膝痛(

 
2022年11月23日
『成人の健康コンディションへの鍼の使用:2013年から2022年システマティックレビュー』
Use of Acupuncture for Adult Health Conditions, 2013 to 2021
A Systematic Review
Jennifer Allen,et al.
JAMA Netw Open. 2022;5(11):e2243665.
 
 
 
『米国医師会雑誌(JAMA)』に発表された米国退役軍人省エビデンスマップでは「中程度の確定度のエビデンス」で「効果なし」でした。これは個人的臨床実感とまったく一致しません。
 
 
エビデンス・マップの根拠になっているのはアメリカ政府医療研究品質局(AHRQ)のシステマティックレビューでした。アメリカ退役軍人省(VA)も政府機関なので、これは政治的事情であると思います。
 
 
2020年4月
「慢性疼痛に対する非侵襲的非薬理学的治療:システマティックレビュー・アップデート」
Noninvasive Nonpharmacological Treatment for Chronic Pain: A Systematic Review Update [Internet]
Andrea C. Skelly,et al.
Agency for Healthcare Research and Quality (US); 2020 Apr. Report No.: 20-EHC009.
 
 
 
わたしの認識では、ひざ痛や変形性ひざ関節症は1992年コクラン共同計画の発足、1997年アメリカNIHの声明からはじまる、EBМ時代の最初にエビデンスが確立されていった疾病です。
 
2001年にメリーランド医科大学教授であったブライアン・バーマン先生が画期的なランダム化比較試験とシステマティックレビューを発表していきました。
 
ブライアン・バーマンが使っているツボは、中医学理論に基づき陽陵泉(GB34)・陰陵泉(SP9)・足三里(ST36)・犢鼻(ST35)・内膝眼と崑崙(BL60)・懸鍾(GB39)・三陰交(SP6)・太溪(KI3)でした。この場合のプラセボは鍼を皮膚に刺入せずにガイドチューブ(鍼管)にテープで貼り付けるものでした。
 
このプラセボのアイディアは本当に秀逸で、感心したことを20年たっても覚えています。
 
 
2001年「変形性ひざ関節症の鍼:システマティックレビュー」
Acupuncture for osteoarthritis of the knee: a systematic review.
Berman B.et al.
Arthritis Rheum. 2001 Apr;44(4):819-25
 
 
 
2004年にはスペインのヨルゲ・ヴァスが『英国医師会雑誌』 に陽陵泉(GB34)・陰陵泉(SP9)・内膝眼・外膝眼(=犢鼻)・足三里(ST36)への刺鍼で、97人のランダム化比較試験でNSAID(非ステロイド系鎮痛剤)単独で行う治療群よりも鍼との併用群が効果的であることを示しました。
 
 
 
2004年『英国医師会雑誌』
「変形性ひざ関節症の薬物療法の補完医療としての鍼:ランダム化比較試験」
Acupuncture as a complementary therapy to the pharmacological treatment of osteoarthritis of the knee: randomised controlled trial.
Vas J, et al.
BMJ. 2004 Nov 20;329(7476):1216. Epub 2004 Oct 19.
 
 
2001年から2006年にかけてドイツ政府は腰痛・膝痛・頭痛に関してメガトライアルを行いました。偽鍼は非経穴部位に浅く刺すものでした。2005年にドイツのクラウディア・ウィットが『ランセット』に「変形性ひざ関節症の鍼治療:ランダム化比較試験」を発表し、8週間治療した結果、「8週間後、痛みと関節の機能障害は鍼治療が偽鍼や浅い鍼や無治療群よりも改善した」と結論しました。
 
 
 
2005年『ランセット』
クライディア・ウィット
「変形性ひざ関節症の鍼:ランダム化試験」
Acupuncture in patients with osteoarthritis of the knee: a randomised trial.
Witt C.et al.
Lancet. 2005 Jul 9-15;366(9480):136-43.
 
 
 
2007年にイギリスのアドリアン・ホワイトが『リウマチ学』に発表した「慢性膝痛への鍼治療:システマティックレビュー 」において、「鍼は十分な基準において偽鍼よりも優れて患者の慢性膝関節痛の痛みと機能を改善した」と結論しています。
 
 
 
2007年「慢性ひざ痛への鍼治療:システマティックレビュー」
Acupuncture treatment for chronic knee pain: a systematic review.
White A, Foster NE, Cummings M, Barlas P.
Rheumatology (Oxford). 2007 Mar;46(3):384-90. Epub 2007 Jan 10.
 
 
 
2007年頃には、ひざ痛に対してドイツでは保険を使った鍼治療もできるようになり、もっとも世界的に早くエビデンスが確立したイメージがあったので、臨床的に効果的な鍼灸治療法を研究するほうにエネルギーを費やし、EBМのアップデートは、ひざ痛に関してはまったくしていなかったので驚きました。
 
 
あと、メリーランド医科大学のブライアン・バーマン先生はこの鍼研究の業績で医大の終身在職権を2003年に獲得し、2013年には全米トップドクターとなりましたが、2023年現在は引退されて名誉教授になられているようです。
 
 
ひざ痛に対する鍼の効果に関して議論がわかれるのは、おそらくエリック・マンハイマー先生が書かれた2007年のメタアナリシスと2010年のコクラン・システマティックレビューが原因です。
 
 
2007年『アナルス・オブ・インターナル・メディスン』
エリック・マンハイマー
「メタ・アナリシス:変形性ひざ関節症の鍼」
Meta-analysis: acupuncture for osteoarthritis of the knee
Eric Manheimer et al.
Ann Intern Med. 2007 Jun 19;146(12):868-77.
 
【結論】
偽のコントロールと比較して、鍼は変形性ひざ関節症に対して臨床的に意味のない短期的な効果がある。
 
 
 
2010年『コクラン・システマティックレビュー』
エリック・マンハイマー
「末梢性の変形性関節症の鍼」
Acupuncture for peripheral joint osteoarthritis
Eric Manheimer et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jan 20;(1):CD001977.
 
 
【著者の結論】
偽治療との比較試験で鍼は統計的に有意な効果を示しているが、その効果は小さい。
末梢関節変形性関節症に対する鍼治療の待機リスト対照試験は統計的に有意で臨床的に関連する効果を示唆しており、その多くは期待効果またはプラセボ効果による可能性がある。
 
 
エリック・マンハイマー博士は1969年にボストンに生まれ、1992年、23歳でジョン・ホプキンス大学の哲学科を卒業しました。
 
1995年にメリーランド医科大学の疫学の修士課程に入学し、1997年に疫学の修士号を取得します。
 
1997年以降はアメリカ・コクランセンターのコーディネーターとして働き、コクラン補完代替医療領域のシステマティックレビューを担当しました。
 
2007年に「メタ・アナリシス:変形性ひざ関節症の鍼」の作成を担当し、この業績で2013年に博士号を取得しました。現在はベンチャー企業で働かれています。
 
個人的意見では、エリック・マンハイマー博士はエツァート・エルンスト博士と同じく「深い鍼と浅い鍼のプラセボ問題」の深刻さにあまり知識がなく、鍼灸にあまり知識がないと推察します。
 
2008年にサイモン・シンとエツァート・エルンストが『代替医療のトリック』で、まさに鍼のプラセボ問題を問題提起します。
やはり、ランダム化比較試験におけるプラセボ鍼問題が大きいと思います。
 
 
 
 

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