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灸と血球の変化

 
1926年 時枝薫
日本薬物学雑誌 2 (1), 45-69, 1926
 
 
以下、引用。
灸ヲ施 ゼル家兎ニアリテハ、施灸後,直チニ白血球数増加シ始メ、多キハ平常ノニ倍以上二増加ス。
 
 
1927年に京都大学の時枝薫先生は灸による白血球増加を研究した『灸の実験的研究』で博士号を取得しています。
 
1928年に京都府立医大の青地正徳先生も『灸の血球並に血清に及ぼす影響 』で博士号を取得しています。
 
1929年に原志免太郎先生は46歳で灸による白血球への効果を研究した『灸に関する医学的研究』により医学博士の学位をとりました。
 
 
わたしが学生時代の『はりきゅう理論(初版)』は、灸と血球変化に関する研究ばかりが載っていましたが、現在の『はりきゅう理論(第3版)』には、灸と血球変化の研究はまったく載っていないようで驚きました。
 
わたしは白血病で骨髄移植と化学療法を受けていた患者さんの家族(英語圏の方)に灸治療について相談を受けたことがあります。
 
 
2015年エツァート・エルンスト
「化学療法誘発性の白血球減少症の灸治療:ランダム化比較試験のシステマティックレビュー」
Moxibustion for the treatment of chemotherapy-induced leukopenia: a systematic review of randomized clinical trials
Edzard Ernst et al.
Support Care Cancer. 2015 Jun;23(6):1819-26
 
【結果】
2つのランダム化比較試験の結果として、灸は従来の治療や化学療法よりも効果的であった。4つのランダム化比較試験において、従来の薬物療法より灸は効果的であった。6つのランダム化比較試験では、白血球増加に関して、さまざまなタイプの介入よりも灸は効果的であった。
 
 
エビデンスの質は低いものの、代替医療批判の第1人者、エツァート・エルンストが発表したシステマティックレビューを提示して「こういう論文があり、検討の価値はあります」と判断をゆだね、患者さんは灸治療を希望したという経験があります。実際に、その患者さんは医師や看護師の方々が驚くほどの回復を示したことで患者さん家族の信頼を得ることができました。
 
わたしは、灸治療で深刻な白血球減少症と患者さんのQOLが劇的に改善した症例の経験があるため、「灸で白血球減少症の患者さんの白血球が増えた経験がある」とは言います。
 
現在なら、上記の患者さんに以下の2018年コクラン・システマティックレビューをさらに紹介すると思います。
 
 
2018年コクラン・システマティックレビュー
「ガン患者の化学療法や放射療法の副作用を緩和させる灸」
Moxibustion for alleviating side effects of chemotherapy or radiotherapy in people with cancer
Cochrane Database Syst Rev. 2018; 2018(11): CD010559.
 
【主な調査結果】
血液細胞の増加と免疫機能の促進、化学療法や放射線療法の毒性による胃腸症状の軽減(吐き気や嘔吐など)、生活の質の改善に対する灸のさまざまな有益な効果を示すいくつかの小規模な単一の研究を発見した。しかし、報告が不十分であり、研究方法におけるバイアスのリスクが高いため、エビデンスの確実性が低下した。
 
 
結果は一定しないため、エビデンスのレベルは低いですが、血球細胞の増加を示した研究について、2018年コクランレビューに記述があります。
 
 
灸による血球細胞の増加は、1927年、京都帝国大学医学部の時枝薫博士『灸の実験的研究』、
1928年、京都府立医科大学の青地正徳博士『灸の血球並に血清に及ぼす影響 』、1929年、九州帝国大学医学部で研究された原志免太郎博士の『灸に関する医学的研究』と日本が鍼灸の科学的研究を歴史的にリードした分野になります。
 
1932年には金沢医科大学(現在の金沢大学医学部)の山下清吉博士が灸による白血球の変化の研究で医学博士を取得しています。
 
 
1932年山下清吉
「諸種ノ實驗的疾病ニ於ケル白血球ノ機能並ニ形態 : 其五 灸及ビ火傷ニ於ケル白血球機能ノ變化ニ就テ」
金澤醫科大學十全會雜誌 37 ( 1877-1898, 1932-08-01
 
 
1936年には長門谷丈一博士が『灸の実験的研究』で医学博士を取得していますが、やはり白血球や血小板に対する灸の効果の実験をおこなっています。
 
 
1936年長門谷丈一
「施灸時白血球像ニ就テノ實驗的研究」
『大阪医学会雑誌』35巻 1936年 p151-180
 
 
長門谷丈一先生は家伝のナガトヤ灸を受け継いだ医師・医学博士です。
近代日本の灸研究は、灸による血球の変化が研究の中心であったと思います。
 
 
 
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