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ブラックパンサー、NADAプロトコルと日系人鍼灸師

 
2022年11月22日『ザ・ワンシントン・インフォーマー』
「リベレーション解放の医学の臨床家、ドクター・ミューチュル・シャクールが牢獄から釈放された」
 
 
「解放の医学リベレーション・メディシン」とは、貧しい人たちを救い続けた「解放の神学(Liberation theology)」の医学版です。
 
 
以下、引用。
鍼灸師の ミューチュル・ シャクール博士の連邦刑務所からの釈放は 12 月 16 日に予定されている。黒人解放運動の長老はケンタッキー州を離れ、南カリフォルニアに移り、そこで家族と暮らし、ステージ 3 の骨髄がんの治療を受ける。1970 年代 ミューチュル・ シャクールはリンカーン病院の麻薬中毒治療デトックス・プログラムを立ち上げた。
 
 
HIPHOPレジェンドである2パックの義父で鍼師だったミューチュル・シャクールは、黒人解放運動ブラックパンサー党の活動家で、鍼師でした。1970年ミューチュル・シャクールは、ニューヨーク市サウスブロンクス・リンカーン病院でブラックパンサー党の活動家として働いてました。
 
アメリカでは、1966年頃にマルコムXの影響を受けて、武装して黒人を解放しようとするブラックパンサー党が生まれました。ブラックパンサーは共産主義・毛沢東主義を信奉し、アメリカのスラム地帯に病院を建てました。
 
ミューチュル・シャクール先生は1973年の『ニューヨークタイムズ』で、香港の医師たちが鍼で薬物中毒を治療したことを読み、カリフォルニア州で1976年に鍼のトレーニングを受け、鍼のライセンスを取得してニューヨーク州に戻り、最も貧しいサウスブロンクス地域でリンカーン・デトックス鍼トレーニング・プログラムを設立しました。ここで貧しい人を救うための薬物中毒鍼プログラム、NADAプロトコルが生まれていきます。
 
ミューチュル・シャクールは北米黒人鍼協会を設立し、シャディディ・ベアトリス・チェイス・キンゼイなどの黒人鍼師たちを育てました。
 
この北米黒人鍼協会は、FBIの国内諜報を担当するカウンターインテリジェンス部によって壊滅させられました。
 
 
以下、引用。
ヒラノは、シャクールはリンカーン・プロトコル(NADAプロトコルの原型)を使用して人種的抑圧に苦しんでいる人々の心を解放し、人々に大きなインスピレーションを与えたと語った。
日系アメリカ人の鍼灸師であるヒラノが 1970 年代初頭にシャクール と出会うまでには、彼はアジアの刑務所受刑者の麻薬解毒デトックスに深く関わっていた。
ヒラノとシャクールは、後にリンカーン病院のデトックス・センターで一緒に働いた。そこで彼はシャクールがブロンクスのコミュニティに与えた影響の多くを目にしたと語った。「それは解放の医学だった」とヒラノは言った。
 
 
NADAプロトコルを生んだリンカーン病院デトックス・センターで日系人鍼灸師が関わりを持っていたことを初めて知りました。 
 
かつてはアメリカの黒人解放運動と日系アメリカ人は共に差別を受けたものとして深い関わりがありました。ブラックパンサー党創設者の1人は、日本人のリチャード・アオキです。リチャード・アオキが2009年に死亡した年に『アオキ』という映画が創られ、FBIがブラックパンサーズの中でリクルートしたスパイであることが判明しました。ミューチュル・シャクールは武装強盗の罪で刑務所に服役していました。  
 
ミューチュル・シャクールの釈放のニュースを読みながら、最近、Amazon Primeで公開された『仮面ライダーBLACK SUN』を思い出しました。
 
西島秀俊演じる仮面ライダーBLACKSUNは片脚を失い、ボロボロになりながら、まだ闘おうとするのに対して、若い反差別運動活動家である和泉葵は西島秀俊に「もう闘わなくていい!」と言います。
 
50年前の1970年代に反差別運動の闘士だった西島秀俊BLACKSUNは「50年前の自分が、いまの自分を見張っている」と言います。
「負けた人から何を学ぶというのか」と問う和泉に西島は「敗北の意味だ」とつぶやきます。
 
 
マハトマ・ガンジー、マーティン・ルーサー・キング、マルコムXは暗殺され、反差別運動はずっと歴史の中で敗北し続けています。黒人解放運動は内部分裂し、差別はいまも続いています。
 
和泉は西島から敗北の意味を受け継ぎ、自分の世代で差別を終わらせるために、差別は永遠になくならないことを同時に覚悟しながら、差別と闘い続けることを選択します。
 
仮面ライダーBLACKSUNを制作した白石和彌監督は『止められるか、俺たちを』という映画で故・若松孝二監督を描きました。『仮面ライダーBLACK SUN』では反差別運動の内紛と暴力が描かれますが、これは師匠にあたる故・若松孝二監督が描いてきた左翼運動の内紛・暴力そのものです。これは、白石監督の「正義とは何か」「正義が負け続けている現実世界で、正義を志した人間が悪と暴力と裏切りに染まっていく歴史の中で、自分はどのようにふるまうのか」という自問自答だと思います。
 
 
『仮面ライダーBLACK SUN』の登場人物は、みな最初は理想に燃えていますが、現実に挫折し、人生が自分の思い通りにならないことを思い知らされます。
 
明治維新の浅田宗伯先生らの温知社による漢方廃絶反対運動や、和田啓十郎先生の『医界之鉄椎』から湯本求真先生の『皇漢医学』からはじまる漢方復興運動、あるいはGHQによる鍼灸の抑圧、竹山晋一郎の『漢方医術復興の理論』を出版された想い、ずっと続いた西洋医学による東洋医学の差別の歴史も思い起こされます。今後も西洋医学の優位と東洋医学への差別はなくならないでしょうし、東洋医学内部の内部対立もなくならないことは歴史から予測できます。
 
 
以下、引用。
ミューチュール・シャクールを早期釈放させるために、北米黒人鍼協会が再結成された。」
 
 
 ミューチュル・シャクールは現在、高血圧、2型糖尿病、緑内障とステージ3の末期の骨髄腫瘍です。FBIに組織をつぶされ、犯罪で逮捕され、多くを失いました。
 
しかし、1970年代、シャクールと共に働いた日系鍼灸師のヒラノや仲間たちはワシントンDCの司法省に行き、釈放を働きかけ続けました。50年前の反差別運動のリーダーである元犯罪者の鍼灸師の釈放に「意味はあるのか。敗北者から何を学ぶのか」と問われたときに、ヒラノがどのように答えたのかが印象的な記事でした。
 
 
 
 
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