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【BOOK】『生命の閃光: 体は電気で動いている』


『生命の閃光: 体は電気で動いている』
フランシス アッシュクロフト
東京書籍 (2016/7/29)


鍼灸の世界で鍼麻酔の研究者、ブルース・ポメランツの業績は突出しています。
1976年にエンドルフィンによる鎮痛をナロキソンがブロックすることを発見しました。


1976年ブルース・ポメランツ
「ナロキソンはエンドルフィンが導く鍼鎮痛をブロックする」
Naloxone blockade of acupuncture analgesia: endorphin implicated.
Pomeranz B, Chiu D.
Life Sci. 1976 Dec 1;19(11):1757-62.

ブルース・ポメランツは1980年代に電気鍼による神経再生を報告します。
電気鍼、特に直流電気鍼をかけると、マクロファージ・骨芽細胞・線維芽細胞などが組織損傷部位に集まり、組織を修復する現象があります。これは次々と骨折部位を通常よりも早く修復したり、アキレス腱損傷部位を修復することが解明されていきます。


Effect of applied electrical fields on sprouting of intact saphenous nerve in adult rat
B Pomeranz et al.
Brain Res. 1984 Jun 15;303(2):331-6.


2003年から日本の井上基浩が電気鍼による神経再生を発表しています。


2003年「ラットの末梢神経再生に及ぼす鍼通電刺激の影響」
井上 基浩
『体力科学』52 巻 (2003) 4 号 p. 391-406


2009年には電気鍼による骨癒合促進の研究が発表されました。


「ラット脛骨骨折モデルの骨癒合能に及ぼす鍼通電刺激の効果」
中島 美和, 井上 基浩, 糸井 恵
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 59 (2009) No. 5 P 477-485


2011年には電気鍼によるアキレス腱修復の研究が発表されました。


「ラットのアキレス腱修復に与える鍼通電刺激の効果」
大井 優紀, 井上 基浩, 中島 美和、 糸井 恵, 北小路 博司
『日本温泉気候物理医学会雑誌』Vol. 75 (2011-2012) No. 2 p. 112-123

2016年のロシア科学アカデミーの論文はゲームチェンジャーでした。弱電の電磁気フィールドによる幹細胞の再生を論じました。


2016年10月26日 ロシア科学アカデミー
「経穴モデル:骨髄由来幹細胞は、電磁気フィールドによって駆動される」
Model acupuncture point: Bone marrow-derived stromal stem cells are moved by a weak electromagnetic field
Artem N Emelyanov
World J Stem Cells. 2016 Oct 26; 8(10): 342–354.

2018年から2019年はインドネシアが論文を発表します。


2018年4月「鍼の経絡経穴におけるさまざまな幹細胞とその推定される役割」
Various stem cells in acupuncture meridians and points and their putative roles
Jeanne Adiwinata Pawitan
J Tradit Complement Med. 2018 Oct; 8(4): 437–442.
Published online 2018 Apr 3.

2019年8月7日『幹細胞リサーチ&セラピー』
「ラットの薄い子宮内膜損傷の修復に対する電気鍼と骨間葉系幹細胞移植の相乗効果」
The synergistic effect of electroacupuncture and bone mesenchymal stem cell transplantation on repairing thin endometrial injury in rats
Liangjun Xia et al.
Stem Cell Res Ther. 2019 Aug 7;10(1):24

2020年はUCLAカルフォルニア大学ロサンゼルス校医学部の論文です。


2020年2月カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部
「電気鍼は神経幹細胞の成長を増大させる」
Electroacupuncture to Increase Neuronal Stem Cell Growth
Genia Dubrovsky, MD
Med Acupunct. February 2020; 32(1): 16–23.
Published online 2020 Feb 3.

電気生理学をつくったドイツの医学者、デュ・ボワ=レイモンは負傷電流を発見しました。
傷ついた筋肉や神経は陰極の電流を帯びるのです。

2011年にブレークスルーが起こります。カリフォルニアの生物学者たちが、創傷治癒の際のマウスと人間の皮膚で生成される電場をはじめて計測しました。


2011年「ヒトとマウスの皮膚創傷におけるエレクトリックフィールドのイメージング」
Imaging the electric field associated with mouse and human skin wounds
Richard Nuccitelli, PhD,
Wound Repair Regen. Author manuscript; available in PMC 2011 May 3. 

デュ・ボワ=レイモン の観察どおり、創傷部位には負傷電流が発生し、創傷部位は陰極となっていました。この電場を除去すると、創傷治癒は50%遅くなることが実験で確認されました。この電場にマクロファージ由来の骨芽細胞や線維芽細胞が遊走して引き寄せられるのです。2017年の台湾の論文は、直流電流による組織治癒に関する議論がよくまとめられています。


2017年「創傷治癒のための電気刺激:電極構成の影響シミュレーション」
Electrical Stimulation for Wound-Healing: Simulation on the Effect of Electrode Configurations
Yung-Shin Sun
Biomed Res Int. 2017; 2017: 5289041.

もともと日本の間中喜雄は負傷電流の除去を目的として、金鍼と銀鍼など異金属のイオン・パンピング鍼療法をはじめました。わたしも臨床で愛用しています。

しかし、研究の途中で、負傷電流はむしろ創傷治癒に必要であり、負傷電流の陰極こそがマクロファージを引き寄せ、創傷治癒を助けていたことを知りました。イオンパンピング療法の臨床効果は高いのですが、治効機序は間中喜雄の想定とは異なるのでした。これに気づけたことから、個人的な電気と鍼灸の臨床でブレークスルーが起こりました。その際に、間中喜雄先生の弱電の発想には本当に助けられました。

数十年にわたる弱電と鍼灸の研究でもっともよかったのは、現代が生物学における電気知覚の認識の革命の時代であると気づけたことです。

1951年にハンス・リスマンが夜行性で視力の弱いアフリカ・ナイフフィッシュで世界で初めて動物の電気知覚の存在を証明し、『ネーチャー』で報告しました。

1960年代にサメのロレンチーニ器官の研究がすすみ、サメやエイは100万分の1ボルトという極小の電位差を感知してエサを探していることが判明します。ナマズやモグラ、カモノハシやマルハナバチ、電気ウナギやイルカなど次々と電気知覚が発見されていきます。

『生命の閃光: 体は電気で動いている』の150ー160ページには電気知覚の実例が書かれています。しかし、人間だけは電気知覚が現状、認められていません。心電図や筋電図、脳波は人間の電気活動を計測しています。生物活動における電気の理解は、まだ解明されていない部分があるようです。

現時点では、ファッシャや創傷治癒、瘢痕の分野で「電気はどのようにして創傷治癒と関係しているか」の研究が急速に進んでいます。2015年、ワシントンDCで行われた第4回国際ファッシャ学術研究会議では、ファッシャと創傷治癒・瘢痕治癒が重要なテーマとなりました。

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