が発表されています。著者の一人である香港大学のヴァージニア・チンネイ・ウォン(黃珍妮:Virginia Chun-Nei Wong)教授は、現代の小児科鍼灸EBM研究の一人者だと思います。

 

2014年には香港・自閉症の鍼治療研究の一連の論文の著者であるヴァージニア・チンネイ・ウォン香港大学教授が自閉症患者に舌鍼(tongue acupuncture)を行い、PET(ポジトロン断層法Positron Emission Tomography)で脳の変化を観察するという論文を発表しています(※6)

 

2017年5月22日に『ジャーナル・オブ・オルタナティブ・アンド・コンプリメンタリー・メディスン』にKKI(Kennedy Krieger Institute:ケネディ・クリーガー研究所)の画期的な研究が発表されました。

「自閉症スペクトラム障害(ASD)のツボ指圧または鍼介入のパイロット客観研究」
A Pilot Observational Study of an Acupressure/Acupuncture Intervention in Children with Autism Spectrum Disorder
Warren Lana R., Rao Patricia A., and Paton David C..
The Journal of Alternative and Complementary Medicine
May 22, 2017

 

3~10歳の自閉症スペクトラム障害の子どもに対して8週間の介入です。最初の4週間はライセンス鍼師がツボ指圧を行い、次の4週は鍼またはツボ指圧を行い、さらに親が寝る前に指圧をしました。

以下は論文より引用。

「予測しなかったことではあるが、このパイロット研究で観察された最も堅固な発見とは(ツボ指圧プラス鍼の)介入の後、子どもの表現と受容的ソーシャル・コミュニケーションが顕著に改善したことである」
「これらの発見は、鍼のあとで言語の理解とソーシャル・インタラクションを含む社会コミュニケーションが改善したという以前の研究と一貫性がある」

以上、引用終わり。

 

レビューとしては、2011年に香港の著者らによるコクラン・システマティック・レビュー(※7)が発表され、2012年にアメリカ・ニュージャージー医大のミンらが『エビデンス・ベースド・コンプリメンタリー・アンド・オルタナティヴ・メディスン』にレビュー文献(※8)を発表し、同じく2012年に韓国のリーやエッアート・エルンストがレビュー文献(※9)を、発表しました。

 

2018年1月11日 には韓国、慶熙大学(Kyung Hee University) の研究が発表されました(※10)

以下、引用。

「行動教育介入を補完した鍼は顕著に子どもの自閉症レーティングスケール(CARS)と自閉症行動チェックリストを減少させた。しかしながら、自閉症スペクトラム障害を改善させたかは不明瞭である。単独療法としての鍼は自閉症レーティングスケールを減少させた。報告された有害事象は許容可能な範囲であった。結論として、このレビューは鍼が効果的で安全であるかもしれないことを示しているかもしれない。しかしながら、鍼治療の方法は従来の治療とは異質であるから結論を導くことはできない」

Acupuncture complementary to behavioral and educational intervention significantly decreased the overall scores on the Childhood Autism Rating Scale (CARS) (MD −8.10, 95% CI −12.80 to −3.40) and the Autism Behavior Checklist (MD −8.92, 95% CI −11.29 to −6.54); however, it was unclear which of the ASD symptoms improved. Acupuncture as a monotherapy also reduced the overall CARS score. The reported adverse events were acceptable. Conclusions. This review suggests that acupuncture may be effective and safe for pediatric ASD. However, it is not conclusive due to the heterogeneity of the acupuncture treatment methods used in the studies.

以上、引用終わり。

 

自閉症は1943年にカナーが提唱し、アスペルガー症候群は1981年にローナ・ウィングが提唱した概念です。
中医学には「五遅」の「語遅」という発達障害の概念はありますが、「自閉症」や「アスペルガー症候群」のような概念はなく、そもそも治療対象であったのかという疑問があります。中医学では、2014年に北京中医薬大学の研究者による総説論文が『世界中医薬雑誌』に出版されています。

「自闭症中西医研究进展及中医研究思路浅析」
Research Progress of Chinese and Western Medicine Treating Autism and Exploration of Chinese Medicine Research Strategy
丁一芸、卫 利、王素梅 北京中医薬大学
『世界中医薬雑誌』(6):820-822 2014

自閉症の中医学の病機と弁証
1.脳源説
2.腎源説:『医宗金鑑』小児五遅の「小児五遅之証、多因父母気血虚弱…腎気不足」を根拠としている。
3.脾源説:小児の脾胃は虚弱であり、後天不足で起こるという学説。
4.肝腎之説:広州中医薬大学の「靳三針」の靳瑞教授が提唱した。自閉症は脳と心・肝・腎が密接に関係しており、先天不足で腎精が虚となり、心竅が不通となり、肝が条達を失い、肝欝気滞から起こる。
5.心源説

 

中医薬では、肝腎両虚に六味地黄丸、狂躁型肝腎陰虚・肝陽上亢に釣藤飲、心脾両虚型に帰脾湯、心腎不交型に黄連阿膠湯などが用いられています。

 

中医鍼灸では、2010年に王海丽著「林氏头皮针治疗儿童自闭症11例体会」『福建中医药』41(3) 39-40 2010が書かれています。

 

2011年には『中国鍼灸』に李诺著「头针疗法治疗自闭症」『中国针灸』 2011年31卷08期 692-696页が書かれています。使用したのは智九针(额五针、四神聪)、情感区、心肝区です。

 

中医鍼灸分野では、広州中医薬大学の靳瑞(Jin Rui:1932-2010)教授による「靳三針(Jin’s Triple Acupuncture)」による自閉症鍼灸治療がもっとも大きなトピックスのようです。

「靳三针治疗儿童自闭症不同中医证型疗效分析」
袁青, 吴至凤, 汪睿超 ,
『广州中医药大学学报』2009,26(3):241-245.

「靳三針」では、自閉症を肝欝気滞、心肝火旺、痰迷心竅、腎精不足の4型に分類しています。

(1)基本穴は、以下になります。
四神针(百会穴前后左右各旁开1.5寸)、
定神针(印堂、阳白各上5分)、
颞三针(耳尖直上入发际2寸及同一水平前后各1寸共3穴)、
颞上三针(左耳尖直上入发际3寸及同一水平前后各1寸共3穴)、
脑三针(脑户、双脑空)、
智三针(神庭、双本神)、
醒神针(人中、少商、隐白)、
手智针(内关、神门、劳宫)、
足智针(湧泉、泉中、泉中内)、
舌三针(上廉泉、廉泉左、廉泉右)。

(2)随証配穴:
肝欝気滞型加合谷、太衝
心肝火旺型加少府、行間;
痰迷心竅型加豊隆、大陵;
肾精亏虚型加太溪。

 

広州中医薬大学の靳瑞(Jin Rui:1932-2010)教授は、1932年生まれで1950年に広州の中医学校に入学、1956年に広州中医学院の針灸科の講師となり、1966年の文化大革命期に鼻炎を「鼻三針(迎香・上迎香・印堂)」で治癒させたことから「靳三针疗法」を提唱しました。1990年代からは、「颞三针」を脳卒中後遺症に、「智三针」を発達障害児童に、「启闭针」を自閉症に、「定神针」を多動症に、「老呆针」を老人性認知症に用いました。この靳瑞先生が2006年に書いた自閉症児の「医案(症例)」はものすごく勉強になりました。

靳瑞、「补益心气、醒脑开窍治疗自闭症(心气不足)」

2006年5月13日に診た5歳の子供です。コミュニケーション障害で、中医診断は「自閉症(心气不足)」です。治則は「補益心気・醒脳開竅」です。この自閉症の弁証の部分が素晴らしいです。

「まさにこれは、『諸病源候論』で言うところの精彩が暗鈍にして病むものは、陰陽の気不足であり、神識が明らかでなはい。これは心気不足、清陽が不昇であり、清竅がふさがって多くは黙然して独りでいう。すなわち陰気盛んであり、心気不足の現象である」

正如《诸病源候论》所说,“因病而精采暗钝者,阴阳之气不足,至神识不分明”。主要还是心气不足,正虚清阳不升,清窍蒙蔽,多见默然独处,乃阴气较盛,心气不足的之现象

1.针灸治疗:“自闭九项”(四神针、智三针、脑三针、颞三针、颞上三针、醒神针、手智针、足智针、舌三针),配合手三针、足三针。入针得气后,留针40min,间隔10分钟捻针一次
2. 推拿治疗:捏脊-重点在督脉和双侧膀胱经,由下而上,手法亦轻柔,力度深透,每天1次,每次10分钟。

 

督脈と膀胱経を推拿で通して、手足のツボでは開竅し、頭皮鍼を多用することにより、頭部に清陽を昇らせる配穴になると思います。

 

 

<参照>

※1: Scalp acupuncture effect on language development in children with autism: A pilot study. AllamH, ElDineNG, HelmyG. J Altern Complement Med. 2008;14(2):109–114.

※2: Seven-star needle stimulation improves language and social interaction of children with autistic spectrum disorders.
ChanAS, CheungMC, SzeSL, LeungWW.
Am J Chin Med. 2009;37(3):495–504.

※3: Electroacupuncture for children with autism spectrum disorder: pilot study of 2 cases.
ChenWX, Wu-LiL, WongVC.
J Altern Complement Med. 2008;14(8):1057–1065.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/18990052/

※4:Randomized controlled trial of electro-acupuncture for autism spectrum disorder. Randomized controlled trial
Wong VC, et al.
Altern Med Rev. 2010.
http://www.altmedrev.com/publications/15/2/136.pdf

※5:Randomized controlled trial of acupuncture versus sham acupuncture in autism spectrum disorder. Randomized controlled trial
Wong VC, et al.
J Altern Complement Med. 2010 May;16(5):545-53.

※6:Randomized control trial of using tongue acupuncture in autism spectrum disorder
Virginia Chun-Nei Wong.et al.
Journal of Traditional Chinese Medical Sciences 1 July 2014, Vol.1(1):62–72, doi:10.1016/j.jtcms.2014.11.005

※7:Acupuncture for autism spectrum disorders (ASD).
Cheuk DK, Wong V, Chen WX.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007849.

※8: Acupuncture for Treatment of Autism Spectrum Disorders
Xue Ming,et al.
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine
Volume 2012 (2012), Article ID 679845, 10 pages

※9: Acupuncture for children with autism spectrum disorders: a systematic review of randomized clinical trials.
Review article
Lee MS, et al. J Autism Dev Disord. 2012.

※10:「自閉症スペクトラム障害の子どもの鍼治療の効果と安全性:システマティックレビューとメタアナリシス」
The Efficacy and Safety of Acupuncture for the Treatment of Children with Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis
Boram Lee,
Evid Based Complement Alternat Med. 2018; 2018: 1057539.
Published online 2018 Jan 11. doi: 10.1155/2018/1057539

 

 

 

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