2020年3月27日イギリスの高級新聞『テレグラフ』
「『社会的距離』新研究は2メートルは不十分だと示している」
Social distancing: new study suggests two metres is not enough
感染者から2メートル以上離れてもまだ感染のリスクがある。
2020年3月26日にマサチューセッツ工科大学流体力学による疾病感染実験室のリディア・ブロイバ准教授が『アメリカ医師会雑誌(JAМA)』に発表した研究です。
2020年3月26日『 アメリカ医師会雑誌(JAМA) 』
「COVID-19の感染を減らすための乱流ガス雲と呼吸器病原体排出の潜在的な影響」
Turbulent Gas Clouds and Respiratory Pathogen Emissions
Potential Implications for Reducing Transmission of COVID-19
Lydia Bourouiba, PhD
JAMA. Published online March 26, 2020. doi:10.1001/jama.2020.4756
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2763852
私は同僚に「1m~2mの社会的距離にはエビデンスがなく、偽の安全感覚』以上の効果はない」と何回も伝えましたが、まったく伝わっていない気がします。ブロイバ准教授は辛辣です。
以下、『アメリカ医師会雑誌』より引用。
社会的距離戦略はパンデミック時代に重大だが、現在の呼吸器疾患のヒトーヒト感染の理解が1930年代のものであるということは驚くべきことであるかもしれず、現代の基準からは極度に単純化されすぎている。実装されている公衆衛生政策はあまりに古いモデルにもどついており、感染予防の効果には限界があるかもしれない。
ブロイバ准教授の論文には、エアロゾル感染理解のためにハイスピード撮影された動画もあります。この実験では、エアロゾル雲は8メートルにわたる雲を形成しています。
2020年4月2日のイギリス国営BBC放送は、以下の記事でブロイバ准教授に取材しています。
2020年4月2日イギリス国営BBC放送
『コロナウイルス:専門家パネルは一般人のフェースマスクを評価する』
Coronavirus: Expert panel to assess face mask use by public
https://www.bbc.com/news/science-environment-52126735
以下、引用。
マサチューセッツ工科大学の研究者は、ハイスピードカメラで咳やクシャミをした際に何が起こるかを評価した。その研究は、咳が6メートルも飛沫を飛ばし、くしゃみは8メートルも遠くに到達することをとらえた。
この研究をおこなった科学者、MITのリディア・ブロイバ准教授は現在の「安全距離」の概念について懸念していた。「われわれが吐き出す咳やクシャミはガス雲となって遠くにいきます。1メートルから2メートルが安全という「間違った考え」となるのは、吐き出した水滴がその地面に落ちているからですが、われわれMITが定量化し、計測し、直接、観察したものとは違います(MITでは6-8mが観察された)」。
ブロイバ准教授の考えでは、特に屋内で換気されていない室内にいるときは、マスクはリスクを減少させる。「たしかにマスクはフィルター効果がないので空中のスモール・パーティクルから防御したりはしない。しかし、フェースマスクはすごい勢いで正面から来たガス雲を側面にそらすかもしれない」とブロイバ准教授は述べる。
しかし、ブロイバ准教授は同時に『JAМA』の論文で以下のように述べています。
以下、『JAМA』から引用。
現在、使われているサージカルマスク・N95マスクは、これらの呼吸器疾患の特徴でテストされていない。
WHOの研究者は「一般人がフェースマスクをする場合、マスクのまわりの鼻の部分にテープを貼って固定したほうが良いかもしれない」とコメントしています。
アメリカでも4月1日にCDCとアメリカ公衆衛生局長官サージェン・ジェネラルが一般人のフェースマスクの効果を再調査しはじめました。
2020年4月1日『USAトゥデイ』
「アメリカ公衆衛生局長官はCDCにフェースマスク着用についてガイダンスをレビューするように依頼されたと言明した」
Surgeon general says CDC was asked to review guidance on wearing masks
2020年4月2日『CNN』
「アジア人がコロナウイルスとフェースマスクについて正しかったのかもしれない。残りの世界もマスクをつける」
Asia may have been right about coronavirus and face masks, and the rest of the world is coming around
カリフォルニア大学バークレー校のエイドリアン・バーチ先生によれば、コクラン・レビューですでにエビデンスがあるそうです。
2011年コクラン・システマティックレビュー
「呼吸器ウイルス疾患の拡散を減少させるためのフィジカル・インターベンション介入」
Physical interventions to interrupt or reduce the spread of respiratory viruses
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul; 2011(7): CD006207.
Published online 2011 Jul 6.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6993921/
以下、引用。
われわれはシンプルなサージカルマスクよりもN95マスクのほうがより効果的であるという「限られた証拠」を発見した。
限られた証拠!
この2011年のコクラン・レビューに以下の文章があるのは知っていました。
以下、引用。
グローバルな、そして国境でのスクリーニングや社会的距離といった対策の評価論文がないという発見は残念であった。SARSエピデミックの際の手元にある研究では(国境スクリーニングや社会的距離について)、いかなる確固とした結論にも到達できなかった。
呼吸器疾患にマスクが効果的というエビデンスが書かれたコクランレビュー論文には同時に「国境スクリーニングや社会的距離についてのエビデンスは存在しない」ことが書かれており「あちら(マスク)を立てれば、こちら(社会的距離)が立たない状態」なので、厳密なEBМ科学派の立場は大変です。ただ、最悪のシナリオを調べていると、日本社会はこれからの展開を直視することに耐えられずに、結局は「社会的距離」を選ぶ可能性が高いと感じています。
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