20176月15日
「アラビア伝統医学」
Traditional Arabic Medicine
上記記事の写真は2007年のシリア・アレッポの薬草店です。
以下、引用。
(古代ギリシャの)ヒポクラテスと(古代ローマの)ガレノスの医療実践と業績の基礎のうえに中東の伝統医学は存在する。ギリシャ医学はローマの侵攻を生き抜き、西暦8世紀にギリシャ語からアラビア語に翻訳された。
この歴史的翻訳事業をおこなったのが、シリア出身のネストリウス派キリスト教徒である医師のフナイン・イブン・イスハークです。アッバース朝の第7代カリフがイラクのバクダートにつくった知恵の館(バイト・アル=ヒクマ)で作業を行いました。
イスラム伝統医学・アラビア伝統医学の代表的な医師は、イラン生まれのラーズィーです。
ラーズィーの講義には中国(宋)からの留学生が聴講していたことが歴史書にも書かれています。
イブン・スィーナーは現在のウズベキスタンのブハラに生まれ、『医学典範』を書きました。
以下、引用。
主要なアーユルヴェーダのテキストは同時代にアラビア語に翻訳され、アーユルヴェーダのプラクティスもアラビア伝統医学に溶け込んでいる。8世紀から13世紀のアッバース朝の時代に病院ができて外科手術がおこなわれ、医学辞書が編纂され、医学校と植物の同定と標準化がおこなわれるなどの進歩があった。イスラム帝国に西側世界が追いついたのは(ヨーロッパ人たちが)スペインのコルドバやグラナダの医学センターで学んだ時だった。
イスラム帝国はスペインを支配していました。12世紀スペインのユダヤ医師・哲学者マイモニーデスはスペイン、コルドバ出身です。マイモニーデスと同時代のイスラム伝統医学医師イブン・ルシュドもコルドバ出身の哲学者・医師でした。
『生命の泉』を書いたユダヤ人哲学者イブン・カビロールはスペイン、マラガ出身です。『ハザールの書』で知られるユダヤ系スペイン人医師のイエフダ・ハレヴィーもスペイン、トレド出身です。
イスラム伝統医学の医師たちの共通点は、超一流の哲学者であると同時に医師であったことです。この時代のアラビア伝統医学の医師はユニバーサル万能型知識人なのです。
以下、引用。
12世紀の終わりになり、アラビア語からラテン語に『医学典範』のようなアラビア伝統医学の文献が翻訳されて、ヨーロッパにおける西洋医学の基礎となった。
アラビア伝統医学の薬物とは、アニス、ブラックシード、カルダモン、カモミール、サクランボ、シナモン、クローブ、コリアンダー、クスミ、クミン、フェンネル、フェヌグリーク、亜麻、フランキンセンス、ガラガラシ、ショウガ、ギリシャセージ、ヘンナ、ローレル、カンゾウ、マスタード、ナツメグ、オリーブ、パセリ、コショウ、ピメント、ローズマリー、サフラン、センナ、スマック、シリアン・ルー、ターメリックです。
つまり、現在のアロマテラピー&ハーブ療法は、ほとんど全てがアラビア伝統医学なのです。現在のアロマテラピストはルネ・モーリス・ガットフォゼやフランスのアロマテラピーの父ジャン・バルネの名前はよく出します。あるいは、ジャン・バルネのイギリス人の弟子でアロマテラピー・マッサージを創ったマーガレット・モウリーの名前を出します。しかし、そのルーツがアラビア伝統医学であることはほとんど知りません。
以下、引用。
21世紀、アラビア伝統医学はインド伝統医学や中国伝統医学ほどの勢いがない。2006年にシリアのダマスクスとアレッポに行きスーク市場のアラブ伝統薬局を見つけたが、郊外の2階建て駐車場の前にある現代風薬局で、消費者はグルコサミンやイチョウ葉エキスを買い、非民族的な補完代替医療を受けていた。
中東地域のアラブ伝統医学プラクティショナーの調査はアラブ伝統医学が勢いを失っているというエビデンスを提供している。プラクティショナーは父親や男性の親類、あるいは弟子として伝統的知識を受け継いでいた。調査の著者は、以前に調査した際よりもプラクティショナーが激減したことを記述している。
治療家同士の情報交換は限られており、次世代の治療家への指導は組織的でない。治療家は、そのハーブをその地域でのみ育つ野外、またはアラブ伝統薬局で購入することで使っていた。
伝統医学を守り育てるには、それを支える消費者、薬草を生産する生産者が必要です。そして、次世代を育てる教育者が必要です。
しかし、アラビア伝統医学はイスラム伝統医学としてパキスタン・インド・マレーシア・ウイグルで生き延びています。中国領の新疆ウイグル自治区の「ウイグル伝統医学」はユーナニ医学です。インドはムガール帝国の時代に全土がイスラム化され、インドには40のユーナニ大学があります。イスラム教国のパキスタンには4年制のユーナニ医科大学があり、ユーナニ医師の制度もあります。
マレーシアにもユーナニ医学があります。イスラム・マッサージ「ウルット・ムラユ」は古代ギリシャのヒポクラテスからの伝統を継ぐ最古のマッサージ治療です。インドのユーナニ医学ではマッサージをダラックというようです。
「ユーナニ医学におけるダラック・マッサージ:レビュー」
Dalak (Massage) in Unani Medicine: A Review
International journal of advanced Ayurveda, Yoga and Naturopathy, Unani, Siddha and Homoeopathy
Vol.3 No.1 2013
http://medical.cloud-journals.com/…/ar…/download/Med-118/pdf
インドやマレーシアのイスラム伝統医学では、2500年前のヒポクラテスのギリシャ医学からの伝統を継ぐ医療マッサージ「ダラック」や「ウルット・ムラユ」があります。
イスラム由来のマレー・マッサージであるウルット・ムラユは最近、マレーシアで研究されています。「ウルット」はマッサージで「ムラユ」はマレーのという意味です。2010年以降、4本の論文が書かれています。
2010年「ウルット・ムラユ、マレーシア伝統マッサージの質的研究」
A qualitative study on urut Melayu: the traditional Malay massage.
J Altern Complement Med. 2010 Nov;16(11):1201-5.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/21058886/
2012年1月「脳卒中患者へのウルット・ムラユ:質的研究」
Urut Melayu for poststroke patients: a qualitative study.
J Altern Complement Med. 2012 Jan;18(1):61-4. Epub 2012 Jan 11.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/22236030/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3264954/
2012年「分娩後脳卒中の補完リハビリケアにおけるウルット・ムラユ、マレーシア伝統マッサージ」
Urut Melayu, the traditional Malay massage, as a complementary rehabilitative care in postpartum stroke.
J Altern Complement Med. 2012 Apr;18(4):415-9. Epub 2012 Mar 8
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/22401300/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3326264/
2016年「マレーシア伝統マッサージの腰痛患者におけるサブスタンスP、炎症メディエーター、ペインスケールと機能的結果:ランダム化比較試験のプロトコル」
The immediate effect of traditional Malay massage on substance P, inflammatory mediators, pain scale and functional outcome among patients with low back pain: study protocol of a randomised controlled trial.
BMC Complement Altern Med. 2016 Jan 15;16(1):16.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/m/pubmed/26767971/
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4714433/
イスラム伝統医学をユーナニ医学と言います。「ユーナニ」とは「イオニアの」つまり「ギリシャの医学」という意味です。ギリシャの神々を信じるヒポクラテスのギリシャ医学から始まり、ローマの神々を信じるローマのガレノスに伝わりローマ医学となり、イラクのバクダッドの知恵の館でネストリウス派キリスト教徒に翻訳されて、イランのラージーやイブン・スィナーがアラビア伝統医学・イスラム伝統医学として完成し、スペインのコルドバ王国ではユダヤ教を信じるユダヤ人達が担い、パキスタン・インドでアーユルヴェーダと融合し、現在はインドとイラン、マレーシアのイスラム教徒が受け継いでいるのがユーナニ医学です。
この医学は、時代ごとに担っている民族や宗教が異なっています。中国伝統医学が中国で始まったとしても、朝鮮半島や日本やベトナムに広がり、チベット医学鍼灸やモンゴル医学鍼灸のようにアーユルヴェーダと融合して五行説を捨て、現在はアメリカやヨーロッパ、中東やアフリカにまで拡がっているのと同じです。人類共通の文化遺産なのです。
インド政府やパキスタン政府、マレーシア政府とイラン政府は、既にユーナニ医学の復活を決断しました。
2018年4月6日
「イラン伝統医学は国際化すべきである」
‘Iranian traditional medicine should go international’
https://www.tehrantimes.com/…/Iranian-traditional-medicine-…
以下、引用。
他の場所での発言だが、彼はイラン保健省のイラン伝統医学部にイラン伝統医学によるヘルスケアは保険会社によってカバーされるよう決断してほしいと表明している。
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