2018年10月19日 香港の新聞『サウスチャイナ・モーニングポスト』
「ヴァーチャルリアリティが中医薬大学の学生に鍼を学習する手助けをする」
Virtual reality helps Chinese medicine students learn acupuncture and doctors treat cancer
以下、引用。
ゴーグルをはめてゲームコントローラーを手に持ち、北京中医薬大学の学生たちは鍼のツボと経絡をマークした。
そのシステムはクラウドサーバーにおさめられて、ゴーグルを使うと学生たちは自習や予習に使える。中央政府にそのシステムの研究所を申請中である。北京中医薬大学は全国の中医薬大学でもっとも先進的なリーダーである。
医学的な拡張現実のハードウェアは発展途上であるが、拡張現実は近い将来大きな役割を持ち、中医師が経穴に鍼を刺す際にも使われるだろう。
多くの日本の鍼灸師は誤解していますが、現代の中医薬大学鍼灸の考えでは十四経の経穴は移動しません。私も触診せずに鍼を刺すと聞いて仰天しました。
移動するのは、学問的には阿是穴、圧痛点、反応点のカテゴリーに入ります。宋代の王惟一『銅人腧穴鍼灸図経』で国家標準を決めてから、腧穴十四経の経穴は動かなくなったのです。宋代の王執中の『鍼灸資生経』では、喘息に対して圧痛点に刺していることが明記されているから当時でも治せる人は阿是穴・反応点を刺していたと思うのですが。
現代の中医薬大学の中医師の先生は、触診せずに経穴に刺鍼しますし、刺したあとの脈診もしません。日本の澤田健先生や深谷伊三郎先生の「穴は移動する」という考え方とまったく違います。『銅人』で国家権力でマニュアル化して、文化大革命できちんと治療ができる家伝の中医師や老中医を追放したり、拷問死させた結果がこれです。
一方で、北京中医薬大学の王居易教授は経絡診察を唱えて触診を徹底的にして治療されています。日本の触診にもとづく鍼灸みたいです。この北京中医薬大学の態度は中世イスラムのスコラ哲学、二重真理説を思い起させます。
中世スペインのイスラム教・スコラ哲学者、イブン・ルシュドは 二重真理説を唱えました。これは一般市民の自由(真理)と哲学者の自由(真理)の2つがあるという考え方です。
一般市民は敬虔に権威である神を純粋素朴に信仰するのが「市民の自由(真理)」であり、哲学者は思考の探求を重ね、一般市民には想像もつかない「真理」を探求するというのが「哲学者の自由(真理)」です。井筒俊彦先生の本でこの二重真理説を読んだ時はひっくりかえりました。東洋医学・東洋思想は成熟した大人の学問なので、権威に盲従するタイプの方は老獪な東洋医学・東洋思想に向いていないのだと思います。
北京中医薬大学でのヴァーチャルリアリティを使った経絡経穴学習の動画です。
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