2019年3月20日『ネーチャー』
「科学者たちは『統計的有意』に対して異議申し立てを起こす」
Scientists rise up against statistical significance
やっとこの問題が取り上げられた感があります。
以下、引用。
2016年、アメリカ統計学会は声明において統計的有意とP値の誤用を警告する声明を出した。われわれ(ネーチャー論文の著者)も統計的有意という概念の廃止に合意し、呼びかけるものである。
2016年、アメリカ統計学会だけでなく、アメリカ医師会雑誌(JAMA)も同様のことを呼びかけています。
2016年3月15日の『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』
「1990-2015年の生物医学文献における『P値(P Values )』の評価報告」
Evolution of Reporting P Values in the Biomedical Literature, 1990-2015
David Chavalarias, et al.
JAMA.
2016;315(11):1141-1148. doi:10.1001/jama.2016.1952.
http://jama.jamanetwork.com/article.aspx?articleid=2503172
以下引用。
【結論】
このメドラインとPMCジャーナルの1990-2015年の『P値』の分析によってP値が過剰に報告されていることが判明した。ほとんどの論文アブストラクトではP値は統計的な結果の重要性を報告している。ほとんど全ての論文アブストラクトは信頼区間もベイズ因子も効果量も書かれていなかった。P値を記載する際には単独ではなく、効果量と不確実性メトリックを論文に記載すべきである。
この「P値禁止」問題は、日本では岩波書店の『科学』2013年7月号に津田敏秀先生が最初に取り上げました。津田先生はイギリスの疫学会で配られた「P値禁止」「論文に統計的有意と書くな」というTシャツを写真入りで紹介されています。日本では数少ない医学者で科学哲学を研究されている津田敏秀先生は、「日本の医学研究者における統計学知識の欠如は日本の医学部の歴史的・構造的な問題の表れに過ぎない」と非常に厳しく批判されていました。
これはわたしも常々、不思議に思っていたことです。疑似科学とみなされがちな社会心理学では、大学の授業の最初に「科学とは何か?」という科学哲学の基礎を徹底的に考えさせられます。だから、社会心理学を勉強した人は日本では珍しく科学哲学の基礎を学んでいます。世界的に、社会心理学者の世界ではこの傾向は同じです。
2015年10月、アメリカ社会心理学会の学術雑誌『基礎・応用社会心理学(Basic and Applied Social Psychology:BASP)』はP値の使用禁止を決定しました。
以下、引用。
BASP誌の編集者は「著者は今後もP値や帰無仮説有意性検定に類する統計学的手法が含まれた論文を同誌に投稿することはできるが、その部分は出版前に削除される」と明言しています。
『T&F社のBASP誌がP値の使用禁止を発表』2015年10月26日
さらに、2016年3月7日にはアメリカ統計学会がP値と決別する宣言を行いました。
「アメリカ統計学会のP値についてのステートメント:コンテクスト・プロセスと目的」
The ASA’s statement on p-values: context, process, and purpose
http://amstat.tandfonline.com/…/10.10…/00031305.2016.1154108
そして2016年3月15日には『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』に「P値は過剰使用されており、もしもP値を使用するなら効果量と不確実性メトリックを論文に記載すべきである」という論文が発表されたわけです。
ただ、断言できますが、これからも日本や中国の論文でP値は、いままで通り、誤用の形で使われるはずです。アジアの原理は科学ではなく権威主義だから、その世代の大先生方が引退するまで事態は変わらない可能性が高いと思います。日本に決定的に欠けているのは科学哲学です。「P値」「統計学的有意」という言葉を使えば科学と思い込む状況は当面、続くと覚悟しています。
日本計量生物学会の統計学的有意とP値に関する公式見解は以下の通りです。
統計的有意性とP値に関するASA声明
http://biometrics.gr.jp/news/all/ASA.pdf[pdf]
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