『陸痩燕朱汝功鍼灸学術経験選』

 

 

『陸痩燕朱汝功鍼灸学術経験選』
陆瘦燕朱汝功针灸学术经验选
上海中医薬大学出版社1994年11月

 

陸痩燕先生と朱汝功先生の論文は最近、結構出版されています。

『伏鍼』『伏灸』を提唱した清代、上海の鍼灸家「神鍼」李培卿先生の末子の陸痩燕先生は、陸家の養子となったため、李姓ではなく陸姓となりました。

陸痩燕先生は18歳で開業し、1948年に夫人の朱汝功先生と「新中国针灸学研究社」を設立し、『燕庐医话』を出版しました。1958年には上海中医学院に招かれ、「焼山火」と「透天凉」を披露しました。1959年にはソ連に招かれました。1960年には上海中医学院に全国で初の鍼灸学部が成立し、主任となります。1966年には文化大革命により、反動分子の帽子をかぶせられてトイレ掃除の担当となり、1969年に迫害されて非業の死、おそらく拷問死、を遂げましたが、1979年に名誉回復しました。

 

陸痩燕夫人の朱汝功先生は1981年から2001年まで70歳でアメリカに渡り、アメリカで病気になって2001年に上海に90歳で帰郷しました。2011年に朱汝功先生は100歳となり、「陸氏鍼灸」は2011年から中国非物質文化遺産に登録され、中国では陸氏鍼灸の文献が多数出版されています。

 

「上海中医薬大学附属龍華医院 陆焱垚 (りくえんぎょう) 先生に聞く 現代中医鍼灸の復興に力を尽くした陸痩燕」
『中医臨床』 35(3): 426-432, 2014.

このインタビューには陸痩燕先生が創りあげた「鍼灸弁証論治」の図が載っており、必読です。

 

 

『陸痩燕朱汝功鍼灸学術経験選』は「陆瘦燕、朱汝功对针灸运用辨证论治与切诊方法的论述」が面白かったです。

陸痩燕先生は、弁証の際、やはり切診・触診を重視されていたそうです。

鍼灸処方配穴では、以下の7つが挙げられています。

(1)兪募配穴法
(2)表裏配穴法
(3)剛柔配穴法
(4)子母配穴法
(5)瀉南補北配穴法
(6)納支配穴法
(7)八脈八穴相配法

 

剛柔配穴法は「夫妻穴」とも呼ばれます。例えば、膝痛で陽干の陽陵泉(甲)と陰干の陰陵泉(己)を配穴する方法です。甲乙丙丁戊己庚辛壬癸を甲己、乙庚、丙辛、丁壬、戊己で合わせます。

子母配穴法は、難経六十九難の「子母補瀉」、瀉南補北配穴法は難経七十五難の「瀉南補北法」です。これはおそらく日本の経絡治療の影響ではないでしょうか。

一方、納支配穴法は子午流注鍼法の朝3時から5時の寅刻に肺虚の症状が出る場合、5時から7時の卯刻に太淵を補法する配穴法になります。

 

 

陸痩燕先生といえば「焼山火」と「透天凉」の科学的研究が有名ですが、『陸痩燕朱汝功鍼灸学術経験選』でも鍼の手法をしたら経穴の電気抵抗がどのように変化するかが論文になっています。陸痩燕先生が中医学院などの公的な場で活躍されたのは1958年から1966年の8年間であり、当時は日本の良導絡や赤羽根氏法などが中国の文献にも普通に載っていました。

 

陸痩燕先生の手技は「焼山火」「透天凉」「陰中隠陽」「陽中隠陰」「進気法」「留気法」「龍虎交戦」「子午搗臼」「青竜はい尾」「赤鳳迎源」「白虎揺頭」「蒼亀探穴」など、複式手法が中心です。

「焼山火」や「透天凉」は「九六補瀉」が入っていますが、これは『易経』の「九は陽数で、六は陰数」という占いの理論に由来します。陸痩燕先生の複式手法は九六補瀉がかなり入っていますし、子午流注の納支法なども使われています。かなり古典理論よりの印象になります。

 

 

 

これは『陸痩燕朱汝功鍼灸学術経験選』47ページの「十二経子母配穴一覧表」です。

肺には補土で「太淵・太白」
腎には補金で「復溜・経渠」
脾には補火で「大都・少府」
肝には補水で「曲泉・陰谷」
心には補木で「少衝・太敦」

というのは、日本の経絡治療の影響かと最初は思いました。

しかし、89ページの表を見て考えが変わりました。

肝経の虚証に対して「曲泉・陰谷」の補法、「中封・経渠」の瀉法が含まれた配穴が書かれています。これは韓国の一番有名な鍼の流派「舎岩鍼法」の配穴にそっくりです。

子午流注も、現代は肺虚に対して卯刻に太淵に補法・肺実に対して寅刻に尺沢に瀉法ですが、陸痩燕先生は肺虚も肺実も寅刻に太淵に補法、尺沢に瀉法とかなり違います。

 

五行穴を使った治療法は、日本の経絡治療、韓国の舎岩鍼法、中国の子午流注開穴法の3つぐらいしか生き残ってない(イギリスの『ファイブエレメント・クラシカル・アキュパンクチャー』は日本か韓国の影響)ので、陸痩燕、朱汝功先生の五行穴の使い方は興味深いです。

 

 

 

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