2018年の中国の鍼刺麻酔

2018-05-25『澎湃新闻』
「大流行の後で衰えてまた勢いを盛り返す?上海岳陽医院は新しい病気に針刺麻酔を用いる」
盛极而衰后卷土重来?上海岳阳医院在新病种上首用针刺麻醉

上海岳陽医院 が2018年5月22日に世界初の鍼麻酔下の冠状動脈造影とカテーテル手術を3例、成功させたニュースです。

以下、引用。

20世紀の1950年代に中国医学の専門家が針刺麻酔を紹介し、かつては1970年代に世界にひろがったが論争を受けて中止した。

1958年8月30日に上海市第一人民医院耳鼻咽喉科で尹恵珠主任医師が合谷の鍼麻酔を使い、扁桃腺摘出手術に麻酔薬を使わずに扁桃腺の摘出手術を行いました。
1971年7月26日にジェームズ・レストン記者が鍼麻酔について書いた「北京での私の手術について今語る」という記事が『ニューヨークタイムズ』に載ります。

ジェームス・レストン「北京での私の手術について今語る」
James,Reston, “Now, About My Operation in Peking”, New York Times, July 26, 1971

虫垂炎の手術を受けたレストン記者が次の日になって腹痛と吐き気を訴え、手足のツボに鍼されたことで症状がなくなったことを報道しました。ここから世界的な鍼麻酔ブームが起こります。

以下、引用。

1971年にアメリカのキッシンジャー国務長官が訪中した際に随行した『ニューヨークタイムズ』の記者レストンが虫垂炎となり薬物麻酔で虫垂切除手術をしたのだが、術後2日目に腹痛を起こし、20分間の針灸治療で疼痛が緩和した。その効果がよかったことをニューヨークタイムズで報道した。

1972年にアメリカのニクソンが訪中した際に鍼麻酔手術を目撃して、それからアメリカでは鍼灸フィーバーが出現した。

それからの20年で中国は200万件の鍼麻酔手術をおこなった。しかし、20世紀の1990年代となって大多数の医院は針麻酔手術を停止した。ただ、上海の5つの病院(上海华山医院、仁济医院、第一人民医院、复旦大学附属眼耳鼻喉科医院、肺科医院)は停止しなかった。復旦大学付属華山医院は脳手術を複合鍼麻酔していたし、上海第1人民医院は腎臓移植手術に用いていた。復旦大学付属眼耳鼻咽喉科医院は喉の形成手術に用いていた。仁済医院は体外循環心内直視下手術に用い、肺科医院は腫瘍の手術に用いていた。

なぜ過激な針麻酔手術は多くの医院で停止されたのか?岳陽医院の周嘉院長が新聞記者に言うには、20世紀の70年80年代では全国各地の病院でおよそ考えられる限りの一切の部位、頭から足まではげしく盲目的に外科手術の範囲が広げられた。 周嘉院長が指摘するには、20世紀の1990年代に多くの医院が針麻酔を停止したのは当時の針麻酔がどんな病気に適応なのか、理論的支援が欠乏し同時に手術の経済効果が不明瞭だったからであると指摘した。

「もし針麻酔をわれわれがしないならその技術は失伝する可能性があり、われわれは後世に伝える責任がある」と 周嘉院長は言う。針麻酔手術は長年疑問を呈され、理論的束縛があり、どのような病気に効果があるかは不明で、経済的利益は未知であり、科学研究の支援は不足し、医学方面の才能も欠乏している。技術を研鑽する機会がなく、探索がなければ臨床に空白ができて技術を持った専門家がいなくなってしまう。

周嘉院長が言うには、中国政府は中医薬技術に大きな力を注いでおり、中医鍼灸は中国政府のもっている「中国カード」である。国連は鍼灸を人類の非物質的文化遺産としており、針麻酔の成果はWHOが中国医学の5大成果の一つとしている。「鍼麻酔領域の専門家の欠乏は目前であり、その技術革新は重要となる」ということである。

つまり、中国政府は意識的に「中国の持つ政治カード」としての鍼灸の意味を重視し、針麻酔の失伝を防ぐために針麻酔を再開したようです。

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