「地震酔い」と「地震後めまい症候群(PEDS)」の弁証論治

2016年日本めまい平衡医学会の論文
「熊本地震後めまいに対する心理的因子と環境因子に着目した臨床的検討」
松吉 秀武 et al.
Equilibrium Research『めまい平衡医学』
Vol. 75 (2016) No. 4 AUGUST p. 189-200

2011年の東日本大震災では「地震酔い」とよばれるめまいの症状が頻発しました。

現在では地震後めまい症候群(PEDS:Post Earthquake Dizziness Syndrome)と呼ばれています(※1)。

東日本大震災では、ぐるぐる回る回転性めまいや立ちくらみではなく、横揺れ系・乗り物酔い系のフワフワする浮動性めまいや平衡障害が多かったようです。

『地震とめまい—東日本大震災直後2週間の東京でのアンケート調査とその分析—』
二木 隆et al.
Equilibrium Research『めまい平衡医学』
Vol. 71 (2012) No. 6 DECEMBER p. 456-465

世界的には大地震の後にめまいがおきた報告は少ないですが、1999年の台湾地震の際にフワフワする浮動性めまいの報告があります。

2001年の芸予地震の際にもめまいが報告され、水滞症状に対して漢方の五苓散が使われています(※2)。

2008年の四川省の地震の際にもPTSDとしての浮動性めまいが報告されています。

2016年の熊本地震では地震酔い、地震後めまい症候群が頻発しました。

地震酔いを起こす人は乗り物酔いの起こしやすさと、相関関係がありました。
乗り物酔いは、西洋医学的には深部感覚と目からの視覚情報と内耳などの平衡器官と大脳皮質感覚野での統合の問題です。

地震後めまい症候群は起立性低血圧とも関連があります。
西洋医学的には自律神経の問題です。心的外傷後ストレス障害(PTSD)や不安障害も明らかに関係しています。西洋医学的には非常に複雑な病態のようです。

もともとめまいの臨床では、西洋医学では回転性めまいと浮動性めまいに分類するのが基本で、眼前暗黒感(ブラックアウト)を伴う立ちくらみや失神を入れて分類します。

西洋医学で一番危険なのは、眼前暗黒感を伴う失神や立ちくらみであり、出血の可能性があります。眼前暗黒感のめまいで鍼灸師が扱ってよいのは自律神経失調の起立性低血圧と起立性調節障害だけだと思います。

浮動性めまいも脳の問題=頭蓋内病変である可能性があります。
レッド・フラッグスです。

回転性めまいでは良性発作性頭位眩暈症と悪性持続性頭位眩暈症の違いの理解が重要です。
頭の位置を変えてしばらくするとめまいが収まるのが良性で、ある頭の位置になるとずっとめまいが続くのが悪性で脳腫瘍などの可能性があります。

小脳橋角部腫瘍では同じ頭の位置で持続的めまいが起こります。
ブルンス眼振といって、1902年にドイツの神経学者ルードヴィッヒ・ブルンスが発見しました。

めまい診療のレッド・フラッグスは、非・前庭性原因です。
持続的で悪化しつつあり、早朝に深刻な頭痛があり、複視、脳神経麻痺、構音障害、運動失調などの脳神経症状です。めまいのレッド・フラッグスを覚えておくことは臨床で必須です。

また、地震とは関係ない頚椎由来のめまいもあります。むちうち損傷の頚椎性めまいです。

以上が西洋医学のめまい臨床に最低限、必要な知識です。

中医学では実証と虚証に分類し、実証では肝陽化風(肝風内動)、痰湿中阻、虚証では気血両虚、腎精不足に分類するのが一般的・教科書的だと思います。

ここで問題になるのが中医学の弁証で、新しい病気である地震酔いや地震後めまい症候群はどのように分類されるかだと思います。

七情内傷で「恐れれば気下がる」、「驚ければ気乱れる」で驚恐が腎を傷つけての腎精不足からのめまいはPTSD様です。

また、恐驚が腎を傷つけて腎気不固からの奔豚気(ほんとんき)という気逆の衝脈病もあると思います。
睡眠不足からの陰虚からの肝陽上亢→肝陽化風→肝風内動の高血圧のようなめまい、陽虚水滞からのめまいもありそうです。

研究会で伝聞でうかがった限りでは、督脈病で督陽障害という概念を入れて、気虚兼気滞のめまいと考えて、通陽・補気・理気を治則とするのが現実的な印象があります。

地震後めまい症候群という新しい病気の鍼灸治療や中医学鍼灸弁証論治は、まだ誰も理論化していませんが、現在の日本は地震活動期なので、まとめるとパイオニアになれると思います。

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※1:『「地震後めまい症候群」に関する研究』
野村泰之、et al.『日本大学医学部総合医学研究所紀要』 Volume 2 (2014)

クリックして2014_007.pdfにアクセス


※2:『芸予地震後に生じためまい, 不安症状に著効した五苓散使用の2例』
竹尾重紀: 日東洋心身医研 17: 33-37, 2002

クリックしてtoyo_17_k_07.pdfにアクセス


※3:「地震後めまい症候群」
野村 泰之et al.
Equilibrium Research『めまい平衡医学』
Vol. 73 (2014) No. 3 p. 167-173
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jser/73/3/73_167/_pdf
https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/4/75_189/_article/-char/ja/

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