2018年12月大邱韓医大学校 『神経科学フロンティア』
「ニューロペプチドサブスタンスP(SP)とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は鍼のツボの電気特性の根底にある」
Neuropeptides SP and CGRP Underlie the Electrical Properties of Acupoints.
Fan Y et al.
Front Neurosci. 2018 Dec 12;12:907. doi: 10.3389/fnins.2018.00907. eCollection 2018.
以下、引用。
【結論】現在の研究はツボの電気特性の根底にある新しいメカニズムを示唆している。ニューロペプチドサブスタンスP(SP)とカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)は神経原性炎症、血漿流出により皮下の水分含有量を累積させる。この研究はツボの電気特性に関する議論を解決する助けになるかも知れない。
2018年8月、台湾中医大学がツボの電気抵抗に関する論文を発表しています。
「中国伝統医学における経絡検出システムのアプリケーションの発達:予備的研究」
The Development and Application Evaluation of Meridian Energy Detection System in Traditional Oriental Medicine: A Preliminary Study
Yu-Chen Lee,et al.
Evid Based Complement Alternat Med. 2018; 2018: 9469703.
Published online 2018 Aug 6. doi: 10.1155/2018/9469703
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6106741/
以下、引用。
1950年代にツボの電気検出は最初に複数の名高い研究者たち、ラインフォルト・フォル(ドイツ)、中谷義雄(日本)、ニボイエ(フランス)によって紹介された。皮膚の電気で特徴づけられるポイントは伝統的なツボと似ていると別々に結論づけられた。
コルバートたちは2008年に低い皮膚電気抵抗と高い静電容量は鍼のツボの組織で特徴的であり、一定の臨床的疾病は特定のツボの高いまたは低いと関連しているかもしれないと報告している。
1950年、日本の中谷義雄先生が良導絡を発見しました。
1953年、ドイツの医師ラインホルト・フォルが井穴の電気測定をするEAV:フォルの電気鍼を開発しました。
1950年代にフランスのジャック・ニボイエはツボの電気抵抗の研究を行い、1955年にポール・ノジェと出会ってノジェに耳穴の研究発表を促しました。それでノジェの耳穴探索には電気抵抗をはかります。
1950年代から1970年頃まで、日本では間中喜雄先生をはじめ、ツボの電気抵抗を経絡と関連付けて論じる研究者が多く、世界のトップランナーでした。谷義雄先生の良導絡、石川太刀雄の皮電点、本山博のAMI(本山式電気臓腑経絡測定装置)などです。
しかし、日本では1970年代に変化が起こります。まず、世界的な鍼麻酔ブームで西洋医学の生理学畑の研究者が鍼灸研究に参入しました。1970年代から1980年代の「科学派」は、それ以前の経穴の電気抵抗研究を否定する傾向がありました。
『「良導絡理論の問題点と皮電点との比較–その理学的考察」を読んで』
七堂利幸、『医道の日本』1980年11月号、p21~24
「皮膚の低電気抵抗点の検出方法について」
川喜田 健司, et al.『全日本鍼灸学会雑誌』1981 年 31 巻 1 号 p. 5-10
https://www.jstage.jst.go.jp/…/jj…/31/1/31_1_5/_pdf/-char/ja
「ヒト皮膚電気抵抗測定の問題点(その1)」
小田 博久, et al.『全日本鍼灸学会雑誌』1982 年 27 巻 4-5 号 p. 87-92
https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/4-5/27_4-5_87/_pdf/-char/ja
2003年に日本の「科学派を代表する七堂利幸先生は「『医道の日本』誌上に見る半世紀の鍼灸論争」という記事で、皮電点・良導絡・本山博のAMI電気経絡測定器との論争を振り返って事実上の勝利宣言をされています。
「『医道の日本』誌上に見る半世紀の鍼灸論争」
七堂利幸『医道の日本』 62(6), 145-150, 2003-06
https://ci.nii.ac.jp/naid/40020372495/
しかし、「陽極まれば陰が生ずる」で、この経穴と電気抵抗の研究への勝利宣言の前年に世界では変化が始まっていました。
2000年代のヴァーモンド大学医学部アンドリュー・アンとヘレン・ランジュバン先生のツボと結合組織の研究からこのような経穴の電気抵抗の研究はリバイバルしはじめました。ファッシャの鍼研究者、ヘレン・ランジュバン先生 はNIHアメリカ国立衛生研究所内の アメリカ国立補完統合衛生センターの責任者です。
2002年ヘレン・ランジュバン「鍼の経絡経穴と結合組織の関係」
Relationship of acupuncture points and meridians to connective tissue planes.
Langevin HM, Yandow JA.
Anat Rec. 2002 Dec 15;269(6):257-65.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12467083
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/ar.10185
2005年ヴァーモント大学アンドリュー・アン
「鍼の経絡にそった結合組織と電気抵抗」
Electrical impedance along connective tissue planes associated with acupuncture meridians.
Ahn AC
BMC Complement Altern Med. 2005 May 9;5:10.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15882468
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1142259/
2007年ハーバード大学アンドリュー・アン『ツボの電気特性:技術問題とチャレンジ』
Electrical Characterization of Acupuncture Points: Technical Issues and Challenges
Andrew C. Ahn, M.D., M.P.H
J Altern Complement Med. 2007 Oct; 13(8): 817–824.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17983337
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2386953/
※従来の経穴電気測定器の問題点を指摘。
2008年5月アンドリュー・アン「ツボと経絡の電気特性:システマティックレビュー」
Electrical properties of acupuncture points and meridians: a systematic review.
Ahn AC1,
Bioelectromagnetics. 2008 May;29(4):245-56. doi: 10.1002/bem.20403.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18240287
2010年にはハーバード大学のアンドリュー・アンが、ヘレン・ランジュバンとともに、経絡経穴の下の皮下組織コラーゲンバンドと電気抵抗について論文を書き、この経絡経穴の電気抵抗の研究は完全にリバイバルしました。
2010年「経絡の電気抵抗:皮下組織のコラーゲン・バンドとの関連」
Electrical impedance of acupuncture meridians: the relevance of subcutaneous collagenous bands.
Ahn AC, , Langevin HM.
PLoS One. 2010 Jul 30;5(7):e11907.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2912845/
2011年アンドリュー・アン「皮下のファッシャル・バンド:定性および形態測定分析」
Subcutaneous fascial bands–a qualitative and morphometric analysis.
Li W1, Ahn AC.
PLoS One. 2011;6(9):e23987. doi: 10.1371/journal.pone.0023987. Epub 2011 Sep 8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21931632
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3169545/
2011年3月アンドリュー・アン「ツボの皮膚電気活動:文献レビューと臨床試験報告のリコメンデーション」
Electrodermal activity at acupoints: literature review and recommendations for reporting clinical trials.
Colbert AP1, Spaulding K, Larsen A, Ahn AC,
J Acupunct Meridian Stud. 2011 Mar;4(1):5-13. doi: 10.1016/S2005-2901(11)60002-2.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21440875
https://www.sciencedirect.com/…/arti…/pii/S2005290111600022…
※これは、良導絡など、多くの電気測定機械をレビューしてその欠点を指摘しています。日本の科学派と同じ立場です。
2011年12月アンドリュー・アン「ツボの電気活動の臨床的有用性:ナラティブ・レビュー」
Clinical utility of electrodermal activity at acupuncture points: a narrative review.
Colbert AP1, Spaulding KP, Ahn AC,
Acupunct Med. 2011 Dec;29(4):270-5. doi: 10.1136/acupmed-2011-010021. Epub 2011 Oct 14.
https://dbiom.org/…/Ahn_ClinicalUtilityElectrodermalActivit…
2012年アンドリュー・アン「ツボの電気ポテンシャル電位:非接触ケルビンプローブによるスキャンの使用」
Electrical potential of acupuncture points: use of a noncontact scanning Kelvin probe.
Gow BJ1, Cheng JL, Baikie ID, Martinsen OG, Zhao M, Smith S, Ahn AC.
Evid Based Complement Alternat Med. 2012;2012:632838. doi: 10.1155/2012/632838. Epub 2012 Dec 20.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3541002/
今、世界中で、経絡経穴と電気抵抗は再び研究されはじめています。特に韓国のプリモ・ヴァスキュラー・システムです。もともとは北朝鮮の金鳳漢教授が1961年に「経絡経穴の実態としてボンハン小体を発見した」と発表し、日本の大阪医科大学の藤原知教授が追試に成功して世界的なブームとなりました。ところが、藤原知教授以外は誰も追試に成功せず、政争で金鳳漢教授が処刑されたため忘れられた学説となりました。
ところが物理学者で韓国軍で人体の電磁波や生体電気現象を研究していた宋教授が2000年代に藤原知教授を訪れ、ボンハン小体を解剖で剖出するコツを伝授されたことで、2009年からプリモ・ヴァスキュラー・システムという名前で世界中で追試が行われています。もともと、金鳳漢教授は皮膚の電気抵抗と経穴の関係から研究を始めましたし、プリモ・ヴァスキュラー・システムの宋教授も皮膚の電気抵抗からボンハン小体の研究を開始しました。特に、2015年から2018年にかけてアメリカ、オーバーン大学のヴィタリィ・ヴォディアノフ教授が次々とプリモ・ヴァスキュラー・システムに関する論文を発表します。
2016年12月1日アラバマ州の名門オーバーン大学の公式ホームページ
「オーバーン大学の科学者が鍼がどのように作用しているかを解明する基礎となる『プリモ・ヴァスキュラー・システム』の微細構造を発見した」
Auburn scientist discovers microstructure of primo-vascular system, revealing possible foundation of how acupuncture works
http://ocm.auburn.edu/…/auburn-scientist-discovers-microstr…
2017年5月31日「このオーバーン大学の教授の発見は鍼を説明し長寿へと導くのか?」
Will this Auburn professor’s discovery explain acupuncture, lead to longer life?
https://www.al.com/…/2017/05/will_this_auburn_professors_di…
以下、引用。
ヴォディヤノフは彼の特許をとったマイクロスコープ・システムで、新しい脈管系の存在を確証したプリモ・ヴァスキュラー・システムである。それは小さく透明な脈と結節であり、ヴォディアノフはネズミのからだで写真に撮った。
「私たちの顕微鏡でさえその脈管は触れることもできず、見ることもできなかった。なにしろそれは透明だったからね」とヴォディヤノフは12月に出版された大学ニュースに答えている。しかし、黄色の染料でそれを染色できたとき、その結節の大きさは1ミリしかなかったが、結節の明瞭な構造が超高性能光顕微鏡で観察することができた。
2015年 オーバーン大学のヴィタリィ・ヴォディアノフ教授の論文
「キム・ボンハンによって示された原始脈管系」
Primo-Vascular System as Presented by Bong Han Kim
Vitaly Vodyanoy,
Evid Based Complement Alternat Med. 2015; 2015: 361974.
Published online 2015 Aug 25. doi: 10.1155/2015/361974
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4562093/
2016年オーバーン大学のヴィタリィ・ヴォディアノフ教授の論文
「現在の原始脈管系と研究と解決における技術的挑戦」
Technical Challenges in Current Primo Vascular System Research and Potential Solutions.
Vodyanoy V.
J Acupunct Meridian Stud. 2016 Dec;9(6):297-306. doi: 10.1016/j.jams.2016.02.001. Epub 2016 Feb 17.
https://www.sciencedirect.com/…/arti…/pii/S2005290116000406…
2018年オーバーン大学のヴィタリィ・ヴォディアノフ教授の論文
「サナル細胞サイクルと原始脈管系:サナルによる再生」
Sanal-Cell Cycle and Primo Vascular System: Regeneration via Sanals.
Kang KA1,2, Pustovyy O3, Globa L3, Sorokulova I3, Vodyanoy V4,5
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30178380
Adv Exp Med Biol. 2018;1072:413-418. doi: 10.1007/978-3-319-91287-5_66.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30178380
2018年にヴィタリィ・ヴォディアノフ教授が参加した論文は原始脈管系とは関係ないけど凄い内容でした。
2018年1月
「中脳水道灰白質におけるRNAシークエンスによる電気鍼鎮痛のメカニズムの探求」
Exploring the Mechanisms of Electroacupuncture-Induced Analgesia through RNA Sequencing of the Periaqueductal Gray
Man-Li Hu,1 Hong-Mei Zhu,1 Qiu-Lin Zhang,1 Jing-Jing Liu,1 Yi Ding,1 Ju-Ming Zhong,2 Vitaly Vodyanoy
Int J Mol Sci. 2018 Jan; 19(1): 2.
Published online 2017 Dec 25. doi: 10.3390/ijms19010002
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29295561
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5795954/
2018年12月、大邱韓医大学校が『神経科学フロンティア』に発表した論文はツボの電気特性について新たな仮説となるものです。
2018年12月「ニューロペプチド『サブスタンスP(SP)』と『カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)』は、鍼のツボの電気特性の根底にある」
Neuropeptides SP and CGRP Underlie the Electrical Properties of Acupoints.
Fan Y et al.
Front Neurosci. 2018 Dec 12;12:907. doi: 10.3389/fnins.2018.00907. eCollection 2018.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30618546
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