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李新吾先生の翼口蓋神経節刺鍼

 

针刺蝶腭神经节李新吾
https://v.qq.com/x/page/y066352xrje.html

この動画で李新吾先生の翼口蓋神経節刺鍼の全容がわかります。

 

「『翼口蓋神経節』刺鍼によるアレルギー性鼻炎の治療の概要」
针刺蝶腭神经节治疗变应性鼻炎综述
王志福 郑美凤 陈跃 吴炳煌 《福建中医学院学报》 2006年03期

 

北京耳鼻咽喉科研究所(北京同仁病院)の李新吾先生が開発されたアレルギー性鼻炎への
翼口蓋神経節(pterygopalatine ganglion:テラゴパラティン・ガングリオンまたはsphenopalatine ganglion:スフェノパラティン・ガングリオン)刺鍼です。

 

日本では2016年に『医道の日本』で取り上げられています。

「鼻づまり治療の新たな手法 翼口蓋神経節刺鍼」
建部陽嗣, 樋川正仁『医道の日本』 75(10): 162-164, 2016.

 

科学雑誌『ネーチャー』の『サイエンティフィック・リポーツ』では2016年7月に報告されました。

2016年「翼口蓋神経節刺鍼は、健康ボランティアでの鼻の通気を改善し、自律神経活動を調節する:ランダム化比較研究」
Sphenopalatine Ganglion Acupuncture Improves Nasal Ventilation and Modulates Autonomic Nervous Activity in Healthy Volunteers: A Randomized Controlled Study
Kuiji Wang, Luquan Chen, Yang Wang, Chengshuo Wang & Luo Zhang
Scientific Reports volume 6, Article number: 29947 (2016)

上記論文の写真の刺鍼角度は参考になります。中国鍼の29号(0.34㎜)から28号(0.38㎜)の太さの60㎜以上の長さの鍼を使用します。下関(ST7)の前1.5cmから内上方の四白(ST2)と外耳道の中点を頬骨弓の下をくぐるように刺鍼します。

 

鼻粘膜の副交感神経は顔面神経の中間神経→大錘体神経→翼突管神経→翼口蓋神経節から、
翼口蓋神経から鼻粘膜に分布します。翼口蓋神経は三叉神経の上顎神経の枝になります。

交感神経は交感神経幹の内頸動脈周囲神経叢→深錘体神経→翼突管神経→翼口蓋神経節から鼻粘膜に分布しています。

副交感神経が活性化すれば鼻汁の分泌は促進されます。交感神経が活性化すれば鼻粘膜の血管が収縮し、血液量が減って鼻粘膜が薄くなり、鼻道の抵抗は減少します。

 

翼口蓋神経節刺鍼では50mmの深さで刺鍼して得気しました。偽鍼では20㎜から30㎜の深さで得気をせずに刺鍼しました。翼口蓋神経節刺鍼群は鼻症状が改善しましたが、偽鍼群では症状が改善しませんでした。治療後に副交感神経から放出される血管作動性腸管ペプチドは変化せず、これは翼口蓋神経節刺鍼が副交感神経に作用していないことを示しています。逆にニューロペプチドYは増加しており、翼口蓋神経節刺鍼は交感神経を活性化させたようです。

 

もともと日本鍼灸の特徴の一つは傍神経刺鍼でした。ぜひ、この翼口蓋神経節刺鍼は練習したいと思います。

 

 

【日本における傍神経刺鍼の歴史】

1892年に群馬県の大久保適斎という外科医が『鍼治新書』治療篇・手術篇という文献を出版しました。この中には2寸や3寸の5番鍼で神経を標的に刺鍼する方法が書かれていました。「側頚部において頚動脈部に刺入して迷走神経を刺激して気管支疾患の治療をする等の治法」や「胃痙攣や消化器系の病気に対しては、胃兪や三焦兪、気海兪などから3寸鍼を深刺する」方法、肋間神経や坐骨神経の近傍を刺激する方法などです。

 

この大久保流は関西で大阪盲学校をつくった吉田多市先生や志岐与市先生・堀内三郎先生などによって広められます。さらに鹿児島出身で、大阪・高石市で活躍された郡山七二先生が多くの工夫を重ねます。

 

郡山七二先生は、(1)喘息への頸動脈洞刺鍼などの動脈刺、(2)便秘への府舎(SP13)穴付近のS状結腸刺鍼、(3)会陽(BL35)穴からの肛門刺鍼などの内臓刺(※1)、さらに1960年代に「眼窩内刺鍼」を開発し、多くの特殊刺法を開発しました。

 

大阪の森秀太郎先生の『はり入門―臨床にすぐ役立つ (1971年)』(医道の日本社、1971年)には、このような「肛門刺針」「S状結腸刺鍼」「眼窩内刺鍼」「鼻腔内刺鍼」「歯齦刺鍼」「星状神経節刺鍼」「上腕神経叢刺鍼」「腋窩神経刺鍼」「乳腺刺針」などの特殊鍼法が多数、掲載されています。

 

大久保流の気管支喘息への頸動脈洞刺鍼は、郡山七二先生や樋口鉞之助先生により1947年頃から多数、試みられていたようです。

 

以下、代田文誌「洞刺の臨床的研究」1ページより引用。

洞刺は昭和22年(1947年)頃から、われわれ鍼灸家の間で始められた新しい刺法である。はじめ大阪の樋口・郡山の二氏によって頸動脈付近への刺鍼が試みられ、樋口氏は五十肩に、郡山氏は気管支喘息に有効であると言っていた。

 

そして1947年(昭和22年)8月に代田文誌先生も石川日出鶴丸教授と相談し、頸動脈洞への刺鍼をはじめています。それを漢方で有名な細野史郎先生が「頸動脈穿刺に就いて」という論文(※4)を『自律神経雑誌』に発表しました。その後に代田文誌先生が頸動脈洞刺を高血圧の降圧に使うなど多くの応用研究をはじめました。代田文誌先生は大久保適斎についての本も書かれています(※5)。

 

1960年代に大阪の郡山七二先生が眼窩内刺針を創案します。1968年には大阪の三木健次先生が星状神経節刺針を創案します。1980年に明治東洋医学院の中村辰三先生が毛様体神経節刺鍼を創案します(※6)。1989年には明治東洋医学院の中村辰三先生のグループが陰部神経刺鍼を創案しました(※7)。

 

1970年代から1980年代にかけて神経刺鍼の開発分野では木下晴都先生の独壇場です。木下晴都先生は1971年5月に三叉神経痛で劇痛に苦しみ、西洋医学治療も浅刺も効かなかった患者に神経近傍への刺鍼で鎮痛に成功しました。次に1971年10月に坐骨神経痛の患者の坐骨神経近傍に深刺することで劇的な鎮痛を経験しました。

 

1974年に「三叉神経痛の傍神経刺」を学会で発表されます。眼神経には陽白(GB14)、上顎神経には迎香(LI20)やケンリョウ(SI18)、下顎神経には聴会(GB2)と下関(ST7)の間の「聴関」を用います(※8)。

 

1975年に腰痛の傍神経枝として、気海兪(BL24)や腎兪(BL23)、大腸兪(BL25)、関元兪(BL26)からの深刺を発表します(※9)。

 

1976年に坐骨神経の傍神経刺として大腰筋を標的とした大腸兪(BL25)、上後腸骨棘と大転子の間から梨状筋を目的とした転子、総腓骨神経を標的とした陽陵泉(GB34)への刺鍼を発表します(※10)。この時点で傍神経刺は神経近傍の筋肉のスパズムを解消するのが目的となっています。

 

1977年に後頭神経痛の傍神経刺として大後頭神経痛には天柱(BL10)、小後頭神経痛には天ユウ(TE16)への刺鍼を発表します(※11)。

 

1978年に頚腕症候群への傍神経枝として、前中斜角筋と腕神経叢を標的にした扶突(LI18)への刺鍼を発表します(※12)。

 

1979年には外側大腿皮神経痛、大腿神経、閉鎖神経(陰廉LR11))への傍神経刺鍼を発表します(※13)。

 

1980年には肋間神経痛の傍神経刺を発表します(※14)。

 

1981年には昭和大学の鍼麻酔研究者、武重千冬教授の指導で筋肉痛の研究を行い、刺鍼による局所の軸索反射、サブスタンスPなどによる血管拡張と局所血流改善が筋肉痛の鎮痛と関係していることを発表します。1986年にはこの知見を応用した交叉刺という筋肉への新刺法を創案しています。

 

2017年4月中国中医科学院 英国医師会雑誌の『アキュパンクチャー・イン・メディスン』で発表した「翼口蓋神経節は、鍼灸のニードルが到達できるのか?」
Can the sphenopalatine ganglion be reached by an acupuncture needle?
Lu Zhang et al.Acupunct Med. 2017 Apr; 35(2): 153–155.
Published online 2017 Jan 2. doi: 10.1136/acupmed-2016-011216

 

以下、引用。

翼口蓋神経節刺鍼は最初に1960年代に鼻炎の治療で使われ、1970年代の中国で広く臨床で実践された。近年、このテクニックは鼻炎の臨床で効果的であることが報告されている。

しかしながら鍼灸針が翼口蓋神経節に到達することは困難である。

付け加えるに翼口蓋窩の中の血管の直径は大きく、上顎動脈の翼口蓋セグメントに穴をあける可能性がある。クリニックでは翼口蓋神経節刺鍼のあとで下眼瞼部に出血があるのは普通のことであるが、それが血管損傷で引き起こされたかどうかは不明である。

 

それで6名の成人男性のご遺体に翼口蓋神経節刺鍼を行い、剖出しました。

以下、引用。

翼口蓋神経節は比較的に小さくて、個体の間でサイズに多様性があり、観察された結果からは側頭窩からの翼口蓋窩への鍼の挿入は可能ではあるが、翼口蓋窩には変動がないにしても(A、Bの図を見ること。翼口蓋窩は多様性が大きい)、(透視下で)ヴィジアルに観察しないかぎり翼口蓋下神経節に刺すのは難しい。この解剖学的研究では12回の挿入で2回(17パーセント)しか翼口蓋下神経節に触れることができなかった。

 

 

翼口蓋神経節刺鍼の解剖学的研究は中国でかなり盛んに行われています。

针刺蝶腭神经节三穴位的解剖研究
福建中医学院学报 2007年06期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-FYXB200706019.htm
https://wenku.baidu.com/view/11674037af45b307e8719720.html…

 

不同穴位针刺蝶腭神经节治疗变应性鼻炎应用解剖研究
王志福 《福建中医学院》 2007年
http://cdmd.cnki.com.cn/Article/CDMD-10393-2007162999.htm

 

经颞下窝入路毫针盲刺蝶腭神经节可行性及安全性评估
张路 房东亮 姜大魏 许智先 郭孟萌 陈立和 林佩君
《中国针灸》 2016年11期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTotal-ZGZE201611019.htm

上記の2016年『中国鍼灸』でも「鍼で翼口蓋神経節に触れる可能性は高くないが、臨床的効果は鍼の深度と関係している」と結論しています。

 

個人的感想ですが、日本の木下晴都先生は神経刺鍼ではなく、傍神経刺と正確に表現していました。神経節に鍼をあてて雀啄や捻鍼したら、神経損傷を引き起こす可能性があります。神経に刺すのではなく、神経近傍に刺す必要があるのです。中国の科学的研究は鍼麻酔の時代のパラダイムにとらわれており、そこから脱出するのは難しいかも知れません。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー
※1:郡山七二「立体針療の研究」
郡山 七二日本鍼灸治療学会誌
Vol. 17 (1968) No. 1 P 32-34
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/17_1_32/_pdf

※2:「頸肩腕症侯群と星状神経節刺針について」
三木 健次『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 17 (1968) No. 3 P 1-4
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/…/17_3_1/_pdf

※3:「洞刺の臨床的研究」
代田 文誌『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 13 (1963-1964) No. 1 P 1-15
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/…/13_1_1/_pdf

※4:「頸動脈穿刺 (Carotisstich) に就て (四)」
細野 史郎『自律神経雑誌』
Vol. 1 (1948-1951) No. 4 P 14-15
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1948/…/1_4_14/_pdf

※5:『杉山和一と大久保適斎』医道の日本社1982年
木下 晴都 、代田文誌
http://www.amazon.co.jp/dp/B000J7NPWO

※6:「毛様体神経節刺鍼法について」
中村 辰三et al.『自律神経雑誌』
Vol. 27 (1980) No. 1 P 192-195
https://www.jstage.jst.go.jp/arti…/jjsam1948/…/27_1_192/_pdf

※7:「陰部神経刺鍼の解剖学的検討」
北小路 博司、中村 辰三『全日本鍼灸学会雑誌』
Vol. 39 (1989) No. 2 P 221-228
https://www.jstage.jst.go.jp/arti…/jjsam1981/…/39_2_221/_pdf

※8:「三叉神経痛の傍神経刺」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 23 (1974) No. 1 P 11-14
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/23_1_11/_pdf

※9:「針による腰痛の臨床ー傍神経刺を中心として」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 24 (1975) No. 1 P 13-21,69
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/24_1_13/_pdf

※10:「坐骨神経痛に対する傍神経刺の臨床的観察」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 25 (1976) No. 1 P 1-9,65
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam1955/…/25_1_1/_pdf

※11:「後頭神経痛に傍神経刺を加えた臨床的研究」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 26 (1977) No. 1 P 32-35,78
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/26_1_32/_pdf

※12:「頸腕症候群に対する傍神経刺の臨床的研究」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 27 (1978-1979) No. 1 P 61-71
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/27_1_61/_pdf

※12:「上脚痛に傍神経刺を応用した臨床的観察」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 28 (1979) No. 1 P 24-29
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/28_1_24/_pdf

※13:「肋間神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究」
木下 晴都『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 29 (1980) No. 1 P 45-50
https://www.jstage.jst.go.jp/artic…/jjsam1955/…/29_1_45/_pdf

※14:「坐骨神経痛に対する傍神経刺の臨床的研究」
木下 晴都『日本温泉気候物理医学会雑誌』
Vol. 43 (1979-1980) No. 1-2 P 16-18,39
https://www.jstage.jst.go.jp/…/onki19…/43/1-2/43_1-2_16/_pdf

※15:「局所疼痛に対する針作用の実験的研究II: 強縮後の短縮高回復過程に及ぼす置針の作用」
木下 晴都『昭和医学会雑誌』
Vol. 41 (1981) No. 4 P 393-403

※16:「経験から実証への前進」
木下 晴都『全日本鍼灸学会雑誌』
Vol. 32 (1982-1983) No. 4 P 252-256
https://www.jstage.jst.go.jp/arti…/jjsam1981/…/32_4_252/_pdf

※17:「膝関節痛に特殊技術を応用した臨床的研究」
木下 晴都『全日本鍼灸学会雑誌』
Vol. 36 (1986) No. 2 P 113-118
https://www.jstage.jst.go.jp/arti…/jjsam1981/…/36_2_113/_pdf

※18:「握力回復に及ぼす交叉刺と平行刺の比較研究」
木下 晴都『全日本鍼灸学会雑誌』
Vol. 36 (1986) No. 4 P 288-293
https://www.jstage.jst.go.jp/arti…/jjsam1981/…/36_4_288/_pdf

http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-FYXB200603022.htm

 

 

 

 

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