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エリザベート・シュテルナー=ヴィクトリン博士によるPCOSの鍼治療研究

 

2018年1月30日スウェーデン・カロリンスカ研究所発表
「1回の電気鍼は、多のう胞性卵巣症候群(PCOS)の脂肪組織におけるエピジェネティックと転写変化をリモデルした」
A Single Bout of Electroacupuncture Remodels Epigenetic and Transcriptional Changes in Adipose Tissue in Polycystic Ovary Syndrome
Elisabet Stener-Victorin et al.
Scientific Reports volume 8, Article number: 1878 (2018)

 

『ネーチャー』社の『サイエンティフィック・リポーツ』にスウェーデンのトップ医大、カロリンスカ研究所の教授であるエリザベート・シュテルナー=ヴィクトリン博士が発表した研究です。 一読してこれは画期的な研究だと思いました。エリザベート・シュテルナー=ヴィクトリンは不妊症や多のう胞性卵巣症候群(PCOS)の鍼の研究の第1人者です。


2012年にシュテルナー・ヴィクトリンがPCOSの低周波鍼通電療法を報告しました。

Acupuncture with manual and low frequency electrical stimulation as experienced by women with polycystic ovary syndrome: a qualitative study.
Billhult A, Stener-Victorin E.
BMC Complement Altern Med. 2012 Apr 3;12:32.

 

2013年にシュテルナー・ヴィクトリンが『多のう胞性卵巣症候群:鍼の卵胞誘導の効果とメカニズム』を発表しました。この論文でも多くの仮説が提出されています。

Polycystic ovary syndrome: effect and mechanisms of acupuncture for ovulation induction.
Johansson J, Stener-Victorin E.
Evid Based Complement Alternat Med. 2013;2013:762615.

 

2013年にシュテルナー・ヴィクトリンが最初のランダム化比較試験を行いました。鍼治療プラス運動エクササイズで改善が見られました。
Acupuncture and physical exercise for affective symptoms and health-related quality of life in polycystic ovary syndrome: secondary analysis from a randomized controlled trial.
Stener-Victorin E,
BMC Complement Altern Med. 2013 Jun 13;13:131.

 

今回の論文と直接関連するのは、以下の『米国実験生物学会連合(FASEB)雑誌』の2017年シュテルナー=ヴィクトリン論文です。

 

2017年「電気鍼に対する全身のグルコース取り込みの増加は、自律神経システムの活性化によるものである」
Autonomic nervous system activation mediates the increase in whole-body glucose uptake in response to electroacupuncture
Elisabet Stener-Victorin et al.
The FASEB Journal
Published Online:12 Apr 2017

 

私は5年以上前の2013年にエリザベート・シュテルナー=ヴィクトリン博士の100本以上の全論文のアブストラクトと全てのオープンアクセス論文を読む荒行をしたことがあり、今回は5年ぶりという久しぶりのアップデートです。今回は単なるPCOSの研究ではありません。筋収縮をともなう電気鍼をすると全身の糖代謝が変化し、全身の糖取り込みが向上します。

 

2010年に既に日本の研究者が鍼によって糖代謝および糖取り込みが改善されることを発表されています。

2010年「排卵障害女性の糖代謝及び月経周期に対する鍼の効果」
清水 洋二, 丹羽 邦明, 中沢 和美, 宇田川 康博
『日本温泉気候物理医学会雑誌』2010 年 73 巻 3 号 p. 202-211

 

このスウェーデンの実験の意義は、筋収縮を模倣した1回の低周波電気鍼療法が全身の脂肪組織DNAメチル化と遺伝子発現という変化をひきおこす最初の証拠を提供することです。

以下、引用。

特記すべきことに、電気鍼による遺伝子発現の減少は間質細胞で発現している。

脂肪に囲まれた結合組織の代謝はまだ確立されていないが、脂肪組織の拡張における細胞外マトリックスの役割は、調査中である。

1回の電気鍼のあとで増加した遺伝子発現はほとんどがT細胞やB細胞といった炎症細胞と関連しているのだが、インシュリン刺激による糖取り込み遺伝子とはまったく関係していなかった。それは炎症や血管新成、健康または病的な脂肪組織拡張における細胞外マトリックスの働きなどを示唆しており、電気鍼は脂肪組織における糖注入率よりはこれらの炎症プロセスに影響するのかもしれない。

 

PCOS患者はインシュリン抵抗性や肥満などの糖代謝の問題をもっていますが、電気鍼は全身の糖取り込みを改善します。そして、それらは従来考えられていたプロセス、インシュリン刺激による糖の細胞への取り込み遺伝子の発現とは全く関係せずにT細胞やB細胞やインターロイキンといった炎症と関連する細胞外マトリックス・間質細胞の部分と関連しているようです。これらの間質細胞のDNAメチル化は癌化とも関連しています。

 

つまり、この論文が与える影響はPCOSのみならず、皮下の結合組織・浅筋膜の部分や糖尿病や肥満などの糖質取り込み、鍼灸と免疫や炎症、細胞の癌化など非常にスケールが大きいと思います。

 

エリザベート・シュテルナー=ヴィクトリン博士の研究を私は何年も読んできたので言いたいことがわかりましたが、この論文単独で読んでもまったく意味がわかりません。ぜひ、著者のインタビューをつけてほしいです。

 

鍼麻酔・鍼鎮痛の研究以来、鍼と神経の関係は研究されてきました。ところが、2010年代後半になってから神経ではなくその周囲のグリア細胞から神経可塑性に関連した鍼の作用が解明されてきました。

これは鍼の機序の理解のパラダイムシフトです。さらに、現在、盛り上がってきているのは皮下の結合組織、細胞外マトリックス、皮下結合組織の浅筋膜の部分です。さらに神経ー内分泌ー免疫が絡み合って慢性炎症や慢性疼痛、さらに精神機能と関連してきています。

 

2018年3月「鍼による『肥満細胞(Mast Cells)』と神経シグナル伝道」
Mast Cells and Nerve Signal Conduction in Acupuncture
Na Yin et al. Evid Based Complement Alternat Med. 2018; 2018: 3524279.
Published online 2018 Mar 7. doi: 10.1155/2018/3524279

 

2019年1月
「電気鍼は、脊髄神経を切断されたラットの神経幹細胞より派生したニューラルネットワークの統合を促進する」
Electroacupuncture Facilitates the Integration of Neural Stem Cell-Derived Neural Network with Transected Rat Spinal Cord
Hui Jin et al.
Stem Cell Reports. 2019 Feb 12; 12(2): 274–289.
Published online 2019 Jan 17. doi: 10.1016/j.stemcr.2018.12.015

 

2010年代の電気鍼の基礎研究は、特に結合組織と神経可塑性の領域でパラダイムシフトの真っ最中であり、未知の次元に入りつつあります。この2年ほどは最先端についていくのがやっとの状態で、いまぐらい鍼の基礎研究を読んでいて面白い時代はないと思います。目の前で知識革命が起こっています。

 

スウェーデンのカロリンスカ研究所は世界トップレベルの医科大学です。電気鍼の周波数や鍼鎮痛、手技鍼と電気鍼の違いを研究したトーマス・ルンドベルクや不妊症の鍼治療の研究者エリザベート・シュテルナー=ヴィクトリン博士など、鍼の生理学的研究のトップを走っています。

また、カロリンスカ研究所のマリア・ブロムさんという女性歯科医が1992年頃にシェーグレン症候群の鍼治療の研究を始めて、鍼をすると局所のサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドが増加して局所血流が増えることを実験で最初に証明しました。鍼の治効機序の基礎研究を学ぶ際には、スウェーデンのカロリンスカ研究所の研究は必読です。

 

 

エリザベス・シュテルナー=ヴィクトリン教授の紹介です。

 

 

 

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