脾陰虚 =WHO-ICD11のSpleen yin deficiency pattern

 

 

中医臨床 Vol.40ーNo.4(201―使える中医学の総合誌 特集:脾胃の調理を再考する
2019年12月

 

注目は128ページからの「江西中医薬大学、陳日新教授に聞く 江西で誕生した新たな灸法 熱敏灸」です。
やはり、以下の2008年論文を強調されていました。

2008年「灸の要点として、気至れば、効果がある」
灸之要,气至而有效
陈日新;康明非;
中国针灸2008, No.232(01) 44-46
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZGZE200801019.htm
http://blog.sina.com.cn/s/blog_5433aa7b0102dx2v.html

 

 

また、浅川要先生の「夾脊関」はものすごく面白いです!これはとにかく読まないと面白さが伝わらないです。

 

奥野繁生先生の「脾陰の系譜~脾陰虚を学ぶために~」もおもしろいです。神戸中医研の伊藤良先生の脾陰虚論文が中国に影響を与え、中医学における脾陰虚の復権に大きな役割を果たしたというのは凄い話だと思いました。

 

臓腑弁証で脾胃を研究する際にひっかかるのが脾陰虚と胃陰虚だと思います。実は、私はこれらの違いがわからないのでモヤモヤしていました。WHO-ICD11に入っているのに理解できませんでした。

 

【Spleen yin deficiency pattern(脾陰虚パターン) 】
飢えているが食べられない。やつれて無気力で便秘があり、唾液がとぼしく、唇が乾き微熱がある。舌は無苔で裂紋があり、細く速い脈である。

 

【Stomach yin deficiency pattern(胃陰虚パターン)】
ドライマウスで渇き、ノドが渇き、飢餓感または食欲減退があり、乾嘔し、しゃっくり、便秘がある。やや紅舌で薄白苔があり、速い脈である。

 

奥野繁生先生の「脾陰の系譜~脾陰虚を学ぶために~」 を読んで、脾陰虚について自分の中で整理できてスッキリしました。中医学の臓腑弁証の歴史について、このような歴史的な学説史のアプローチが重要だと思いました。

 

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【脾陰虚の資料】
明代、王綸著、『明医雜著』の「胃陽は気を主り、脾陰は血を主る」。

王纶 《明医杂着》枳术丸论
人之一身,脾胃为主。胃阳主气,脾阴主血,胃司受纳,脾司运化,一纳一运,化生精气,津液上升,糟粕下降,斯无病矣。人惟饮食不节,起居不时,损伤脾胃。胃损则不能纳,脾损则不能化,脾胃俱损,纳化皆难,元气斯弱,百邪易侵,而饱闷、痞积、关格、吐逆、腹痛、泄痢等症作矣。
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/mingyizazhe/680-5-19.html

 

 

明代、薛己著、『内科摘要』では「陰虚とは脾虚のことである」とあります。

《内科摘要》二、饮食劳倦亏损元气等症
夫阴虚乃脾虚也,脾为至阴,因脾虚而致前症,盖脾禀于胃,故用甘温之剂以生发胃中元气,而除大热。胡乃反用苦寒,复伤脾血耶。若前症果属肾经阴虚,亦因肾经阳虚不能生阴耳。
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/neikezhaiyao/870-4-2.html

 

 

明代、周慎斎の『慎斎遺書』《卷七》虚损では、脾陰虚の概念が吐血発熱や尿血などに拡大されました。

「若用清凉汗下,大伤脾胃,必致肺脏亦亏,又增咳嗽、吐痰、吐血等证;又作阴虚火动治之,则脾胃更伤。杂证多端,潮热似疟,皆因脾火盛脾阴不足,血枯之证,滋阴不宜,救阴可也,阴从阳生,阳从阴长。」
「验案一女人吐血发热,热甚而喘,用生脉散热更甚,脉或大,或小,或浮,或数,或弦,或涩,变易不常,知其脾阴虚而脉失信也。脉者,血之府,脾统血,血枯故变易不常耳。用保元汤加五味子、山药、杞子,白茯苓,人参重用至五钱,二帖而效,二十帖而愈。」
「便溏者,湿也,发于夏者,湿热之令助本病也。白术散和中利湿,加芍补脾阴。一小儿久热不退,一日三次发热,热后微汗,汗后发热,昼夜不息,气短促,诸药不效。此久病脾阴虚也。用保元、茯苓二帖而愈。」
https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&res=696559&remap=gb

 

 

明末の胡愼柔著、『慎柔五書』なんて初めて知りました。勉強になります。

《慎柔五书》虚损第三
损病六脉俱数,声哑,口中生疮,昼夜发热无间。经云∶数则脾气虚,此真阴虚也,此第三关矣。则前保元、四君等剂,皆投之不应,须用四君加黄 、山药、莲肉、白芍、五味子、麦冬,煎去头煎不用,止服第二煎、第三煎,此为养脾阴秘法也。服十余日,发热渐退,口疮渐好,方用丸剂,如参苓白术散,亦去头煎,晒干为末,陈米锅焦打糊为丸,如绿豆大,每日服二钱,或上午一钱,百沸汤下。盖煮去头煎,则燥气尽,遂成甘淡之味。淡养胃气,微甘养脾阴。师师相授之语,毋轻忽焉。
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/shenrouwushu/816-11-1.html

 

 

その後、脾陰虚の理論は展開されます。

明代、繆希雍著、『先醒斋医学广笔记』
“胃气弱则不能纳,脾阴亏则不能消。世人徒知香燥温补为治脾虚之法,而不知甘凉滋润益阴之有益于脾也。”“

 

明代(清代)、秦景明著、『症因脈治』
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/zhengyinmaizhi/index.html
“脾虚有阴阳之分,脾血消耗,虚火上炎,脾虽虚而仍热,若服温补,则火愈甚而阴愈消,必得滋补脾阴,则阳退而无偏胜矣。”

 

清代、呉澄著、『不居集』
“古方理脾健胃,多补胃中之阳,而不及脾中之阴”

 

清末、唐宗海著、『血証論』

《血证论》脏腑病机论
脾阳虚则不能统血.脾阴虚又不能滋生血脉.血虚津少.则肺不得润养.是为土不生金.盖土之生金.全在津液以滋之.脾土之义有如是者.
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/xuezhenglun/686-5-3.html

 

中華民国、張錫純著、『医学衷中参西録』

《医学衷中参西录》1.资生汤
治劳瘵羸弱已甚,饮食减少,喘促咳嗽,身热脉虚数者。亦治女子血枯不月。
脾为后天之本,能资生一身。脾胃健壮,多能消化饮食,则全身自然健壮,何曾见有多饮多食,而病劳瘵者哉?《内经》阴阳别论曰∶“二阳之病发心脾,有不得隐曲,在女子为不月,其传为风以其先不过阳明,胃腑不能多纳饮食也,而原其饮食减少之故。曰发于心脾,原其发于心脾之故。曰有不得隐曲者何居?盖心为神明之府,有时心有隐曲,思想不得自遂,则心神拂郁,心血亦遂不能濡润脾土,以成过思伤脾之病。脾伤不能助胃消食,变化津液,以溉五脏,在男子已隐受其病,而尚无显征;在女子则显然有不月之病。此乃即女以征男也。至于传为风消,传为息贲,无论男女病证至此,人人共见,劳瘵已成,挽回实难,故曰不治。然医者以活人为心,病证之危险,虽至极点,犹当于无可挽回之中,尽心设法以挽回之。而其挽回之法,仍当遵二阳之病发心脾之旨。戒病者淡泊寡欲,以养其心,而复善于补助其脾胃,使饮食渐渐加多,其身体自渐渐撤消。如此汤用于术以健脾之阳,脾土健壮,自能助胃。山药以滋胃之阴,胃汁充足,自能纳食。
http://www.zysj.com.cn/…/yixuezhongzhongcanxilu/513-4-1.html

 

 

現代の岳美中先生に至るまでの脾陰虚の学説史が整理されていて感動しました。

また、論文の途中で葉天士先生の『臨床指南医案』の胃陽・胃陰理論が触れられていることがありがたかったです。

《临证指南医案》脾胃
太阴湿土。得阳始运。阳明阳土。得阴自安。以脾喜刚燥。胃喜柔润也。
http://www.zysj.com.cn/lilu…/linzhengzhinanyian/602-6-6.html

 

呉鞠通著『医医病書(医医病书)』
「和胃有阴阳之别、寒热之分。胃阳受伤,和以橘、半之类;胃阴受伤.和以鲜果汁、甘凉药。品之类。」
https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&res=968926&remap=gb

 

2012年「中医学の脾陰学説の古今の文献研究のその学術源流の研究」
中医脾阴学说古今文献研究与其学术源流探析
黄一卓
《大连医科大学》 2012年
http://cdmd.cnki.com.cn/Article/CDMD-10161-1013271166.htm

※3.脾阴虚证的主要症状:神疲乏力、消瘦、口干(或口渴、咽干)、欲饮或不欲饮、食少、腹胀、食欲不振、大便干结(或便溏或便秘)、面色萎黄、手足心热、烦躁、唇干、失眠、腹泻、面色无华;舌象:舌红、舌淡红;苔象:少苔、少津、或无苔;脉象:脉细数、脉细、脉无力或脉细弱。

 

2015年「胃陰理論の検討研究」
胃阴理论探讨研究
冯雨露
《广州中医药大学》 2015年
http://cdmd.cnki.com.cn/Article/CDMD-10572-1015368992.htm
※胃阴虚证基本由实邪为害,原因大致包括六淫侵犯、饮食失制、其他脏腑牵连、情志过极、误治失治等等。胃阴虚证可见胃脘隐痛灼热、似饥不欲纳、或闷胀不适、干呕、呃逆、口干舌燥、大便干硬、小溲短赤等症状。

 

2012年「胃陽虚の弁証論治の解説」
浅谈胃阳虚辨证论治
孙华敏 吕翠霞
《山东中医药大学学报》 2012年03期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SDYX201203010.htm
https://www.ixueshu.com/…/3750cf6b88dc8b12ad01c1ba86d3ebc23…

 

清代、 林佩琴著『類証治裁』 に胃陽虚や脾陰虚、脾陽虚や胃陽虚の記述があります。

故治胃阴虚,不饥不纳,用清补,如麦冬、沙参、玉竹、杏仁、白芍、石斛、茯神、粳米、麻仁、扁豆子。
治胃阳虚,食谷不化,用通补,如人参、益智、陈皮、浓朴、乌药、茯苓、生术、地栗粉、半夏、韭子、生姜、黄米。
治脾阴虚,胸嘈便难,用甘润,如甘草、大麦仁、白芍、当归、杏仁、麻仁、红枣、白蜜。
治脾阳虚,吞酸嗳腐,用香燥,如砂仁、丁香、炒术、神曲、麦芽、干姜。如四君、六君、异功,凡守补皆脾药。
《类证治裁》脾胃论治
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/leizhengzhicai/592-15-1.html

 

胃阳虚者,用温通,人参、橘白、半夏、砂仁、荜茇、姜。
脾阳虚者,用健运,六君子汤加益智、神曲。
《类证治裁》肿胀论治
http://www.zysj.com.cn/liluns…/leizhengzhicai/592-15-13.html

「胃陰虚」「胃陽虚」「脾陰虚」「脾陽虚」という概念は、明代・清代・中華民国と続く中国伝統医学の歴史の中に伝承されてきました。歴史を研究することでようやく概念が理解できてきました。

 

 

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