世界保健機構(WHO)、ICD-11の弁証論治では、六経弁証はSix stage patterns(シックス・ステージ・パターン)と表現されています。
(1)太陽病
英語ではEarly yang stage patternと表現されています。風邪の初期です。
このパターンは、発熱、悪寒、頭痛、関節痛、頸部の強直、浮脈で特徴づけられる。
冬に寒邪に傷つけられると傷寒となります。傷寒は風寒の邪気であり、体表の衛気を主る足太陽膀胱経から侵入します。
これは八綱弁証の表証(Exterior pattern)、寒証(Cold pattern)、実証(Excess pattern)になります。
北宋時代、1118年の朱肱著、『類証活人書』に「傷寒となり1~2日で悪寒発熱、頭項痛、腰背が強張り、脈が浮脈なら、これは足太陽膀胱経が病を受けたのである」と論じられています。
風寒(傷寒)の邪気が体表の衛気に侵入すると、正気が防衛のために体表に浮き、それを反映して浮脈となります。寒邪が衛気を押さえ込むので、布団をかぶってもゾクゾクして、寒気を嫌がる悪寒となります。正気と邪気が争う邪正闘争が激しければ発熱となります。
寒邪は収引の性質があり、経絡を詰まらせて「通じざればすなわち痛む(不通則痛)」ので、頭項強痛といって足太陽膀胱経が詰まって、頭痛やうなじの天柱あたりから大椎あたりがこわばって痛みます。
弁証:六経弁証の太陽病の太陽表実証です。
治則:発汗法で体表の風寒の邪気を散らす疏風散寒と辛温解表です。食養生は辛味で温性、発汗作用のあるネギ(葱白)とショウガのスープを飲んで布団をかぶって発汗します。 漢方処方として辛温解表の代表は、辛温解表で発汗作用のある麻黄湯です。
現代針灸における傷寒論の研究といえば、承淡安先生の「承淡安傷寒論新注」や楊甲三先生の六経弁証、高立山先生の「针灸心悟」「针灸心传」「针灸心扉」の三部作、単玉堂先生の『傷寒論針灸配穴選注』が有名です。
後漢の張仲景著、『傷寒論』でも「太陽病で初めに桂枝湯を内服し、それで煩して解さないものは先ず風府と風池を刺し、それから桂枝湯を与える」など多くの針灸の論述があります。
『傷寒論』辨太阳病脉证并治法上
太阳病,初服桂枝汤,反烦不解者,先刺风池、风府,却与桂枝汤则愈。
太阳病,发热,汗出,恶风,脉缓者,名为中风。太阳病,或已发热,或未发热,必恶寒,体痛,呕逆,脉阴阳俱紧者,名曰伤寒。
明代、楊継洲著『鍼灸大成』傷寒門 では「傷寒で汗が出ないものに、風池・魚際・経渠の瀉法と二間」という配穴をしています。風邪を去る風池に魚際や経渠や二間は一度、真似してみたい配穴です。
《针灸大成》伤寒门
伤寒汗不出:风池鱼际经渠(各泻)二间
(2)陽明病
英語ではMiddle yang stage patternと表現されています。風邪の中期です。
高熱、大発汗、腹痛、大渇して水を飲もうとする、潮熱、譫妄、不隠、あえぎ、顔は赤く、洪脈で滑脈、厚い乾燥した白苔または黄苔で覆われている。
陽明病は、大熱、大渇、大汗、脈洪大の「四大証」があります。風寒の邪気が足陽明胃経に進入し、正気と邪気が闘争して、もともと元気な人がカゼをひくと高熱が出ます。足陽明胃経に熱があるので、胃経が通る顔面が真っ赤になり、胃熱から口渇し、大汗をかきます。
脈は洪脈という洪水のような脈となります。足陽明胃経の熱盛の胃熱による陽明経証は自然と治ります。大発汗により陰液が不足し、陽明大腸腑が停滞して便秘になると、典型的な陽明腑証です。
症状は腹痛拒按、大便秘結、日哺潮熱で午後3時から5時頃に高熱になります。悪熱で布団をかけたり温めるのを嫌がります。実熱だからです。
弁証:陽明病の陽明腑証。
八綱弁証では裏熱実証で陽証になります。内臓の臓腑に邪気があるので裏証です。
裏証(Interior pattern)、実証(Excess pattern)、熱証(Heat pattern)、陽証(Yang pattern)
治則:瀉下通便
漢方処方では、下剤の大承気湯で便秘を瀉下します。
(3)少陽病
Late yang stage patternです。虚弱者などの場合、邪気が少陽経に入ります。表証の太陽病でも裏証の陽明病でもないため、半表半裏証と言います。足少陽胆経と手少陽三焦経に邪気が入ります。
悪寒と発熱が交代する往来寒熱となり、食欲不振、口苦く、のどが渇き、めまい、胸脇苦満、季肋部痛や季肋の不快感、白苔や弦脈。
症状:口苦、咽乾、目眩(めまい)、往来寒热、胸脇苦満、心煩、喜嘔、弦脈。
治則:和解少陽。
方剤:小柴胡湯
小柴胡湯は半表半裏を和解する方剤であり、少陽経を理気します。
少陽経の三焦は気と津液の通路であり、外は体表の皮毛の腠理と内は裏の臓腑をつないでいます。少陽経に邪気が侵入すると半表半裏証となります。足少陽胆経が阻滞されるために、胆経が詰まって胸脇苦満となります。
小柴胡湯証では、患者さんは感染しても微熱しか出ずにゾクゾクと悪寒したり、ボーっと発熱したりを繰り返します(往来寒熱)。咳やノドの痛みが続き、めまいや吐き気なども起こります。鍼灸では外関ー足臨泣に置鍼して、神闕に塩灸するのが個人的イメージです。
(4)太陰病 Early yin stage pattern
このパターンは腹満、嘔気、食欲不振、周期的に起こる腹痛、下痢、摂食量は減り、沈脈・遅脈・弱脈。
太陰病は足太陰脾経に寒邪が侵入した脾陽虚であり、下痢となります。
八綱弁証では裏寒虚証で陰証です。
代表方剤は理中湯などです。
(5)少陰病 Middle yin stage Pattern
横になって休息をとろうとして、四肢は冷えて下痢し、神経不安となり、眠ろうとし、細い糸のような数脈で、または微脈である。
少陰病は少陰心経と少陰腎経に寒が侵入して心腎陽虚から精神が混濁し、手足が冷えます。
八綱弁証では裏寒虚証で陰証です。
代表方剤は真武湯や麻黄附子細辛湯です。
(6)厥陰病 Late Yin stage Patterns
口渇し、気が上昇し、胸中は熱感があり、飢えているが食べたくない。下痢して四肢は冷える。
厥陰病では寒が足厥陰肝経に進入し、下焦の肝腎を損傷したために気が上昇します。厥陰病の本質は「気が上がって心を撞(つ)く(気上撞心) 」、つまり手厥陰心包経の虚熱と足厥陰肝経に寒邪が侵入したための足の冷えという病態があります。そのため手足の末梢は冷えているのに上熱下寒となります。上熱下寒、寒熱錯雑、気上撞心、手足厥冷、四肢逆冷が特徴です。
八綱弁証では裏寒虚証で陰証です。
四肢逆冷を「四逆」と言い、『傷寒論』の「厥陰病」の治療では四逆湯や当帰四逆加呉茱萸生姜湯が代表方剤です。
『黄帝内経素問・熱論』では「熱病とはすべて傷寒の類なり(今夫熱病者,皆傷寒之類也)」と論じられ、一日目は太陽経の頭項腰脊強痛など太陽・陽明・少陽・太陰・少陰・厥陰の六経の伝変が論じられ、『傷寒論』の六経弁証となりました。
『黄帝内経素問』熱論篇
傷寒一日,巨陽受之,故頭項痛腰脊強。
二日陽明受之,陽明主肉,其脈俠鼻絡於目,故身熱目疼而鼻乾,不得臥也。
三日,少陽受之,少陽主膽,其脈循脇絡於耳,故胸脇痛而耳聾。三陽經絡皆受其病,而未入於藏者,故可汗而已。
四日,太陰受之,太陰脈布胃中絡於嗌,故腹滿而嗌乾。
五日,少陰受之,少陰脈貫腎絡於肺,繫舌本,故口燥舌乾而渴。
六日,厥陰受之,厥陰脈循陰器而絡於肝,故煩滿而囊縮。三陰三陽,五藏六府,皆受病,榮衛不行,五藏不通,則死矣。
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