慢性閉塞性肺疾患

 

 

「鍼治療が有効であった IV 期Chronic Obstructive Pulmonary Disease の一症例」
鈴木 雅雄,et al.
『全日本鍼灸学会雑誌』66(2), 111-117, 2016

 

2016年の鈴木雅雄先生の慢性閉塞性肺疾患の研究です。この論文では、71歳男性のCOPDを臓腑弁証で腎不納気と弁証しています。

治則は滋補肺腎で、中府(LU1)、尺沢(LU5)、列欠(LU7)、内関(PC6)、関元(CV4)、中脘(CV12)、足三里(ST36)、三陰交(SP6)、復溜(KI7)、肺兪(BL13)、心兪(BL15)、腎兪(BL23)に刺鍼で、1週間に1回の12回の治療でQOLが改善しました。

 

2018年10月、鈴木雅雄先生は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の論文を発表しました。

2018年10月24日
「固定性の慢性閉塞性肺疾患の栄養状態への鍼の効果:COPDの鍼試験、ランダム化比較試験の再分析」
Effects of acupuncture on nutritional state of patients with stable chronic obstructive pulmonary disease (COPD): re-analysis of COPD acupuncture trial, a randomized controlled trial
Masao Suzuki et al.
BMC Complementary and Alternative Medicine201818:287
Published: 24 October 2018

 

治療穴は、中府(LU1)、太淵(LU9)、扶突(LI18)、関元(CV4)、中脘(CV12)、足三里(ST36)、太溪(KI3)、完骨(GB12)、肺兪(BL13)、脾兪(BL20)、腎兪(BL23)でした。

扶突(LI18)が入っているのがユニークです。

結果として、体重が増加しました。慢性閉塞性肺疾患は原因不明の体重減少があります。全身の炎症があるのではないかと言われており、全身の鍼治療が炎症状態を改善したのではないかと推測しています。

 

次の論文は、もともと一流医学雑誌「アーカイブ・オブ・インターナル・メディスン」に2012年に掲載されたものです。

2012年「COPD患者の鍼治療のプラセボ対照ランダム化比較試験」
A randomized, placebo-controlled trial of acupuncture in patients with chronic obstructive pulmonary disease (COPD): the COPD-acupuncture trial (CAT).
Suzuki M,et al.
Arch Intern Med. 2012 Jun 11;172(11):878-86.

 

以前、臓腑弁証を教えていた頃に肺気虚の典型例として鈴木雅雄先生の2000年の肺気腫の論文をよく教材として使わせていただきました。

2000年「鍼治療が有効であった慢性閉塞性肺疾患の一進行例」
鈴木 雅雄et al.『日本東洋医学会雑誌』2000 年 51 巻 2 号 p. 233-240

中府(LU1)、尺沢(LU5)、関元(CV4)、中脘(CV12)、肺兪(BL13)の五穴でした。

慢性閉塞性肺疾患(=肺気腫)は息切れや咳、呼吸困難など典型的な肺気虚の症状が出ます。肺兪(BL13)ー中府(LU1)という兪募配穴+肺経の尺沢(LU5)を使われているので説明しやすいです。

 

2004年の鈴木雅雄先生の論文「慢性閉塞性肺疾患に対する鍼治療の臨床効果の検討」では、中府(LU1)、尺沢(LU5)、肺兪(BL13)、腎兪(BL23)、中脘(CV12)、関元(CV4)、と現在の配穴にかなり近づいています。

2004年「慢性閉塞性肺疾患に対する鍼治療の臨床効果の検討」
鈴木雅雄『明治鍼灸医学』 33 83ー97 2004

 

2005年の鈴木雅雄先生の論文「鍼治療が有効であったCOPDの1症例」では、太溪(KI3)、太淵(LU9)、中府(LU1)、中脘(CV12)、関元(CV4)、肺兪(BL13)、腎兪(BL23)とかなり補腎の要素が強くなっています。

「鍼治療が有効であったCOPDの1症例」
鈴木雅雄 et al.『日本呼吸器学会雑誌』 43(5): 289-295, 2005.

 

 

慢性閉塞性肺疾患は現代中国語では「慢性阻塞性肺病」であり、古典では「咳嗽」「肺脹」「肺痿」の範疇となります。

2008年の中国の論文、「慢性閉塞性肺疾患の中医弁証と予防の経験」は、肺・脾・腎から弁証しています。これは秀逸な見解だと思われます。

2008年「慢性閉塞性肺疾患の中医弁証と予防の経験」
慢性阻塞性肺疾病稳定期中医辨证论治与预防体会
俞凤英『中国中西医结合急救杂志』2008年3月第15卷第2期

 

肺は気の粛降を主り、腎は納気を主り、肺腎は共同作業で呼吸しています。COPDでは肺腎両虚は多いと思われます。また、COPDは謎の体重減少があります。肺脾気虚は多いと思います。「虚すればその母を補う」で、肺金の母である脾土を補います。

臓腑病を治療する際、慢性閉塞性肺疾患、五行の金である肺病ではありますが、五行の考えから五臓六腑全体から治療したほうが合理的だと思います。

 

2018年「中医学の非薬物治療による慢性閉塞性肺疾患の臨床研究の発展」
中医非药物治疗慢性阻塞性肺疾病稳定期临床研究进展
赖乾《中国中医药信息杂志》 2018年02期

この論文では、中国では慢性閉塞性肺疾患に膻中(CV17)、乳根(ST18)、関元(CV4)、中脘(CV12)、天枢(ST25)を使っていると書かれています。

 

英語圏での臨床研究分野では、2018年5月に北京医科大学と河南省の研究者たちがCOPDの鍼治療のシステマティックレビューを発表しています。

2018年5月
「慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の機能とQOLへの鍼治療:システマティックレビューとメタ・アナリシス」
Acupuncture Therapy for Functional Effects and Quality of Life in COPD Patients: A Systematic Review and Meta-Analysis.
Wang J et al.
Biomed Res Int. 2018 May 20;2018:3026726. doi: 10.1155/2018/3026726. eCollection 2018.

結論:鍼治療は慢性閉塞性肺疾患の機能とQOLを改善するかもしれない。

 

英語圏の基礎研究分野では、2016年ブリティッシュ・メディカル・ジャーナルの『アキュパンクチャー・イン・メディスン』に、COPDラットの肺兪(BL13)と腎兪(BL23)に鍼をしたところ、インターロイキン8(IL-8)と腫瘍壊死因子(TNF-α)の産生と炎症の減少が観察されました。おそらく、免疫系の調整を通じて全身性の炎症を抑制することが、鍼がCOPDに効果がある機序ではないかと考えられています。

2016年「タバコ煙による慢性閉塞性肺疾患COPDラットモデルの呼吸器平滑筋における鍼治療の長期的効果」
Long-term effects of acupuncture treatment on airway smooth muscle in a rat model of smoke-induced chronic obstructive pulmonary disease
Jia L et al.
Acupunct Med. 2016 Apr; 34(2): 107–113.
Published online 2015 Sep 7

 

 

「科学的に証明されたCOPD(慢性閉塞性肺疾患の鍼治療」
慢性閉塞性肺疾患、肺気腫の鍼灸治療に関する9分46秒の動画です。

 

 

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