「延年半夏湯について」
細野 史郎,et al.
『日本東洋医学会雑誌』9 巻 (1958) 4 号 p. 127-142
上記の写真はコタロー漢方の『延年半夏湯』の説明で、細野先生の論文をまとめてあります。
この細野先生の論文は「肩こり=痃癖(げんぺき)」について、ほとんど決定版の論文です。
まず、延年半夏湯についての文献的考察です。痃癖の主方である延年半夏湯は、『外台秘要方』に初出し、「腹内左脇痃癖硬急」「気満食する能わず」「胸背痛む」です。
隋代の『諸病源候論』に癖病を論じた癖病诸候があります。癖とは気血が偏る病です。「あの人は癖がある」とは、偏っているという意味です。気血の流れが偏って滞るのが癖です。
三焦が痞(つか)えて胃腸の水がめぐらなくなり、水漿が過多となり、停滞して散じないと、さらに寒気に遭って積聚(しゃくじゅ)を形成して癖となる。
隋代、『諸病源候論』
さらに『諸病源候論』は癖の一種である懸癖(けんぺき)という病名をあげています。脇が引きつって痛みます。
懸癖とは癖気が胸脇の間にあり、引きつって起きて、咳したら脇にひいて引っかかったように痛むので懸癖という。
隋代、『諸病源候論』癖病诸候
この懸癖は、唐代の王焘著『外台秘要方』で痃癖という病名となり、延年半夏湯が処方されました。
さらに、痃癖は宋代の『太平聖恵方』で詳しく論じられました。冷えによって気が停滞し、みぞおちやヘソの横がひきつる病です。
痃癖は邪冷の気が積聚して生まれる。痃癖は腹中の臍の左右に1本のスジが急にひきつれて痛む。大きなのは腕のようであり、小さいのは指のようであり、気によって起こり、弦のようにはり、痃気とも言う。癖は両脇の肋間にあり、かたよっているので癖という。痃と癖は名前は異なっていても鍼や薬石や湯液丸薬では区別しない。これはみな陰陽不和であり、経絡が通じず、飲食が停滞し、宣通・疏通せずに邪冷の気がかたまって散じずに起こるので痃癖という。
宋代『太平聖恵方』卷四十九
江戸時代、蘆川桂洲の1688年『病名彙解(びょうめいいかい)』ではこう論じられています
痃癖とは俗にウチカタといい、打肩または内肩とも書くが、肩を打つとこころよいからかく名づくのだともいい、また、その病が肩の内に発するから内肩と云うのだ。
世俗ではこの症状を肩のみにあるように云うがそれは誤りで、癖疾の発するところは必ずしもこの様に定まった所があるわけではない。多くの場合は脇腹の中にあるものだ。
そこから江戸時代の歴代名医の論説を紹介し、細野先生ご自身の痃癖および延年半夏湯の経験を紹介しています。
そして『延年半夏湯』の五大症状を提案されています。
(1)左肩こり
(2)心窩部痛
(3)左背側部痛(膈兪ー胃兪)
(4)左肋骨弓上下の痛み
(5)足の冷たいこと
さらに、胃の症状を指摘されています。
コタロー漢方の説明はわかりやすいです。胃・胸膈に停滞した水毒・ガス(気滞)であり、左肩こりや心下痞鞕があるものです。
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